EUのリーダーとなったドイツ
英国が抜け、ドイツは名実ともにEUの大黒柱となりました。これまでもドイツは経済的には最強国であった訳ですが、若干対外的なアピールを抑えてきた感がありました。しかしこれからは自らビジョンを示して、EUを引っ張っていく必要があります。
EUの将来を考えれば、多くの難問が待ち構えています。最大の難問はユーロではないかと思います。ユーロはドイツやオランダの様な北の経済力の強い国とイタリアやギリシャの様な南の経済力の弱い国の両方で共通通貨として使われています。ユーロ導入により欧州内の移動が非常に便利になりました。それまでは、ドイツマルク、フランスフラン、イタリアリラ等国毎に通貨が違いましたので、欧州内で隣の国に行く度に両替をしなければならなかったのです。昔ギリシャのアテネからパリまでバスで移動した事がありますが、道中4つの通貨を使う必要がありました。両替の手数料も馬鹿になりませんので、ユーロ導入は外国人旅行者には朗報だった訳です。しかし最近このユーロ圏に軋みが出てきました。
ユーロ導入で得したドイツ
ユーロ導入により誰が一番得をしたかと言えば、ドイツです。ユーロ圏は米国に匹敵するほどの巨大市場(総人口3億3千万人)ですが、そこに共通通貨が導入されたことにより、為替差損無しにビジネスができる様になったわけです。最も競争力があるドイツはユーロ導入により、EUの大部分の市場を抑える事に成功しました。ドイツにとってもう一つ有利な現象もおきました。ユーロというのは先ほどお話しした様に、経済力の強い国と弱い国合計19か国で構成されています。ユーロの相場というのはユーロ加盟国全体の実力で決められますので、ドイツの様な強い国の実力からすれば弱い通貨を使える訳です。これはユーロ圏外に製品を輸出する際、非常に有利です。ユーロが導入される前は、ドイツはマルクという独自通貨を使っており、スイスフランと並んで最強の通貨の一つでした。ユーロになってからドイツは実力不相応な弱い通貨を使ってユーロ圏外の市場で勝負できる様になりました。
ユーロで苦しむ南欧の国々
一方、イタリアやギリシャの様な国にとってみると逆で、実力より強い通貨で勝負しないといけないので、これは大変です。イタリアリラやギリシャドラクマといった独自通貨を使った頃は、貿易収支が悪化すれば、通貨の価値が下がって輸出がしやすくなるといった仕組みが働いていたのですが、ユーロを導入してしまえば、そんなメカニズムも働かず、金利を上げ下げするといった景気対策も行使できなくなってしまいました。その上、ギリシャ金融危機などが起これば、北の経済強国であるドイツやオランダ辺りから、「おまえらもっと節約しろ。身分不相応にお金を使うからこんな事になるんだ。」と叱られて、公的債務を増やせません。今回のコロナ感染で多くの死者がイタリアやスペインに出たのは、EU本部からの強い指示を受けて医療に対する公的支出を削減した事が原因と言われています。
金融大国英国の知恵
英国はさすがに上手で、ユーロの持つこういった矛盾を最初から読んでいたのでしょう。彼らはユーロ圏に加盟しませんでした。国の持つ金融政策を封印するユーロという存在を彼らは許せなかったのだと思います。今回、EUを離れましたが、英国は最初から半身で構え、EUのいいところ取りを狙って加盟していたのだと思います。最終的に英国がEUから離れたのは、やはりドイツがコントロールするEUを嫌ったのではないかと思います。
EUの南北問題
今後EUが一体感を持ち続けるためには、ユーロの持つ南北問題を如何に解決するかという課題に向き合う必要があります。ユーロ圏の恩恵を一番得ているドイツがや経済弱者である南欧にある程度譲歩しないとユーロ圏そのものが長続きしないのではないかと思います。でもドイツ人はこういう時、「お前らが働かないからそんな事になるんだ。甘えるんじゃない。」と、上から目線になってしまいがちです。最近EU内で検討されているコロナボンドというコロナで影響を受けた企業や人々を支援するファンドについても、ドイツやオランダが猛烈に反対していると聞きます。ドイツ人は規律を重んじる国ですので、南の働かない人たちを見れば、腹が立つのだと思いますが、ここはキリギリスを追い返したアリのようにならず、EUをまとめるリーダーとして振舞う事が重要と思います。そうでなければ、ユーロ圏は崩壊しかねません。人の移動、お金の移動、物の移動この三つが揃ってユーロ圏は構成されていますが、肝心のお金の移動が自由にならなければ、その魅力は大きく失われると思います。ちなみに私は現在あまりユーロを保有していません。この南北問題がかたづくまでしばらく様子をみようと思っています。