コロナ関連の保険業界の損害20兆円を超える
ロイターに依れば、コロナ関連の保険業界の今年の損害額は2,000億ドル(21兆円)を超える見通しだと英国のロイズ保険組合が発表したそうです。
内訳はコロナ感染によるイベント中止や事業中断などに対する損害補償が、1,070億ドル、それに加えて資産が目減りする分が960億ドルだそうで、大型ハリケーンが何度も米国を襲った2005年の1,160億ドルを大きく上回る前例のない規模に達する見込みです。
保険って何?
保険というのは、歴史を紐解けば海上保険から始まった様です。「東京海上」と日本の保険会社の名前にもその名残がありますが、昔、遠洋航海は大変大きなリスクを伴うものだったのでしょう。
今の様に高度なナビゲーションシステムがある訳ではないですし、船自体の耐久性にも問題がありました。それに加えて、沈没、疫病、海賊による襲撃等リスクを数えだすと枚挙にいとまがありません。
それだけリスクが大きいにも拘らず、大海原に命がけで乗り出す冒険者が後を立たなかったのは、それだけリターンも大きかったのでしょう。アメリカ大陸を発見したコロンブスなどはその最たる例です。
コロンブスの場合は当時栄華を誇ったスペインのイザベル女王にポンとお金を出してもらえたのですから幸運でした。今風に言えば、イザベル女王は強力なベンチャーキャピタルでしょうね。しかしイザベル女王みたいな財力があって気前の良いスポンサーはおいそれとは見つかりません。
そこで生み出されたのが、海上保険という仕組みでした。この仕組みが発達したのが英国です。その中でもロイズは老舗中の老舗であり、今でもロンドンのシティで活発な活動を続けています。
無限責任をとるアンダーライター
実は、私もロイズの保険を付けようとした事があります。
私も関与するまで知らなかったのですが、ロイズの場合、ロイズという会社組織が保険のリスクを取る訳ではないのです。ロイズに登録しているアンダーライター(個人)が無限責任でリスクを取る仕組みになっています。
彼らは当然相当な資産家でありますが、最悪、賠償額が大きくなると自分の持っている有形無形の資産を全部売り払っても損害を補填する義務があります。もちろんアンダーライターは保険の条件を決めた後、他のシンジケートとリスクをシェアするらしいのですが、無限責任というのはすごいですよね。
中央アジアプロジェクトへの融資リスク
私の案件は中央アジアのある国で紡績工場を作る資金を、私が務めている会社が融資するというものでした。中央アジアの国は当時格付けが非常に低く、民間の銀行はどこも融資に二の足を踏んでいました。
唯一、国際協力銀行(JBIC)がお金を貸していましたが、この案件は日本製機器が使われないので、JBICのお金も使えず、やむなく自社がリスクを取って融資(数十億円規模)を行わざるを得なくなった訳です。
当然社内でもリスクが高すぎると反対の嵐で、なかなか伺いが通りません。そこでロイズに目を付け、融資の半分のリスクを引き受けてくれないか相談しに行ったのです。当時、私の会社はロイズの保険をプロジェクトにつけた事は一度もありませんでした。
ロンドンのロイズ本社のこじんまりした会議室に通された私の前に、初老の英国人紳士が入ってきました。彼がアンダーライター(無限責任でリスクを負う個人)でした。
簡単な挨拶の後、案件の説明を行い、その後質疑応答が始まりました。1時間近く続いたでしょうか。中央アジアの国での実績、政府との関係、製品のマーケティング等について拙い英語で説明しました。
面談の最後にその紳士は「有り難う。結果は追って連絡します。」との言葉を残し、去って行きました。駄目元でロイズにチャレンジした訳ですが、それから数日後、保険を引き受けるとの連絡があった時は小躍りして喜びました。
これで社内の伺いも通ると確信しました。しかし社内の反応は予想外で、「ロイズが引き受けるくらいなら、このリスクはそれ程大きくないのかもしれない。リスクを全部我が社で取ろう。」との結論に達しました。それまで反対、反対と言ってた人も手のひらを返した様に賛成に回りました。
権威のある第三者の意見に弱い典型的な日本企業の行動パターンでしたが、結果として社内でゴーサインが出たのはロイズさんというか、あの時引き受けてくれた初老の紳士のお陰でした。
後日談ですが、この案件は実際に融資が行われ、返済も行われました。やはりロイズのアンダーライターの目利きは確かだったという事でしょう。
無限責任の重み
自分の財産を全て投げ打っても損害を賠償するという立場だけに、案件を誰が担当していて、その細部まで当事者が把握できているかを確認するために、アンダーライターは案件を引き受ける前に、必ず案件の責任者と直に面談するそうです。やはり現場を大事にするんですね。
ロイズにはこういうアンダーライターが何人もいて、今も様々なリスクを分析し、保険引き受けの判断を行っています。みんなで渡れば怖くない式のやわなリスク管理では養えないこの経験、伝統はやはり英国の底力でしょう。ロンドン・シティでは世界全体の航空保険の6割、海上保険の3割が扱われていると言われています。(2017年時点)
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