IOCバッハ会長インタビュー
IOCのバッハ会長がBBCのインタビューを受けました。特筆すべきは下記の発言です。
「私たちは『オーケー、これまでだ。東京大会は中止しよう。』と言うこともできた。私たちの負担は保険でカバーできた。そうしてパリ(2024大会)の準備を始めることはできた。だが現実的な選択肢ではなかった。選手たちから唯一無二のオリンピック体験を奪う事になるからだ」
確かに4年に一度というのは重いですね。レスリングの伊調選手の様に大会4連覇なんてする人は例外中の例外で、選手生命のピークはほんの一瞬です。東京大会にピークを迎えた選手は、次のパリ大会では下り坂になり、メダルどころか、オリンピックの予選で敗退するのが普通です、昔、1980年モスクワ大会に日本がボイコットを決めた時に、マラソンの瀬古選手はまさにピークを迎えていました。モスクワ大会前後のマラソンではまさに敵なしの状態で連戦連勝を飾っていましたが、次のロサンゼルス大会では見る影もなく惨敗してしまいました。選手からしてみると、早く大会やってくれと祈る思いでしょう。
IOCの本音
バッハ会長の発言に依れば、一生を賭けてきた選手の思いが大会中止を思い止まらせたという事の様ですが、彼の発言を額面通りに受け取るのは危険だと思います。
オリンピックというのは開催都市、開催国家にかなりの負担を強いる行事です。オリンピックは、33競技、339種目が行われる大イベントですが、その中にはテコンドーや馬術などオリンピックでしか見ない種目も多く含まれているのです。そういう不人気種目も含め開催しないといけないのがオリンピックであり、そのために大きな負担が、開催都市にのしかかるのです。過去のオリンピックでも採算が取れた大会は僅かです。
東京都も日本政府もその準備に相当なお金をつぎ込んできましたから、もしここであっさりIOCが大会を中止したら、オリンピックを今後引き受けてくれる都市がなくなるという危機感がIOCにはあったのではないでしょうか。
オリンピックは確かに重要な大会ではありますが、サッカーの国際競技連盟であるFIFAにしてみれば、オリンピックよりワールドカップが重要です。人気競技であればあるほど、オリンピック離れが進みやすく、IOCはこの点、かなり危機感を持っていると思います。
コロナウイルスの様なパンデミックは再び起こりかねませんので、日本での大会を中止すると、衛生状況が悪い国だと今後開催できなくなるという不安もあったと思います。
来年の東京オリンピックのわずか半年後には北京冬季オリンピックが控えています。東京がダメになれば冬に行われる北京も中止になりかねません。
これまでとは全く違うオリンピックに
この文脈で言うと、バッハ会長は次の様にも発言しています。「来年の大会は、不可欠なものに集中し、明らかに違ったものになるし、ならなくてはならない。」
これが何を意味するかですが、具体的には、下記の様なものが考えられます。
- 無観客で競技を行う。
- 開会式や閉会式は中止、或いは極力人数を絞る。
- 競技を終了した選手は速やかに帰国させ、滞在期間を短縮させる。
- 選手村は完全に外部と閉鎖され、競技場への移動もシャトルバスを使用し、一般市民との接触を避ける。
- 抗体証明書の無い選手、役員は競技への参加を認めない。
- 抗体証明書の無い選手、役員は、日本入国後、2週間の隔離施設での滞在を経て競技への参加が認められる。
- 大会観戦を目的の外国人旅行者にも上記条件を適用する。
今後、抗体証明書はパスポートと同じ程度に重要になってくると思われますが、ワクチンが普及しないと抗体ができません。来年の大会にワクチンが間に合うかといえば、微妙ですね。しかしオリンピックの代表選手には優先的にワクチン接種が行われるとすると、可能性が有るかもしれません。
ブンデスリーガの経験が活かされるか
ドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガが予想を覆して、公式戦を再開しました。完全無観客ですが、バッハ会長の母国ドイツで競技が再開されたことは注目すべきことと思います。
無観客のオリンピックの舞台に臨む選手達は、観衆の声援が無く、今一つ乗りが悪いかも知れませんが、世界一を決める大会に参加できる事の方が大事でしょう。ブンデスリーガのコロナ感染下での大会運営の手法は、IOCやJOCにとっても非常に参考になると思います。
バッハ会長はBBCとのインタビューで、「ワクチン開発が必須の条件か」という質問に答えていません。ブンデスリーガもワクチンが開発されていない段階で再開された訳ですから、場合によっては、抗体証明書無しに開催しようと思っているのかも知れません。
IOCにとってみると、一番大事なのはアメリカのテレビ局からの莫大な放映権収入ですから、無観客でもそれほど懐は痛みません。(JOCは困るでしょうが。)
個人的には世界中から集まったアスリート達が、他国の選手やボランティア達と、新橋の焼き鳥屋で交流するなんて事を期待していましたが、今回は無理でしょうね。先ほどのバッハ会長の言に依れば、そういう交流なんてのは(IOCにとって)不可欠ではないのですから。しかしオリンピックの起源は、交戦中のギリシャの都市国家たちが、オリンピックの時期だけは矛を収めて、交流を図ると言うものではなかったのでしょうか。
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