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香港問題の本質ーなぜ国家安全法を急ぐのか

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トランプ大統領の決断

遂に5月29日、香港の自治を脅かす国家安全法の導入に反対して、トランプ大統領は、香港に認めてきた優遇措置の一部を撤廃すると述べました。

この国家安全法に関しては、幾つか疑問がわいてきます。

  1. そもそも国家安全法って何?
  2. ここに来て国家安全法制定を急ぐのは何故?
  3. 国家安全法は中国の国会に当たる人民代で議決されましたが、香港にも議会があるのに何故?

上記の問いに関して、ロイターとウォールストリートジャーナルで関連記事を見つけましたので、かいつまんでご説明したいと思います。

国家安全法って何?

ロイターによれば、「香港の自由は、中央政府と香港の関係を定めた香港基本法(香港における憲法)によって保護されている。但し、その23条は、香港政府が「自ら国家分裂や政権転覆などを禁じる法律を制定しなければならないとしている。香港政府は2003年に立法を試みたが、参加者が50万人を超える大規模デモを招いたため、頓挫した経緯がある。」と報じています。

要すれば、もともと香港の憲法にあたる香港基本法には、国家安全法を制定する事が盛り込まれていたんですね。注目すべき点は、この法律は香港政府自らが制定しなければならないと定められている点です。

ここに来て国家安全法制定を急ぐのはなぜ?

ウォールストリートジャーナルはこの点について、次の様に述べています。

香港市民の多くは、中国政府が国家安全法を導入するにあたり、香港の立法会(議会)を利用すると考えていた。議会は親中派の政治家がそろうよう仕組まれているからだ。中国政府による一方的な強制は、『高度な自治』の原則を崩す禁じ手で、その可能性は少ないとみられていた。

中国政府が急ぐ事情はありそうです。今年の9月に香港の立法会の議員選挙があり、民主派が勝利する可能性が十分あると予想されています。

そうなれば、国家安全法はいつまでたっても制定されない、或いは制定されても、骨抜きにされてしまうとの危機感が中国政府にあるのではないでしょうか。

従い、中国政府による一方的な強制という「禁じ手」を使ってでも、国家安全法を急ごうという判断に至ったものと思われます。

今年に入って、中国政府は定年に達していたはずの共産党の大物を、香港対策の責任者に任命して、国家安全法の準備を進めてきたとウォールストリートジャーナルは伝えています。 

国家安全法は中国の人民代で議決されましたが、香港にも議会があるのに何故?

この点について、中国外務省・香港事務所長の謝鋒氏は、次の様に述べています。

中国政府は香港に対して、数十年にわたり同様の法律を自主的に制定するよう求めていた。中国政府には国家安全法を香港の憲法に当たる「基本法」の下に直接導入する権限があり、安全保障問題が差し迫っているため行動を起こした。

これに対しては当然異論があります。先も述べた様に、香港基本法では、この国家安全法を定めるのは香港の立法府であると定められていますから、今回の香港立法府を迂回する形での中国全人代の決定は法的拘束力があるのかとの疑問があります。

香港の弁護士会は国家安全法を定めるのは香港立法府であるとの見解を発表しています。

 習主席の苦渋の決断

今回の国家安全法に関する中国政府の強引とも言える判断には背景がありそうです。

昨年10月「逃亡犯条例(香港で逮捕された容疑者を中国政府に引き渡せる)」の導入にあたって、香港で大規模なデモが起こり、結果的に、この条例導入を香港政府が諦めた事は記憶に新しいところです。

習主席は独裁者の様に思われていますが、中国共産党という組織は複数の派閥の微妙なバランスの上に成り立っている様で、習主席も逃亡犯条例や米国との貿易戦争に関しては、党内対立派の批判にさらされている様です。

従い、今回の国家安全法については、おいそれと引き下がれない立場に置かれていると推測します。

しかし、ただでさえ、コロナの影響で、米中関係が悪化している中、今回の強引な中国の判断は、火に油を注ぐ結果になりそうです。

香港は国際金融ハブとして、中国企業及び中国地方政府が有利な資金調達を行なう貴重な場所を提供してきました。その意味では、中国は一国二制度の恩恵を享受してきたのです。

しかし、金融ハブには高度な自治と法による支配が必須条件です。これが脅かされる様な場所にはお金が集まってきません。中国政府が、ここで禁じ手を使ってまで国家保安法を成立させれば、香港の金融ハブとしての地位は大きく損なわれるでしょう。

 

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