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香港市民に海外市民権を与えた英国の巧みな戦略

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香港の民主活動家ロンドンに移動

香港の有名な民主活動家Naythan Law氏は、しばらくの沈黙を破り、「自分は今、ロンドンに居る。」とツイッターに投稿しました。

彼は英BBCのインタビューに答え、「中国による国家安全法の導入により、私は市内でデモを行っても、裁判を公聴しても、投獄される危険に直面しました。香港の民主活動は未だ生きています。私は国外から彼らを応援していきます。」と語っています。

彼の様に香港から英国に脱出する人はこれからも増えると思います。

というのも、英国は香港市民に対して思い切った受け入れ策を発表したからです。

英国は、香港が中国に返還された1997年以前に生まれた香港の住民及びその扶養家族約300万人に対して英国の海外市民権を与えると7月1日に発表しました。

海外市民権パスポートを持つ香港市民は英国で5年間の就業ビザが与えられ、この5年間が過ぎれば、永住権申請への道が開けます。

この決定は、さすが大英帝国、強権を振るう中国に対してよくぞ立ち上がってくれたとの印象を世界に与えました。

確かに、中英共同宣言で一国二制度を約束した英国が、約束を守れなかった香港市民に救いの手を差し伸べたと言う一面もありますが、一方で、この決断には、英国のしたたかな戦略が絡んでいる様にも思います。

英国のしたたかな戦略

英国は、移民や難民受け入れにそれほど積極的な国ではありません

欧州では、ドイツの方がシリアなどからの難民受け入れに積極的で、英国がEU離脱を決断した理由の一つが、東欧あたりからの移民が多く、イギリス人が職を奪われているというものでした。

そんな英国が、何故香港市民に移民の道を開いたのか、不思議ですよね。

英国は香港の価値の高い人材に狙いをつけているものと思います。

香港は国際的な金融ハブです。しかも世界で最も成長率の高いアジアの中心地です。

香港が金融ハブとして評価を受けているのは、金融業界で働く人材はもちろん、それを支える弁護士や税理士などスキルを持つ人がたくさんいるからです。

彼らは英語が上手な上に、中国や東南アジアの資産家や有力企業との人脈も有しています。

こんな人材は、どの国も喉から手が出る程、欲しい人材です。

ブレグジットのマイナスをアジアで取り戻す

英国はEUから離脱した為に、欧州の金融ハブとしての地位が失われるのではと推測する人もいます。

私は分厚い人材を誇るロンドンは、そう簡単にその地位を手放すとは思いませんが、ブレグジットが金融ハブとしてのロンドンに悪影響をもたらすことは間違いありません。

そんな中で、英国は香港の優秀な人材を受け入れ、ブレグジットで失われる経済的損失を取り戻そうとしているのではないでしょうか。

英国は最近TPP環太平洋パートナーシップ協定)への加盟を検討し始めました。

えー、英国は欧州の国であり、環太平洋の国では無いじゃないかと思われる方も多いと思いますが、英国は真面目に検討しており、日本を始め11の加盟国もこれを受け入れる準備を始めています。

英国は間違いなく、アジアにターゲットを定めています。

彼らの本当の狙いは香港の優秀な人材の受け皿となって、アジアの金融市場を手に入れると言うものではないでしょうか。

英国のパスポートを得た香港市民は、香港に留まっても良いですし、ロンドンでアジアのオペレーションに参加しても良い。いずれにせよ、英国に大きな利益をもたらしてくれるでしょう。

英国は300万人近い香港市民に英国のパスポートを与えると発表していますが、ほとんどの人は香港に留まります。

特に年老いた人は、英国に移住なんて考えません。

結局、若くて優秀な人だけ英国に移住する筈です。

英国はここまで計算に入れて、今回の受け入れ発表を行ったと思います。さすがにしたたかですね。

今回の英国の決定は、もう一つ大きな効果をもたらすと思います。

それは、英国の海外市民パスポートを与える事によって、香港市民にいざとなれば英国に脱出できると言う安心感を与えた事です。これは大きいですね。

香港市民は、9月に予定される香港の立法会(香港の国会にあたる)選挙までは、少なくとも香港に留まり、様子を見ようと判断しているのではないかと思います。

史上初めて民主派が勝利するかもしれないと言われる今回の選挙結果次第では、香港の状況にも大きな変化が見られるかもしれません。

中国政府にとっては、一番嫌な手を英国が打ってきたと言えるでしょう。

中国が強硬な手段に出れば、優秀な人材は雪崩を打って香港を離れていきますので、中国に対する抑止効果は高いと思います。

日本の取るべき戦略

日本はじゃあどうすれば良いのでしょうか。

本当は、日本こそ香港の優秀な人材を移民として受け入れて、東京を金融ハブにすべきなのですが、移民の受け入れに消極的な日本にとって、これはかなりハードルが高いでしょう。

少なくともTPPに英国を組み込むことは、日本として働きかけるべきだと思います。

大英帝国の威名は色あせたと言えども、英国の国際的な影響力は未だに侮れません。しかも昔の植民地と英連邦を形成し、その中にはインドも含まれています。

英国を取り込む事は、英連邦を取り込む事にも繋がるのです。

もともとTPPは米国が主導しましたが、トランプ大統領が離脱を決めた後、日本が中心となって交渉を纏めました。

英国が入ってくれば、米国も加盟を再考するかもしれません。

このTPPは、中国を意識して、知的財産権や国営企業への支援の制限など自由で公正な競争のルールが組み込まれており、TPPの加盟国が広がることは日本の国益にも繋がります。

英国は名誉ある孤立を好む国ですが、昔、ロシアの脅威に対して日英同盟を組んだ様に、困ったときには他国と組みます。英国が欧州に足場を失った今こそ、日本は英国と再び組むチャンスでは無いでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。