中露は友好国であるとの常識の危うさ
ロシアと中国は米国が修正主義国家と称して敵対視する国々です。
この両国は元々共産主義国家だった訳ですし、上海協力機構の主要メンバーですので、お互い極めて仲が良いと思われています。
トランプ大統領がロシアのプーチン大統領をアメリカで行われるG7サミットに呼ぶと表明した際、「対中戦略を協議する場に、何故ロシアを呼ぶんだ。」と思われた方も多かったと思います。
かくいう私もそう思いました。
しかし、両国の関係は、巷で信じられているほど良いものではなさそうです。
米Foreign Policyが、この点について興味深い記事をまとめましたので、ご紹介したいと思います。
Foreign Policyの記事要約
一帯一路国際会議に欠席したロシア
先月中国は習主席の意を受けて、王毅外相がテレビによる国際会議を主宰しました。
「コロナ対策、一帯一路における国際連帯の強化」と名付けられたこの会議には25か国の閣僚が参加しました。
国際保健機関WHOの事務局長まで参加して、一帯一路を衛生面でのシルクロードにも拡張しようという中国政府のスローガンをオウム返しする役割を果たしましたが、一人重要な役者が欠けていました。
ロシアのラブロフ外相です。
彼は紙一枚の声明を発表しただけで、代理がテレビ会議に出席しました。
言うまでもなく、中国が一帯一路を進める上で、ロシアの協力は非常に重要です。
しかし、一帯一路を強力に押し進める中国は、ロシアの裏庭である中央アジア諸国に巨額の投資を行ってきました。
これは旧ソ連の一部である中央アジア諸国においてロシアの影響力が低下する事に繋がりました。
中国はロシアから一帯一路への支援、少なくとも暗黙の了解を取り付けるべく躍起になっていますが、ロシアはつれなく対応します。
モスクワ国立国際関係研究所の上級研究員であるイゴール デニソフは「ロシアは一帯一路の一部ではありません。中国の対外進出に関しては、ロシアの利益になる時のみ支援します。」と語ります。
一向に進まない両国プロジェクト
この見方は2014年から両国が一貫して説明してきた公式見解と異なります。中国は一帯一路政策においてロシアを最重要パートナーと説明してきました。
ロシアは中国との絆を対外的に発表する機会を断ることはあまりありません。プーチン大統領も隔年に行われる「一帯一路フォーラム」に毎回参加していますし、昨年、彼は中国との関係を「同盟国の様なもの」とまで形容しました。彼はロシア主導の「Eurasian Economic Cooperation」と中国の一帯一路を統合することを2015年に決定しました。
しかし、この統合において検討された40のプロジェクトは、いずれも日の目を見ていません。
中国とロシアの間に実現したプロジェクトは、全て一帯一路とは関係なく、純粋に両国の利害が一致した案件です。
北極海の天然ガス開発案件であるYamalプロジェクトは、中国から「北極圏のシルクロード」と呼ばれていますが、ロシア側に言わせれば一帯一路とは何ら関係がないものです。
中国の極めて少ないロシアへの投資
ロシアにとって重要なのは、中国のロシアへの投資です。
それは、2014年から続く西側のロシアへの制裁から生じたギャップを埋める意味でも重要です。
しかし中国のロシア投資額は微々たるものです。
2017年のロシアへの中国投資は1億4千万ドルに留まりました。
同年ロシアが受けた外国投資235億ドルのほんのわずかでしかありません、
一帯一路を進める上で重要なパキスタンに中国が申し出た投資額500億ドルと比べるとかなり見劣りします。
一帯一路におけるロシアの重要性に関する中国政府の表明と中国のロシアへの投資の少なさのギャップが、ロシア人に中国への不信をかき立てています。
一方、ロシアにおける腐敗とインフラの未整備が、中国企業をしてロシアへの投資を躊躇させていると識者は指摘しています。
コロナ感染で立ち往生する一帯一路プロジェクト
ロシアが一帯一路に疑念を持ち始めた時に、コロナ感染が世界を襲いました。
中国外務省の調査によれば、進行中のプロジェクトの内、20%が深刻な影響を受けている、30−40%が何らかの影響を受けているそうです。
パートナー国の中には世界的不況が来る事を恐れて、プロジェクトのキャンセルを考慮する国も出ている様です。
この様な状況下、ロシアは中国に近づきすぎる事なく、独立したプレイヤーであるべきだとの意見がロシア政府内で高まっている様です。
中国はこういうロシアの扱いに今後より注意を払う必要がありそうです。
中露は必ずしも一体ではないという認識の重要性
この記事を読むと次の様な事がわかってきました。
- 表面上は良好な関係を演じている両国の経済的関係は意外なほどに少ない。
- ロシアは一帯一路から得られる利益がほとんどない事に失望している。
- それどころか自分の裏庭である中央アジア各国に、多額の投資を行って影響力を及ぼそうとする中国に対して、ロシアの不信感は高まっている。
- ロシアは中国と二人三脚であるというイメージを打ち出すより、独立したプレイヤーであるとの印象を国際社会に与えた方が得策だと考えている。(これが最近のインドとの関係強化等につながっている可能性があります。)
この様に考えると、対中政策を語る上でロシアは重要性を持つという議論はあながち的外れではなさそうです。
G7という舞台にプーチン大統領を呼ぶのが適当かという点は議論が必要ですが、日本を含めた欧米諸国は、対中戦略を定める上で、ロシアとも対話を行う必要があるのではと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。