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原油安に喘ぐ中東諸国の未来ー日本への影響は

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中東の原油に依存する日本

中東というのは、日本人からみると遠いアラブの国というイメージでしょうが、エネルギー面では日本にとって非常に重要です。

下のグラフご覧ください。

このグラフは日本の原油輸入における中東依存度を示しています。

1970年代の2回のオイルショックを通じて、痛い思いをした日本はその後、中東への依存度を低めましたが、最近になってまた依存度が高まってしまったことがわかります。

現在の88.3%という依存度は主要国の中で圧倒的に高く、米国は21.8%、欧州は23.8%です。

 

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そんな中、中東で異変が起きている様です。

最近の中東情勢に関して、米誌Foreign PolicyThe end of the Arab world’s oil age is nigh(アラブの石油時代の終わりは近い)と題して興味深い記事を掲載しました。

Foreign Policy記事の要旨

原油低価格に喘ぐ産油国

最近の原油価格の下落はアラブの産油国に大きな衝撃を与えています。

現在のバレル40ドルという価格ではカタール以外のアラブ産油国は国の収支が維持できません。この苦境の中で、アラブ産油国は次の様な措置を行っています。

  1. アルジェリア政府は国の支出を半分にしました。
  2. オマーンは格付け機関からジャンク債と同等の格付けを得ながら借金に奔走しています。
  3. クウェートの財政赤字はGDPの40%に達した。これは世界で最悪です。

コロナウイルスはこの状況に拍車をかけています。人間は移動しなくなったので、原油の消費量も激減しているのです。

しかしコロナが去れば原油の価格が戻る訳ではありません。

原油安は一時的な現象ではないのです。

原油の過剰生産と年々競争力を増す再生可能エネルギーは、原油の需要を押し下げる要因となっており、今後原油が高値に戻る可能性は小さいのです。

原油高の時代は終わったと言って良いでしょう。

この地域の統治者は、今後原油収入が先細っていくことを認識しています。

サウジは「Vision 2030」というプロジェクトで脱石油を目指しました。

しかしもはや2030などと悠長なことを言っている状況ではなくなっています。

IMFの統計では、アラブ世界にもたらした石油収入は2012年の1兆ドル超から2019年の5,750億ドルへほぼ半減しています。

今年はおそらく3,000億ドルへ減少するでしょう。

サウジは公務員の給与をカットし、消費税を3倍に上げましたが、今年の財政赤字は1,100億ドル(12兆円)に達し、これはGDPの16%にあたります。

危機を意識したサウジの統治者たちは、財政の健全化を図るために、国営企業の民営化を進めようとしていますが、外国投資家の反応はいまいちです。

国民の不満は高まっている様です。3倍になった消費税は金持ちではなく貧困者を直しました。

彼らの間では「ムハメット王子は何故自分の高級ヨットを売らず、我々に課税するのか。」とのSNSが広まっている様です。

イラクやアルジェリアでは収入の激減から国民が反政府運動に加担する様になりました。

非産油国は更に悲惨な状況に

この地域の非産油国の現状は産油国以上に悲惨です。

エジプトは250万もの労働者を産油国に送り出しています。

これは人口の3%にもあたりますが、この中には医者等高学歴者が多く含まれており、現在コロナ感染が拡がるエジプトでは、自国に医者が不するという事態に追い込まれています。

エジプトでの医者の平均月給はなんと185ドル(2万円しかないのですから、医者が他国で働きたがるのも無理はありません

しかし、現在医学部卒業者は、産油国への移民の道も断たれ、社会不安の火種となっています。

産油国はエジプトやヨルダンの様な非産油国の製品の輸出先としても重要で、エジプトの輸出額の21%は湾岸の産油国向けでしたが、現在輸出額は激減しています。

産油国の収入激減は非産油国との政治的関係にも影を落としました。

エジプトのシシ政権援助のために湾岸諸国は2013年に300億ドル(3兆2千億円)もの支援を行いましたが、最近は一切援助が行われていません。

サウジはあれだけ援助を行ったエジプトが、サウジが介入しているイエメンでの紛争に軍隊を送ってこないことに怒りをあらわにしています。

アメリカの中東戦略の変化

アメリカのこの地域に対する関与も大きく変わろうとしています。

米国は長い間「カータードクトリン」という戦略を採用し、ペルシャ湾における船舶の航行を守ってきました。

しかしトランプ大統領は違います

イランのドローンがサウジの石油施設を攻撃した時、大した反応を示しませんでした。

その時配備されたパトリオット防空ミサイルも既に撤去されています。

湾岸以外の地域ではさらに彼の関心は低く、UAE、ロシア、トルコが関与するリビアの内戦には、全く首をつっこみません。

原油供給ソースとしての重要性が薄れたことが、米国にとって中東の重要性を失わせたのでしょう。

空いた空間を埋めるのはロシアかもしれませんが、彼らはこの地域全体をカバーするだけの力はありません。

中国の進出

そんな中で中国は経済的な関係を強めようとしています。

既にイランとは戦略的パートナーシップを結んでいますが、外国からの融資が必要となった中東諸国に対して、融資を武器に食い込んでくるかもしれません。

既にアジアやアフリカの国々に対して行った様に、融資が返済できなくなった国から港湾の様な重要インフラを自分のものにする作戦が中東でも通用する可能性はあります。

アラブ世界の将来は

アラブ世界の多くの若者はどこに住みたいかと言われれると約半数はドバイと答えます。そこには彼らの国にない自由や舗装された道路や公正な警察があるからです。

石油時代の終焉はアラブ世界に変化をもたらします。しかしその前に厳しい痛みが到来します。

アラブの将来は

上記の記事を読んで、皆さんの感想いかがでしょうか。

私もアラブの将来は非常に厳しいと思います。なんと言っても米国の中東戦略が大きく変わった事が大きいですね。

米国の戦略変更は、米国でシェールオイルが開発されて、米国が原油の純輸出国になった事が背景にあります。

もはや米国は中東の原油に依存していないと言っても良いでしょう。

となれば、ペルシャ湾の自由な航行を守る必要はなくなる訳で、今後中東への関心は益々薄れていくものと思います。

米国が中東で関心があるとすれば、イスラエルを守ることと、武器輸出程度かと思います。

米国が中東から駐留部隊を引き上げるとなると大きな影響を受けるのは日本です。

冒頭でご説明した通り、日本の中東への依存度は非常に高いので、ペルシャ湾の安全は日本のエネルギー安全保障上極めて重要です。

米国がそのプレゼンスを下げていく中、日本は逆に高める必要が出てくるでしょう。

アラブ世界の将来が暗いのには、原油価格の低下以外にもう一つ理由があります。

産油国の人たちは長い間キリギリスであったので、勤労意欲が低い点です。

彼らは今も、フィリピンやパキスタンなどから来た出稼ぎ労働者に働かせて、自分は贅沢な生活を行っています。

こんな生活を一回でもしたら、勤労意欲は身につきません。

既に、湾岸諸国では若者に高等教育を身につけさせ、来る時代に備えようとしていますが、おそらく彼らは働かないでしょう。

原油という資源は、ものすごい富を国民にもたらしますが、麻薬の様に彼らの勤勉さを失わせます

以前、英国が北海の原油で潤った時期がありましたが、私は英国にとって原油が見つかった事は幸運とは思いません。

原油が出た事で、英国の通貨ポンドの価値は急騰し、これが英国の製造業の競争力を失わせました

日本やドイツの様に資源がない勤勉な国が、持続可能な成長を可能にすると思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。