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EUコロナ復興基金ー歴史的合意の裏に将来の火種が

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フランスがリードした歴史的な合意

EU27か国首脳は、4日間のマラソン交渉を経て、コロナ復興基金に関する歴史的な合意に至りました。

これは独仏の外交勝利と言われていますが、やはりフランスの外交上手が目立ちましたね。

この国、戦争はあまり強くありませんが、外交交渉は得意中の得意です。

ナポレオンが対仏包囲網に敗れた後のウィーン会議において、負けたはずのフランス代表タレーランが、何故か交渉をリードし、フランス国土を守った事は有名な話ですが、今回のマクロン大統領も歴史に名を残すかもしれません。

何と言っても、EUの議長国が今月からドイツになっている事を、彼は上手に利用しましたね。

ドイツはもともとEU内の倹約国(オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマーク)のリーダー格でしたが、議長国となれば交渉のまとめ役になる必要があります。

マクロン大統領はここに目をつけ、5月にメルケル首相と復興資金の骨子について基本合意を取り付けた上で、今回のサミットに臨んだ訳です。

彼の目論見通り、メルケル首相は倹約4か国を説得して、議長国の役割を果たしました。マクロン大統領の根回しが効いたと言えるでしょう。

EU首脳が合意したコロナ復興基金の内容

コロナウイルスは欧州に厳しい打撃を与えました。

特にイタリア、スペイン、フランスは死者も多く、経済的な損失も甚大です。

今年のEU経済成長はマイナス8%に達すると言われています。

このコロナ対策のためにコロナ復興基金が発案され、今回の特別欧州理事会で議論された訳です。交渉の結果、下記の通り大筋が定まりました。

  1. 復興基金の7,500億ユーロ(約91兆円)は、トリプルA格付けの欧州委員会が共通債券を発行して調達します。この7,500億ユーロの内訳は補助金3,900億ユーロ融資3,600億ユーロという事になりました。
  2. 補助金は返済義務がありませんので、EU南部の国は補助金の割合をもっと高めたかったのですが、前述の倹約4か国の反対でこの数字に落ち着いた様です。

今回合意された案は、今後欧州議会の承認を得た後、全ての国で批准された上で発効となりますので、実現にはかなりの時間がかかります。

しかし、首脳会議で合意に至った事は大きな前進であり、マクロン大統領が「歴史的な一歩だ。」と自画自賛するのも無理はありません。

これだけの金額の共通債券をEUの名前で発行するのは初めてですし、加盟国に返済を義務付けない補助金の金額も半端な額ではありません。

今回の合意を欧州の財政統合への一歩と見なす向きもあります。

市場は今回の合意を好感し、ユーロは上昇の気配を見せており、ブルームバーグも対ドル相場で1.3台に乗せる可能性があるとしています。

妥協の産物であるがゆえに将来に問題が

しかし、今回の合意は妥協の産物であり、よく合意案を見てみると、いくつか将来の火種が隠されているのに気付きます。

これらの火種は、倹約4か国等の反対を抑えるため、彼らの意向を反映したものと思われます。

  1. 支援対象国がEUが課す条件を満たしていない場合、資金提供の一時停止を行える「緊急ブレーキ」の制度を取り入れました。一か国でも異議を発するとこのブレーキが発動するので、悪意で発動される危険性があります。
  2. 倹約4か国に対してEU予算払い戻しが増額される事になりました。この払い戻し制度は、EU予算全体の半額を占める農業補助金の恩恵に浴する独仏に対して、英サッチャー首相が異議を唱えて始まった制度で、独仏はこの制度の廃止を唱えていましたが、今回オーストリアは従来の2倍の払い戻しを受ける事になりました。
  3. 今回合意に至る過程で、気候変動対策、医療、研究等いわゆる「未来志向」の資金が削減されました。
  4. ハンガリーやポーランドなど、民主主義が尊重されていない国に対する支援金について条件が課されるはずでしたが、条件は外されました。

上記の問題に加えて、今回EUが発行する債券にEU加盟国の連帯返済保証はついていません。

ご存知の通り、EUに徴税権はありません。

これは加盟各国がブリュッセルのEU官僚に徴税権を与える事に抵抗したことが背景にありますが、税収入のないEUがこれだけの債務の返済が可能なのかという本質的な問題も、今回のコロナ復興基金は、はらんでいます。

EU中心国ドイツの役割

いずれにせよ、今後のEUはドイツが中心である事は間違いありません。

今回の首脳会談でも、EU市場の最大の受益者であるドイツが、思い切った譲歩を行ったので、合意に至りました。

この事からも分かる通り、今後も、EUが抱える様々な問題をドイツが利己的にならず纏めていく必要があるでしょう。

メルケル首相は今回の首脳会議で次の様に語ったと伝えられています。

「欧州は共に行動しなければならない。国民国家だけでは未来はない。ドイツは欧州がうまくやってこそ、うまくやれる。これは全く明らかだ。平和についても、経済とわが国の繁栄についても。」

彼女は来年首相の座を去りますが、彼女の後継者が彼女の信念を受け継いでいくか否かが、EUの将来を決める事になるでしょう、

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。