UAE火星探査ロケット打ち上げ成功
最近、様々な国が火星向け探査機を打ち上げました。なかでも注目されたのは日本のH2Aロケットを使って、種子島宇宙センターから打ち上げられたUAE(アラブ首長国連邦)の火星探査機です。
えー、アラブの国が、何故火星に探査機を飛ばすのか、不思議に思われた方も多いと思います。
実は、私もUAEが火星探査を進めていた事を知りませんでした。
日本から打ち上げの成功を見守ったUAEの先端科学大臣サル アラミ女史ははNational Geographicに対して次の様に語っています。
「かって人々は共存し、お互いの違いを受け入れていました。
互いの違いを受け入れられなくたったとたん、私たちは後退を始めてしまいました。
この計画は未来の英雄たちを作るという目的もあるのです。」
彼女は、宇宙への進出は、脱石油を図るアラブ世界にとって重要な科学的躍進の第一歩であり、「古い時代」への回帰を意味しているとも語っています。
中東科学の知られざる黄金時代
この「古い時代」というのは何を指しているのでしょうか。
それは中東で科学と文化が発展した8世紀から14世紀の期間を指している様です。
この時代、欧州は実際のところ暗黒時代で、中東の方がずっと科学も文化も発達していた様です。
アカデメイアを潰したローマ皇帝、科学者を保護したペルシャ
出口治明氏の著書である「全世界史」によれば、中東で科学が発達したきっかけはローマ帝国のユスティニアヌス帝の政策が作ったそうです。
この皇帝はローマ法大全を完成させた事や、最近モスク化で注目を浴びたイスタンブールのアヤソフィア寺院の建立でも有名ですが、アカデメイアを突如閉鎖してしまいます。
アカデメイアはプラトンが創設した総合大学で、ギリシャやローマの古典を教えていましたが、これをキリスト教に反するものとして潰してしまったのです。
職を失った学者たちは、当時哲人王と呼ばれたササーン朝ペルシャのホスロー一世の下に逃げたそうですが、この6世紀の出来事が中東にギリシャ文化、学問が伝わったきっかけだそうです。
アッバース朝で絶頂期を迎えた科学
その後、8世紀に中東に成立したアッバース朝は学問を手厚く庇護し、特に第7代カリフであるマアムーンの下で、作られた研究施設バイト アル ヒクマ(知恵の館)では大々的なギリシャ文献のアラビア語翻訳が進んだ様です。
この時代、中東では科学の黄金時代を迎えました。
特に数学の分野では、目覚ましい成果を上げ、代数法や三角法はアラビア数学が開拓した分野です。
現在、世界中で使われている数字はアラビア語を起源としていますが、インドから取り入れたゼロの概念を既に採用していました。
光学でもプトレマイオスの研究を進化させたイブン ハル アイサムは光源から発された光が対象に反射して、目の中に像を形成するという正しい理論を導きました。
昔、学校で、ギリシャやローマの科学の伝統は欧州で綿々と受け継がれたと教わった様に記憶しますが、実際には、暗黒時代であった欧州の中世紀には、中東がギリシャ、ローマの学問を継承し、それがルネッサンスの前に欧州に逆輸入されたというのが真実の様です。
この観点から言えば、UAEの科学者が指摘する通り、彼らが「古い時代」への回帰を目指しているというのはうなづける処です。
宗教の独善性
それにしても宗教というのは恐ろしい負の側面を持っていると思います。
真理を追求する科学者を、異端として迫害する事件は歴史上数多く起こっています。
彼らが唱える教義と真理が異なる事を暴かれるのを恐れているものと思いますが、宗教の独善性が、科学の進歩を妨げた例は枚挙に暇がありません。
ダイバーシティの重要性
UAEはもちろんイスラム教の国ですが、科学の重要性に目覚め、火星探査機を打ち上げようとしている点すばらしいですね。
しかも同国の宇宙庁で働いている科学者の多くが女性というのも驚きました。
イスラム社会では、サウジアラビアの様に女性は外出するのもままならず、外出する際は全身を黒装束で固めないといけない国もありますが、UAEやトルコの様に、男性に伍して女性が社会進出している世俗的な国があります。
そんなUAEの科学振興に日本が協力しているこの火星探査プロジェクト、是非成功して欲しいですね。
ダイバーシティは進歩を生み出します。中世の中東社会で科学が進歩した理由の一つは、イスラム教徒だけでなく、異教徒であるキリスト教徒やユダヤ教徒にも当時のアッバース朝が寛容で、彼らの力をうまく引き出せたことだと言われています。
UAEの大臣の言葉が印象的です。「我々は違いを受け入れられなくなった時に、後退を始めた。」
同感です。人種や宗教の違いを超え、寛容に振る舞う事から進歩が始まると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。