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世界遺産アヤソフィアで86年ぶりに礼拝行われるートルコはどこへ向かうのか

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86年ぶりにイスラム礼拝行われる

トルコが誇る世界遺産アヤソフィア寺院がモスク化されましたが、7月24日86年ぶりのイスラム教礼拝が行われました。

この寺院は6世紀にキリスト教の寺院として建立された後、コンスタンチノープル(現在のイスタンブール)の陥落とともに、1453年モスクとされましたが、1934年にトルコ共和国初代大統領アタチュルクにより、博物館にされるという数奇な運命を辿ってきました。

この経緯に関しては、前回私のブログでご紹介しました。

 

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今回の再度のモスク化は、トルコ国内外で大きな反響を呼んでいますが、昨日のフランストルコの代表的新聞社の記事をご紹介したいと思います。

フランスのLes Echos(レゼコー)記事要約

Saint Sophie- La Turquie  provoque le mond orthodoxe(アヤソフィアートルコは東宝正教会の人々を挑発している。)

「我々は歴史的な瞬間に立ち会っている。長い別離は終わりを告げた。」と礼拝に参加したトルコ宗教庁のAli Erbas長官は語りました。

一方、ギリシャ正教を信ずるギリシャやロシアにとっては、今回のモスク化は挑発行為と映りましたし、フランスや米国そしてローマ法王は遺憾の意を表しました。

ギリシャのミツオタキス首相は「今回のトルコ政府の決定は人類の世界遺産に対する冒涜である。」と厳しく非難しました。

今回の礼拝は地中海の天然資源を巡ってギクシャクしているトルコとギリシャの緊張関係をさらに高める事になりました。

国際的な非難を浴びる事を覚悟で、今回の決断を下したエルドアン大統領の決断の背景には、同大統領のイスラム教スンニ派諸国のリーダーになろうという野望と西側諸国に対する反感がある様に思われます。

これは、西側諸国がトルコにとって最も重要な投資家であり、トルコがNATO(北大西条約機構)のメンバーであり、トルコがEUへの加盟交渉中である事を考えれば、矛盾したアプローチです。

EUへの加盟が無理そうだと判断されてからというもの、エルドアン大統領は法治国家のイスラム化とアタチュルクの遺産の否定に向かい始めた様に思われます。

大統領は2年前に憲法改正を行い、強大な権力を手にしました。

この動きに反発して、与党AKPから重要な数名の離党者が出ました。

大統領は猜疑心が高じたのでしょうか、2016年、クーデターを押さえ込んだ際に重要な役割を果たした三人の将軍を解任するに至りました。

経済不振のさなか、大統領は昨年大都市の市長選で支持をを失った保守層の票固めを、この様な攻撃的な政策により、行おうとしている様に思われます。

 

なかなかフランスの新聞は手厳しいですね。次にトルコのHürriyet紙の記事です。

Hürriyet記事要約

アヤソフィアは、80年以上の博物館としての歴史を終え、再びモスクとなりました。

金曜日に行われた最初の礼拝には、エルドアン大統領以下多くの政治家が参列しました。

大統領は「この歴史的建造物は、永遠にイスラム信者の祈りの場となるでしょう。」と語った上で、次の様に付け加えました。

「この建物は人類の文化遺産として、あらゆる宗教の信者が訪れる事が出来る場所です。」

金曜日の朝、アヤソフィアの周りに数千人の信者が集まり始めました。

最終的に当局は多くの信者を寺院の中に入れる事を認めませんでした。

ソーシャルディスタンスを確保する事が困難だったからです。

礼拝の間、寺院の中のモザイク画などはカーテンで覆われました

宗教庁のErbaş長官は「アヤソフィアは征服のシンボルであり、永遠にモスクである事を条件に征服者が寄贈したものだ。」と語り、征服王と呼ばれるメフメット二世の偉業に言及しました。

今後、宗教庁がアヤソフィアにおける宗教的行事を監督し、観光省がその修復を行う事になる予定です。

今後の展望

いやー、同じ事件に関して、これだけ大きな報道の違いがあるのですね。今回、トルコの新聞は、外国の批判について触れていません。

フランスの記事は、エルドアン大統領がトルコを厳格なイスラム主義国家にしようと企んでいる様な印象を与えますが、さすがにそこまで行く可能性は小さいと思います。

EUに入ろうとしているのに、アヤソフィアをモスク化するのは矛盾しているという指摘も、納得がいきません。そもそも難癖をつけてトルコをEUに入れなかったのは、フランスを中心としたEU諸国です。

但し、心配な点があります。それは政教分離に関する懸念です。

フランスは政教分離に関して、世界で最も厳しい国と言われています。

「Laic」(世俗性)という概念は、政治に一切宗教的なものを関与させないというもので、フランス共和国の根本概念と見なされています。

フランスは、過去に、宗教を理由に血で血を洗う戦いを繰り広げて来ましたので、その反省から生まれた概念でしょう。

フランスでは、イスラム教の女性信者が頭を覆うショールを身につけて学校内に入ることさえ禁じています。

実は、トルコもこのフランスの政教分離の影響を強く受けており、政教分離の厳しさでは、ドイツや英国よりフランスに近いと言われています。

ついこの間まで、国会に女性議員がスカーフを巻いて入ることができませんでした。

この様な政治的伝統は初代大統領アタチュルクが基本方針を定めたもので、トルコの憲法にも「トルコ共和国は世俗的(laik)であるべし」と明確に規定されています。

トルコの近代化に大きく貢献したアタチュルクの改革を否定しようとの動きが出ているのであれば、問題です。

トルコが、今後重要な地域大国として存在していくためにも、サウジアラビアやイランの様に、国家が宗教の影響下に入ることなく、異宗教にも寛容なトルコであり続けて欲しいものです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。