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Go to トラベルに注ぐ税金は適正かー海外メディアからも疑問の声

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Go to トラベルが始まりました。

実施時期が前倒しになるわ、突然東京が対象地域から外されるわ、老人や若者のグループ旅行は自粛してほしいとの要請が出されるわで、現場が大混乱したこの政府キャンペーンですが、そもそも旅行業界に1兆3千億円もの税金をつぎ込む必要があるのか、もっと他に使い道があるのではという疑念が消えません。

海外のメディアでもこのGo to トラベルが話題になっています。英誌Economistの記事をご紹介したいと思います。

Economistの記事要約

Why government is paying people go to holidays - Is this the best way for taxpayers to prop up the tourist hotspots(何故政府は人々の休暇に補助金を出すのかーそれが納税者にとって観光地を支援する上で最善の方法か)

 

ベネチアは年間4千万人もの観光客が市街に溢れる事を、いつも憂えていました。

2019年からは観光客が回転式改札口を通る度に10ユーロ徴収する様になりました。

しかし今ベネチアが直面しているのは多すぎる観光客ではなく、その逆です。

 

コロナは観光業界に壊滅的な打撃を与えています。

OECDによれば、今年世界の観光業は6割落ち込むと予測されますが、コロナの第二波が来れば、8割落ち込む可能性がある様です。

イタリア政府を含む多くの政府は観光業を救うため、休暇に出る人々に補助金を直接支給しようとしていますが、現在の観光業支援のやり方が納税者にとって適当か疑問が噴出しています。

 

各国政府は、既に航空会社や空港への補助金支出、観光業への消費税の減免等間接的な支援策を取ってきましたが、ここへきて観光客への直接のキャッシュ或いはバウチャー供与という手段が広がっています。

イタリアは「ホリデーボーナス」と称して24億ユーロ(約3千億円)を用意し、低所得者層に対して500ユーロを国内旅行の支援金として供与する事を決めました。

シチリア島は独自に7千5百万ユーロ(約90億円)を用意し、観光客にホテルやツアーで利用できるバウチャーを配給する事にしました。このやり方は韓国、台湾、タイなどでも採用されています。

しかし最も積極的でかつコストが嵩むやり方は日本の「Go to トラベル」です。7月22日に始まったこのキャンペーンは、政府支出が1兆3千億円に達する可能性があります。

 

政府が観光業を支援したがる理由を推測するのは簡単です。

観光業が多くの雇用を生んでいるからです。

WTTC(世界観光旅行協会)によれば、もし世界の観光客が半分になれば、1億2千万人もの雇用が失われるそうです。

また、政治家にとってみれば、観光業支援は長期間のロックダウンに疲れた有権者に人気のある政策なのです。

 

ここへきて何故観光客への直接の補助金が脚光を浴びているのでしょう。

各国政府は航空会社を救済するために何十億ドルも使いましたが、これは観光業の直接の刺激にはなりません。

消費税の減免も過去の例で分かる通り、観光業の刺激策にピンポイントの対策になりにくいのが明らかです。

その点、観光客への直接の補助はまさに痒いところに手が届く施策なのです。

 

しかしこのやり方に関しては、異論もあります。

先ず、金持ち優遇ではないかとの議論です。貧しい人々は金も時間もないので、休暇に行けず、このスキームの恩恵に浴する事が難しいでしょう。

もう一つの批判は、このスキームにより、感染が広がりやすくなるというものです。

特に日本の「Go to トラベル」はこの観点から異論が出ている様です。世論調査によれば、8割もの人がキャンペーンの実施が早すぎると回答しています。

東京都民は感染拡大の懸念からキャンペーン対象外となってしまいました。

 

経済的側面だけ見れば、数ヶ月のロックダウンを経た国民は、休暇に出る経済的余裕が十分あります。

しかし、最近の感染第二波の拡がりは、人々が旅行に出る事を躊躇させます。

英国政府は突然7月25日に、スペインからの帰国者に2週間の自己隔離を求める決断をしました。

 

ベネチアの様なかつて過剰な観光客を受け入れていた街は、また以前の様に多くの観光客が戻ってくる事を望んでいるのでしょうか。

ベニスの前市長コスタ氏は「今こそ他の選択肢を検討すべきだ」と主張します。観光業界で働く人の多くは低収入ですし、一年通して働けません。

コスタ氏は「ベニスの港を欧州と極東を結ぶ国際ハブとする方が、より安定した雇用を確保できる。」と語ります。

しかしこれを実現するために必要な補助金を中央政府から得るのは観光業への支援金より遥かに難しいと言います。その理由は観光業のロビーイングが遥かに強力だからです。

Go to トラベルの問題点

このEconomistの記事を読んでいると、観光業というのは、日本でも欧州でも非常に大きな雇用を生んでいる事がわかりますね。

 

今回慌てて実施された「Go to トラベル」ですが、私は次の様に見ています。

 

実施を急いだ裏には、観光業界より与党に対して強い圧力が働いた事が予測されます。

雇用者数が多く、与党の地域票の取りまとめにおいて重要な役割を果たす観光業界は、無視できない存在でしょう。彼らは与党の実力者に太いパイプがあるはずです。

 

急ぎすぎたために多くの問題が散見されます。

政府の補助金が出される前に、各地方公共団体独自にバウチャー等支給を始めていましたので、補助が重複しています。

この点をうまく付けば、ほとんど無償で旅行ができます。

自民党の観光部会の会長がテレビ番組で認めていましたが、自民党はこの地方の補助金制度を全く考慮に入れずに政府補助を決めたそうです。

東京を外したのは、感染が広がるとの批判を避けるためだったでしょうが、観光業を支援するという観点からすれば、最悪の一手だったでしょう。

このキャンペーンは観光業者の収入確保が最大の目的ですから、富裕層にたくさん何度でもお金を使ってもらおうという設計になっています。

最大一泊4万円(内2万円補助)という価格設定から言っても、これは間違いありません。

政府は認めていませんが、明らかに金持ち優遇です。東京の富裕層にお金を使わせる機会を失わせたのは、キャンペーンの価値を半減させたと言っても良いでしょう。

 

私は個人的には、1兆3千億円も使って、観光業を救うよりも、日本の将来のために、医療や他の研究開発、更には地域振興に繋がるテレワークの推進などに、その予算の一部でも回して欲しかったと思います。

ベニスの元市長が言う様に、観光業は低賃金産業です。

そこで働いている人たちに、新しい安定した働き先を提供できる様な税金の使い方考えたいですね。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。