米国上院もTikTokに関する法案を可決
動画アプリTiktokに関して、45日以内に米企業に売り渡さない限り、米国内の事業を停止させるとの大統領令に6日トランプ大統領が署名した事は報道の通りですが、もう一つ重要な動きがありました。
米国上院で、TikTokの使用を連邦政府職員向けに支給される機器で使用することを禁止する法令を全会一致で可決したのです。
TikTokは、トランプ大統領が出席した共和党の選挙集会を反大統領派の人々が空予約するのに利用した事で知られています。
空予約した人の多くは集会に参加しなかったので、選挙集会は空席が目立ち、トランプ大統領はメンツを失いました。
共和党の選挙集会の空席を内心ほくそ笑んで見ていた筈の民主党の面々も、TikTokの危険性を認識していることが、今回の上院の動きでわかりました。
事ほど左様に、米国の反中の動きは、最近、保守リベラルを問わず、厳しさを増しています。
トランプ大統領はTikTokだけではなく、中国のIT巨人であるテンセントのウィーチャットの使用もTikTok同様禁止する決定を下しており、中国政府はこの決定に激しく反発しています。
マイクロソフトの決断
こんな中、火中の栗を拾おうとするITの巨人が登場しました。マイクロソフトです。
マイクロソフトはGAFAに含まれません。
恐らくマイクロソフトはITの老舗だからという理由で、新興IT企業であるGAFAに入っていないと思いますが、同社はIT業界において、相変わらず業界の雄ともいうべき地位を保っています。
一時、勢いを失いかけましたが、最近勢いを取り戻し、時価総額ランキングでアップルと激しく世界一位を争っています。
GAFAにマイクロソフトを加えたGAFAMという言葉もよく使われており、この五社が世界のIT業界を牽引しているのが現状です。
マイクロソフトの復調の原因
マイクロソフトは皆さんご存知のウィンドウズソフトの生みの親であり、引き続き、これらのソフトの販売も好調の様です。
実は、アップルとマイクロソフトは不倶戴天の敵で、以前はアップルのパソコンではWindowsが使えませんでした。
しかし、数年前からアップルとWindowsは相互乗り入れを決め、アップルのパソコンでもWindowsが使える様になったのです。
これによって、マイクロソフトはアップルのユーザーも取り込む事に成功しました。
しかし、最近のマイクロソフトの大躍進はソフトウェアの販売増だけではありません。
彼らはクラウドサービスにおいて、アマゾンと並ぶ二強に躍り出たのです。
この分野は、市場そのものの成長も著しいのですが、マイクロソフトは最近の国防総省の大型入札でもアマゾンを抑えて一兆円を超える契約を獲得しており、最強と言われたアマゾンを射程内に捉えています。
賭けに出たマイクロソフト
そんなマイクロソフトが、今回TikTok買収に名乗りを上げました。
前述の通り、米中両国はIT業界の覇権を激しく争っており、下手に動けば、両国政府から激しい制裁を受けかねません。
それでも彼らが思い切った賭けに出たのには訳がありそうです。
ウォールストリートジャーナルは次の様に分析しています。
- マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは現在、取引の関係者のみならず、IT業界に関して、激しく対立している米中両政府をも満足させる合意を目指しています。
- この取引で一億人に達するユーザーを獲得できれば、マイクロソフトは消費者向け事業に足を踏み入れることが可能になりますが、一方、中国政府から報復を受ける可能性があります。同社における中国市場のシェアは1.8%程度ですが、金額にすれば2千億円以上に達します。
- マイクロソフトはGAFAのメンバーに比べれば、比較的米中両政府とうまくやってきた実績があります。Windowsの海賊版に関して悩んでいた同社は、中国政府を説得して海賊版の取締りを認めさせました。
- トランプ大統領の移民政策を批判したにも拘らず、移民局や国防総省などのからクラウドサービスに関わる大型契約を受注しています。
- 上記の様な過去の事例を見ますと、マイクロソフトはGAFAよりも強固な信頼関係を米中両政府と築いている事が見て取れます。
見返りの大きいディール
マイクロソフトにとってはこのディールは大きな賭けですが、その見返りを考えれば、TikTokはリスクを踏んでも取りに行きたい対象の様です。
その理由は下記の通りと推測されています。
- TikTokのユーザーの多くはZ世代と呼ばれる1995年から2000年に生まれた世代です。このユーザーにはこれまでマイクロソフトは縁がありませんでした。
- Z世代を中心とした一億人ものユーザーを得るという事は、マイクロソフトにとってみれば、ライバルのグーグルが保有するYouTubeとほぼ同じものを手に入れる事になります。
- TikTokを手に入れる事によって、マイクロソフトはユーザーの個人情報を入手する事ができ、これによってオンライン広告等で莫大な収入を上げているライバルのグーグルやフェイスブックを追撃する事が可能になるのです。
- 更におまけがあります。TikTokはグーグルのクラウドサービスの大口顧客であり、3年間で845億円(Yahooニュース調べ)もの大金を支払う事になっていました。これもライバルのグーグルに対する大きな一撃となります。
以下、マイクロソフトとグーグルの事業領域の違いをグラフで表してみたいと思います。
グーグルが広告に偏っているのに対して、マイクロソフトの事業領域のバランスが取れている事がお分かりになると思います。
TikTokの買収が成功すれば、広告収入が増え、更にバランスが強化されます。
(出典:Digital Shift Times)
マイクロソフトとGAFAとのIT王座を目指す戦いはまだまだ続きそうですが、今回のTikTokの買収が成功裏に終われば、マイクロソフトが一歩リードしそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。