MIYOSHIN海外ニュース

世界の役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

欧州の顔として存在感を増すマクロン仏大統領

f:id:MIYOSHIN:20200809123412j:plain

電撃的なベイルート訪問

マクロン仏大統領が大爆発の2日後、電撃的にベイルートを訪問した事が欧州のメディアで大きく取り上げられました。

仏テレビ局France 24を見ていて驚いたのは、彼がベイルート市内を歩いて視察した事でした。

群衆にもみくちゃになりながら通りを歩く彼は、市民から大きな歓声を浴びていました。

政治家のスタンドプレーだとの見方もありますが、それにしても勇気ある行為だと思います。

市民の1割およそ300万人がホームレスになったと言われるベイルートの群衆の中に入り、市民と対話するのは勇気が要ります。

 

彼はアウン大統領とも面談しましたが、「大胆な改革なくして援助なし」との姿勢を明確にしました。

確かにレバノン政府の腐敗ぶりは今回の爆発事件で明らかになりましたので、援助側としては当然の注文だと思いますが、彼の発言で注目すべきは、「9月1日に再訪するまでに、レバノン政府が約束を守らなければ、私が責任を取る。」と発言した点です。

どの様に責任を取るのか詳細は明らかにしなかった様ですが、旧宗主国としてフランスはレバノンに本格的に関与するという確固たる方針の現れだと思います。

 

今回のベイルートへの電撃訪問もそうですが、最近のマクロン大統領は内外にその存在感を発揮しています。

2018年末に「黄色いベスト運動」なる大規模なデモがフランス国内で発生し、辞任寸前まで追い込まれた同じ人物とはとても思えません。

EU共同債の発行

先日の7,500億ユーロ(91兆円)に上るEU共同債の発行に関しても、欧州の南北対立を抑えて、合意を取り付ける立役者となりました。

もし破談となっていれば、EU分裂に繋がる可能性もあっただけに、彼の果たした役割は極めて大きかったと思います。

ご存知の通り、EUは北のドイツを中心とした倹約国家と南の比較的貧しい国に二分されます。

ギリシャの経済危機の時にも南北の対立が先鋭化しましたが、コロナ対策を目的としたEU共同債の発行に関しても、北の倹約国は猛反対をした様です。

4日間も続いた首脳会議では、マクロン大統領がオーストリア大統領に対して、机を叩いた場面もあったそうですが、最終的には合意が成立しました。

議長国のメルケル首相を説得して、倹約国連合からドイツを引き剥がす事に成功したマクロン大統領の手腕は見事でした。

自らの出身校は閉鎖に

彼の特徴は判断が迅速で行動力がある点です。

彼は自らの出身校であるENA(国立行政学院)の閉鎖を宣言しました。

ご存知の方も多いかと思いますが、フランスは日本を上回る学閥社会です。

フランス人のビジネスマンと名刺交換した際に、驚かされるのは、卒業校が名刺に記されてる場合がある点です。

その学閥社会の頂点に位置するのがこのENAなのです。

ENAは、高級官僚養成機関ですが、官界に入るや否や、日本の国家公務員試験一種の資格者より遥かに早いスピードで出世します。

又、彼らが「パラシュート」と呼ぶ天下りで大企業の幹部に就きます。

同窓生が形成する学閥は、フランスの政官界においてマフィアの様な閉鎖的な組織を形成しています。

卒業生は執務机の中に必ず同窓生名簿をそっとしまっているそうです。

フランスの歴代の大統領を見ますと、ジスカールデスタン以降ENAの卒業生でなかったのは党人上がりのミッテランとサルコジだけです。

マクロンも勿論ENARQUE(エナルク、ENAの卒業生)ですが、ENA卒業生の持つ特権に対して国民が反感を持っていると判断した瞬間、その閉鎖を決定しました。

彼自信、大統領に駆け上がるまでに、オランド前大統領やアタリ元欧州復興開発銀行総裁など、ENAの先輩にさんざんお世話になったにもかかわらず、ENAの弊害を認めた彼は、母校を閉鎖する決断を行いました。

日本でもし東大法学部を廃止にすると首相が言ったら、猛反対に会うでしょうが、マクロンは古いフランスを変えていくのだという姿勢を出身校であるENAの廃止によって示しました。

 

彼の奥様は24歳年上のブリジットさんです。

彼女は、マクロン氏の高校生時代の先生だったそうですが、先生と結婚するという判断もマクロン氏らしいといえばらしいです。

人目を気にしない、正しいと思ったら直ちに決断し、行動に移すという彼の性格がプライベートでも発揮されたという事でしょう。

欧州のリーダーとしての存在

大統領としての国民の評価はどうでしょうか。

仏経済紙「Les Echos」によれば、世論調査の結果として、支持率は38%まで上昇してきた様です。

フランス人は簡単に支持すると言わない国民ですので、この数字は悪くありません。

昨年の1月には22%まで低下していましたので、見事なリカバリーだと思います。

「コロナ対策として、欧州共同債は有効な手段か」という問いに対して、4割の回答者がイエスと答えていますので、マクロン大統領の交渉手腕が一定の評価を得ている事がわかります。

 

来年、メルケル首相が退任し、新しいリーダーがドイツに誕生しますが、EUはドイツとフランスが牽引していくことは間違いありません。

米中新冷戦が激しさをます中、日欧の連携はこれまで以上に重要になると思います。

その様な環境の中、マクロン大統領は欧州の顔になっていきます。

ナポレオンは35歳で皇帝になりましたが、マクロンは39歳でフランス史上最も若い大統領となりました。

欧州の若きリーダーの今後に注目です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。