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英仏メディアから見た台湾問題の行方

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米国高官突然の台湾訪問

8月10日米厚生省のアザー長官が台湾を訪問しました。

台湾と米国の間に、現在正式な国交はありません。

1979年にニクソン大統領ーキッシンジャー補佐官コンビによって、米国は中華人民共和国と国交を結び、中華民国(台湾)は国連から締め出されました。

この突然の米中国交樹立は、日本政府には知らされずに行われため、「頭越し外交」と呼ばれ、日本政府は大きなショックを受けました。

日本政府は中国の国連参加に最後まで反対していたのです。

今回の大臣級の米国高官による台湾訪問はこの1979年以来の出来事でしたから、大きな波紋を呼んでいます。

もちろん、中国は激しく反発し、戦闘機二機が台湾の領空を侵犯して、威嚇を行いました。

それでは、今回の突然の米国高官の台湾訪問の意味そして狙いはどこにあるのでしょうか。

今回は直接の当事者ではない欧州のメディアの報道を取り上げようと思います。

一つは英国の報道局「BBC」そしてもう一つはフランスの経済紙「Les Echos」です。

英国BBC記事要旨

BBCは「US angers China with High-profile visit to Taiwan」(米国高官の台湾訪問で米国は中国を怒らせた)と題する記事の中で、次の様に述べています。

 

台湾を訪問中のアザー米厚生省長官は蔡英文台湾総統との会談を行いましたが、中国はこれに激しく反発し、米国に対して「一つの中国」の原則を尊重する様に強く要求しました。

アザー長官は、今回の訪問の目的として次の項目を上げました。

  1. 台湾が開かれた民主的な社会であることを認識すること。
  2. 台湾が米国にとって古い友人であることを再確認すること
  3. 台湾が素晴らしい実績を伴った保健衛生上の世界のリーダーである事を認める事

台湾は武漢からのフライトをどこの国よりも早く1月23日に止め、感染者数480名、死者たったの7名という数字を残しました。

台湾はWHOのメンバーではありません。何故なら中国と国連がそれを認めていないからです。

台湾はWHOにコロナの情報を提供する様に求めましたが、何ら回答が得られませんでした。

この点に関して後日批判を浴びたWHOは「台湾から人から人への感染の連絡を受けていなかった。」と弁明しています。

フランスの経済紙Les Echosの要約

同紙は「En réaffirmant leur soutien à Taïwan, les Etats-Unis ouvrent un nouveau front avec la Chine」(台湾への支持を再確認した事で、米国は中国との新しい火種を作った)と題した記事で、次の様に語っています。

 

今回の米高官の台湾訪問ほど中国政府を歯ぎしりさせたものはありません。

このレベルの高官訪問は1979年まで遡ります。

この年、米国は台湾政府との外交関係の断絶に踏み切りました。

今回の訪問が米国と台湾両国間の保健部門における協力に関するものだけでは無いことが中国を刺激している様です。

米国務長官は「台湾への支持と友好に関するトランプ大統領の強いメッセージをお届けする事を大変誇りに思う。台湾のコロナに対する成功は、台湾のオープンで民主的な社会を反映していると信じている。」と表明しています。

トランプ大統領は、中国の脅威に対して立ち向かうアメリカの守護神の様に振る舞おうとしています。

香港、ウイグル、Huaweiそして最近のTikTok, WeChatの4つの分野で彼は中国に対立しようとしています。

これから大統領選までの間に、台湾の保健大臣が米国を公式訪問すれば、トランプ大統領にとって、素晴らしい機会が提供されるでしょう。

彼の最大の目的は、中国政府に打撃を与え、民主党が中国からの圧力に如何に弱いかを示すことです。

これらの記事から感じること

今回の米高官訪問は、トランプ大統領の反中キャンペーンの一角と捉えるべきと思います。

そんな中で、森喜朗元首相が同じ時期に台湾を訪問し、蔡英文総統とも9日に面談を行った事が注目されます。。

表向きの目的は、先日亡くなられた李登輝元総統の弔問でしたが、安倍首相の意を受けて台湾を訪問した事を森元総理自ら明かしています。

米国高官との面談の直前に行われた森元総理と蔡英文総統の会談では何が話されたのでしょうか。

ひょっとすると台湾の国家承認が議題に上った可能性があるのではと思います。

このまま米中対立がエスカレートすると、米国による台湾国家承認に行き着きます。

森元首相は、安倍総理の意を受けて、この問題に対する日本の姿勢を蔡英文総統に伝えたのではと推測します。

米国がもし、台湾を国家承認すれば、台湾を「核心的利益」と位置付ける中国が猛反発することは必至です。

その場合、日本は米国から踏み絵を迫られます。安倍首相は日本政府の立場を森元首相を通じて蔡英文総統に伝えたのではと思います。

 

もし、米国政府が台湾の国家承認を提案しているとすると、これは台湾側から見ると、喉から手がでるほど待ち望んでいるものです。

蔡英文総統は随分悩むと思いますが、彼女は、この提案に軽々には飛びつかないと思います。

彼女は李登輝元総統の教え子の一人です。

李登輝氏は12年間にわたって台湾総統を務めましたが、任期が終わりかかった頃、やっと台湾の独立を唱え始めました。

中国の圧力を巧みに交わしながら、台湾の独立を守り抜いた李登輝元総統の手腕を蔡英文相当は間近で見てきました。

トランプ大統領の選挙キャンペーンに軽々しく乗って、中国の反発を買うリスクを、彼女は十分承知している筈です。

今年初めにBBCのインタビューを受けた際に、彼女が語った「台湾は事実上独立しています。Status quo(現状維持)が重要です。」と言う発言が印象的でした。

彼女はいたずらに中国を刺激する事なく、国際環境の機が熟するのを待ってから、国家承認のプロセスへと進むものと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。