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眠れる巨人欧州を覚醒させたコロナ

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EUの復活

以前のブログでもご紹介しましたが、最近のEUの外交面での積極的な動きは以前と比べて見違えるようです。

コロナ対策のために超大型の経済支援策に合意した事はご存知の通りですが、香港国家安全法導入やベラルーシの大統領選に抗議し、ベイルートの爆発事後の直後、援助を約束するとともに、事件後のレバノン政府のあり方にも注文をつけました。

こんなに積極的なEUを見るのは久しぶりです。

EUに何が起きたのでしょうか。

この観点から、米誌「Foreign Affairs」Europe's Geopolitical Awaiking(ヨーロッパの地政学的覚醒」と題して興味深い論文を掲載しましたので、ご紹介したいと思います。

この「Foreign Affairs」はその昔、ジョージ ケナンが冷戦を予想した「X論文」やサミュエル ハンチントンが「文明の衝突」を掲載した事で有名ですが、最近もオバマ大統領やブッシュ政権時代に国務長官を務めたコンドリーザ ライス元国務長官が外交政策に関する論文を掲載しています。

著者のMax Bergmann氏は欧州の安全保障の専門家で、2011年から2017年まで国務省の要職を歴任した方です。

最近の欧州の変貌ぶりが米国にどのように受け止められているのか興味深いところです。

Foreign Affairs記事要約

EUは慢性的な政治的、経済的、制度的な問題に悩まされ、ここ30年というもの、国際的な影響力は非常に限られたものでした。

EUの中心国であるフランスやドイツも外交上の主導権を取ることを避けようとしてきました。

この役立たずの相棒を称して、米国の上院外交委員会の議長であるリチャード ハース氏は2011年に「EUの域外における影響力は極めて限定される。」と語っています。

 

しかし、ここに来て、事態は大きく替わろうとしています。コロナの感染は眠れる巨人EUを覚醒させようとしています。

6ヶ月前までは、想像もできなかった様な巨額な経済回復パッケージに関して合意が成立しました。

EUの創設者の一人であるジャン モネがいみじくも「欧州は危機の際に固まる」と語った様に、コロナという共通の敵に対してEUは団結しました。

 

EUはコロナにより甚大な被害を受けましたが、適当な対策を講じることによって、その被害を食い止めました。EUはコロナ対策において自信を取り戻し、国際的な評価を受けています。

自信を取り戻したEUは矢継ぎ早に次の様な行動を起こしています。

  1. 香港国家安全法を導入した中国政府を厳しく非難しました。
  2. 更に監視に利用できる様なテクノロジーの香港への輸出を制限しました。
  3. EUとして初めて中国、ロシア、北朝鮮のサイバー攻撃に制裁を課しました。
  4. ベラルーシの大統領選に関する不正を非難し、ロシア政府の介入を防ぐべく、クレムリンとの対話を開始しました。

 

最近EUが講じた政策の中で、なんと言っても重要なのが、2兆ドルに及ぶ経済回復パッケージでした。

EUはこれまで連邦制と多国間組織のはざまで揺れ動いてきました。

EUの巨大な市場と消費者基盤は、国際的なスタンダードを形成する際にリーダーとなりうる力を秘めていますが、EU本部が加盟国に同意を求めようとすると、必ず反対にあってきました。

この問題を解消するために、欧州のリーダーたちは、これまでEUの積極的な外交を阻害してきたEUの全会一致のルールを改正しようと検討している様です。

 

これらのEUの変化は、急に引き起こされたものではありません。

トランプ政権の下で、コロナの被害や人種対立が深刻化する中、バイデン候補が大統領になったとしても、米国は内政の問題で身動きが取れないのではとEUは懸念しており、アメリカへに必要以上に依存することにリスクを感じ始めています。

一方、中国に対する欧州の見方も変わりました。

これまで、欧州は市場の解放と貿易が中国の民主化を促すと期待していましたが、実際はそうはなりませんでした。

米国と同じ様に中国の不公正な貿易慣行への不満は高まっています。コロナ感染は欧州の中国への見方を一変させました。

 

米国と中国に対する欧州の見方の変化と共に、今回のコロナ感染拡大は、欧州の団結の必要性をヨーロッパの人たちに再認識させました。

欧州の指導者たちは、民衆のこういった認識の変化を敏感に察知し、積極的な行動を取る様になったのです。

今後10年間、欧州は自分たちの団結に自信を深めると共に、戦略的自立の必要性を感じています。

 

EUが一朝一夕にスーパーパワーに生まれ変わるわけではありません。

EUにはポピュリズムがはびこっており、南北の経済格差も未解決の問題として存在します。

しかし、今回のコロナをきっかけに、EUがより強力で団結した国際的なプレーヤーになる事は間違いないでしょう。

 

米国にとっては、これは朗報です。

中国との競争が激化する中、欧州は米国の重要なパートナーになることができます。

ワシントンはできる限り欧州の台頭を奨励すべきです。

軍事力のような欧州に欠けているものにこだわるのをやめるべきです。

その代わりに、欧州の外交力、世界最大の経済、世界的な名声等を活用すべきです。

21世紀は欧州の世紀ではないかもしれませんが、それがリベラルな世紀であるためには、欧州が主導的な役割を果たす必要があります

もし英国がEUに残留していたら

コロナがEUの団結を強化させる特効薬になったという事ですか。まさに瓢箪から駒ですね。「危機の時にEUは固まる」というジャン モネの言葉はけだし名言です。

 

米国の「America First」路線や中国の戦狼外交に与しない第三極としてEUが重要なプレーヤーになっていく可能性は高い様に思われます。

 

それにしても、もしEUに英国が残っていたらと考えると面白いですね。

おそらく英国は90兆円にも上るEU共同債券発行に他の倹約国(オランダ、オーストリア等)と共に反対していたはずですから、この共同債券案は日の目を見ていなかった可能性があります。

英国がいなくなった後、フランスとドイツが主導権を握る様になった事が、EUの決断をより容易にする事に貢献したのではないでしょうか。

 

昔、シャルル ドゴール元仏大統領がEUへの英国加盟に反対したことを思い出しました

ご存知の通り、同大統領は第二次世界大戦時、英国に逃れ、ロンドンからラジオでドイツ軍へのレジスタンスを自国民に呼びかけていたので、英国には恩義を感じていたはずですが、英国のEU参加には断固反対しました。

理由は英国が歴史的に海洋国家であり、大陸国家の集まりであるEUには馴染まないというものでした。

老練な彼は、英国が加われば、EUのリーダーが独仏の2カ国から3カ国に増えて、船頭多くして船進まずになる事を予見していたのではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。