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水素社会実現に向け敢えて高いハードルに挑む欧州

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EU新エネルギー政策明らかに

先月EUは「エネルギー統合戦略」と銘打った政策を発表しました。

この政策には、2050年に二酸化炭素の実質的な排出量をゼロにするという長期目標を達成するための具体的な施策が盛り込まれています。

その中でも柱と言えるのが水素を軸とするエネルギーシステムへの大胆な改革です。

EUは先日行われた首脳会談で、中期予算の何と3割を気候変動対策につぎ込むと発表しました。

コロナで経済が疲弊し、失業者が急増する中、環境対策にそれだけの予算をつぎ込む事が必要でしょうか。

今回の新しいエネルギー統合戦略には、EUの深謀が秘められている様に思われます。

今日は、このEUの隠された狙いについてご紹介したいと思います。

水素エネルギーが柱に

水素エネルギーというのは何でしょう。

水素はエネルギーとして使う事ができます。

水素は燃焼すると、水しか廃棄物を出しませんので、究極の環境に優しいエネルギーとして注目されてきました。

トヨタ自動車が開発した水素自動車「ミライ」は既に市販車として公道を走っています。

水素は天然ガスの様に火力発電所で燃料として使うことも可能であり、既に既存の火力発電所で天然ガスに混ぜて発電する燃焼運転が開始されています。

電気自動車は電池で動きますが、もっと大きな力を要する船、飛行機などは電池で動かすのは難しいとされており、水素エネルギーが有望と言われています。

その上、電気は貯蔵が難しいですが、水素は貯蔵が可能です。

水素は水を電気分解して作る事が多いのですが、例えば、風力発電による電気を使って水素を作れば、完全にカーボンフリーのエネルギーを水素の形で貯蔵する事が可能になります。

いい事づくめに見える水素エネルギーですが、欠点もあります。

何と言っても、最大の課題はコストです。現在水素には次の二つの作り方があります。

炭化水素(石炭など)由来の水素(グレー水素)と再生可能エネルギーを利用して作られる(ブルー水素)に大別されますが、EUが目指しているのは後者です。

EUは、水素のコストについて、過去10年間で6割下がったが、2030年までに更に5割減らすとしています。

一方、この水素を軸としたエネルギー革命は夢物語だと見ている向きもいます。

英通信社ロイターは「Europe faces high hurdles to make hydrogen hypo reality (欧州は水素に関する夢物語を実現するために高いハードルに直面している)」と題した記事を配信しましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。

ロイター記事概要

先月、欧州委員会は水素エネルギーを軸とする長期エネルギー戦略を発表しましたが、コロナ感染で疲弊した国々を説得し、巨額の投資を呼び込む事が可能にならない限り、彼らの戦略は夢物語に終わる可能性が高いと思われます。

彼らの目標はグリーン水素を軸とする社会を実現し、将来1.2兆ドル(約127兆円)に達すると期待される世界市場のリーダーになる事です。

しかしこれは簡単な事ではありません。水素の需要と供給を同時に大幅にスケールアップする必要があります。

Barclaysはこの目的を達成するために今後30年間、5,000億ドル(53兆円)のコストが必要になると試算しています。水素の流通ネットワークへの投資を含めるとこの数字は1兆ドル(106兆円)にまで跳ね上がる可能性があります。

現在、グレー水素は1.5ユーロ/tonで取引されていますが、グリーン水素は5.5ユーロ/tonで取引されています。

グリーン水素を生産させるインセンティブが当然必要になりますが、この補助金を出すか否かの判断はEU加盟国各国に任されており、これが大きな障害になると予想されます。

欧州の真の狙い

気候変動というものが実際に生じていることは明らかです。

しかし気候変動が不可逆的なものかどうかは専門家の意見も分かれるところです。

というのは、地球は過去に何度も温暖化と冷却化のサイクルを繰り返してきたからです。

2世紀ごろに起きた地球の冷却化は北方の蛮族の南下を促し、これがローマ帝国の弱体化に繋がった事は事実として確認されています。

従い、地球が再び冷却化する可能性はあるのです。

欧州がしたたかな点は、気候変動をスローガンとしてうまく利用して、世界中の国々に、自分たちのルールを受け入れさせ、環境対策に必要な膨大な機器を欧州から買わせようとしている点です。

気候変動という道義的な目標と、環境システムの拡販をうまく結びつけているところに彼らの巧みさがあります。

水素社会の成算は

EUの企ては成功するでしょうか。

私は、ロイターとは異なり、今回のEUの目論見を単なる夢物語とは思っていません。

1997年に京都議定書が締結された頃、世界にこれだけ再生可能エネルギーが普及すると予想できていた人は、ほんの一握りでした。

当時の風力や太陽光の発電コストは極めて高く、EUが掲げた高い達成目標をそんなの無理だろと懐疑的に見ていた人がほとんどでした。

しかし、EUはFeed in Tariffという効果的な補助金を用意し、意欲的な目標を次々に達成して行きました。

彼らが作り出した排出権という仕組みも再生可能エネルギーの普及に強い追い風となりました。

気がついてみると風力や太陽光エネルギーの発電コストは、見る見るうちに下がっていき、今や場所によっては再生可能エネルギーのコストが火力発電を下回るところも出てきています。

EUが自らに課した高い目標は、結果的にEUの環境ビジネス(例えば洋上風力)を世界一に押しあげ、新たな産業を育成することに成功したのです。

今回の水素社会の構築は確かに高いハードルですが、欧州はやり切るのではと思います。

日本もしっかり欧州の動きに追随する必要があると思います。

環境ビジネスはもはや税金を無駄使いするお荷物産業ではありません。

イノベーションが雇用を生み、外貨を稼ぐ重要な産業なのです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。