安倍首相辞任のニュース世界を駆け巡る
安倍首相の突然の辞任には驚かされましたが、その発表から一夜明けた8月29日海外メディアの反応を確認した処、多くのメディアがこのニュースを取り上げていた事に驚きました。
一番驚いたのは、米誌Foreign Policyで何と4本もの長文記事を掲載しています。安倍さんの辞任を予め知っていたのではないかと思うほどです。
各紙の安倍首相に対する評価は異なりますので、幾つかご紹介したいと思います。
安倍首相の評価
1)外交
米誌Foreign Policyは安倍首相の最大の成功は通商問題にあると分析し、次の様に伝えています。
「安倍首相の成功の鍵は、2016年の米大統領選におけるよく計算された対応であったと思われます。
彼はヒラリー クリントン候補とも関係を保ちつつ、トランプ候補とも非公式な面談を行いました。
この動きはトランプ大統領が就任後、最初に会う外国リーダーとして安倍首相を選ぶことになるきっかけとなり、二人が個人的な信頼関係を持つ事になりました。
『アメリカファースト』と呼ばれる時代に、安倍首相は国際通商の分野で最も多くの成果を残しました。
米国との通商戦争を回避しただけではなく、米国が離脱した後、リーダーシップを発揮して環太平洋パートナーシップ協定をまとめ上げました。
欧州ともEPA(自由貿易協定)を締結し、世界最大の貿易協定を実現させました。
今回の辞任は、中国を喜ばせ、米国に不安を与える事でしょう。」
次は同じく米国のCNNです。こちらはかなり辛口です。安倍首相の外交は成功も失敗もあったと分析し、下記の様に伝えています。
「安倍首相は米国との関係を最重要視し、トランプ大統領との個人的な信頼関係を築き上げる事に成功しました。
しかし、北朝鮮問題では、トランプ大統領の金正恩総書記との面談において蚊帳の外に置かれました。
安倍首相のタカ派的な言動は、アジア諸国特に韓国との関係を悪化させました。」
英誌Economistはこの問題については好意的です。
「安倍首相は、EUとの自由貿易協定をまとめ、米国離脱後、中国に対抗するためTPPをまとめ上げました。
オーストラリアのモリソン首相は安倍首相の事を「この地域だけではなく、世界に範たる政治家です。」と評価しています。」
2)内政
この分野では辛口のコメントが多いです。
まずCNNから始めましょう。
「アベノミクスは、日本経済の慢性的な不況を防止するにとどまり、本質的な体質改造に至っていません。
日本経済の最大の問題は少子高齢化ですが、安倍政権は移民受け入れに関して思い切った手を打ちませんでした。
女性の職場参加に関しても手を施したと主張しましたが、思った様な結果が得られていません。
オリンピックの誘致は安倍首相の功績の一つですが、コロナ感染により延期を余儀なくされ、年初、オリンピックの為に緊急事態宣言の発動が遅れたことは、コロナの被害を拡げました。」
英誌Economistは次の様に述べています。
「安倍首相は「アベノミクス」を掲げて、停滞する日本経済をデフレから救い出そうとしました。
外国人労働者の受け入れも十分とは言えないまでも増加させました。
長い間保護されていた農業も外国との競争を促しました。
オリンピックの誘致にも成功しましたが、コロナ感染により延期を余儀なくされました。
コロナの影響は経済に及び、今年第一四半期のGDPはマイナス7.2%の下落を記録しました。
日本のGDPは安倍氏が首相に就任した8年前を下回っています。
彼は多くの未完の仕事を残して首相府を去って行きます。」
フランスの経済紙「Les Echos」も厳しい論調で分析しています。
「安倍首相は日本経済の本質的な問題にメスを入れませんでした。
今や公的債務はGDPの250%にまで達しています。
少子高齢化に悩む日本が成長する為には、労働市場の根本的な改革と本格的な規制緩和が必要ですが、安倍政権はここに踏み込んで行きませんでした。
安倍首相は憲法改正に悔いが残るでしょう。
膨張する中国に対する為に、集団的自衛権までは認めさせましたが、憲法を改正するに十分な国民の支援を得る事は出来ませんでした。」
米誌Foreign Policyは、唯一好意的で「不人気ではあったが成功だった安倍首相の政策」と称した記事で次の様に述べています。
「 最近の世論調査では安倍首相のGo toキャンペーンを含めたコロナ対策を58%が満足していないと回答した様です。
しかし日本がコロナの死者を1,226人に抑えており、失業率も3%を下回っている事を考えれば、腑に落ちない結果です。
彼の内政は全てが成功したわけではありませんが、成功したものもあります。
彼が政権についた2012年は、日本経済が瀕死の状態でしたが、彼の思い切った金融緩和により、円高傾向を阻止することが出来ました。
黒田日銀総裁によるゼロ金利はインフレを呼び込むと批判を浴びましたが、彼のやり方を最近欧米の通貨当局が踏襲しているところを見ると、彼は時代を先取りしていたと言えるでしょう。」
欧米メディアの評価から感じること
首相を8年近く続けるという事は、大変な事だと思います。
コロナ感染が広がってからというもの、安倍首相は半年近く休みなしに働き続けられたそうですが、命をすり減らしながら、毎日様々な問題と闘い続けたものと思います。
安倍政権には加計、森友問題に代表される不祥事もあり、特に政権の末期には長期政権の膿の様なものが感じられました。
しかし、海外メディアが指摘する様に、外交面では、安倍政権の功績は高く評価されるべきと思います。
日本ではあまり取り上げられませんが、自由で開かれたインド太平洋構想や、米国が抜けた後にまとめ上げた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などは、安倍首相の指導力が国際的に高く評価されています。
昨日の安倍首相辞任の発表後、いち早く感謝のメッセージを流したのが、インドのモディ首相、オーストラリアのモリソン首相、台湾の蔡英文総統であった事から、この地域のリーダーとして安倍首相が高く評価されている事が窺えます、
安倍首相が記者会見で外交課題として拉致問題の解決、日露平和条約の締結をやり残した事は断腸の思いだとおっしゃていましたが、次の首相がこれら重要課題に積極的に取り組む事を期待したいと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。