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UAEがイスラエルに接近した本当の理由は

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UAEの歴史的決断の背景は

先日、UAEがイスラエルとの国交樹立を宣言し、世界を驚かせました。

私もパレスチナを犠牲にしてまで、UAE(アラブ首長国連邦)がイスラエルを選んだ事に衝撃を受けました。

それほどパレスチナを支援するというアラブの大義は重いものと認識していたからです。

トランプ大統領は、再選目的で今回のディールに関与したのでしょうが、UAEは米国に仲介されたからと言って、おいそれと仮想敵国であるイスラエルと国交樹立には踏み込めません。

この決断の背後には、何か深い理由があった筈です。

この問題に関して、フランスDominique Moisi氏が「L'axe Riyad-Jérusalem : une victoire à la Pyrrhus pour Israël(リヤドとエルサレムの枢軸:イスラエルにとってピュロスにおける勝利)」と題した論文を仏紙Les Echosに寄稿しました。

Moisi氏は欧州で最も古い教育機関であるColleg of Europeの地政学の代表を務めています。

彼の論文をかいつまんでご紹介したいと思います。

Moisi氏論文の要約

8月31日サウジアラビア空域を経由してアブダビに到着したイスラエルの飛行機はUAEとイスラエル間の関係が劇的に変化した事を物語りました。

我々はイスラム世界の地殻変動を目の当たりにするのでしょうか。

それともこの地域においてよくありがちですが、もっと複雑な展開が見られるのでしょうか。

いずれにしても確かなことは、我々の前で展開していることは過去と全く逆転した事実です。

 

イスラエルとエジプトの国交樹立、そしてイランでイスラム革命が起こる前のシャーの時代には、イスラエルはイラン、トルコと同盟関係を結び、アラブ諸国に対抗する枢軸を結成していました。

現在、これと全く逆の動きが中東で起こり、それはアジアにも広がっているのでは無いでしょうか。

良い例はパキスタンの外交戦略の変化です。

ついこの間まで、パキスタンとサウジアラビアの関係は非常に良好で、安全保障の分野までその友好関係は広がっていました。

ところが、パキスタンはサウジアラビアとイスラエルの接近を見越したのか、最近はイランやトルコ、更にはマレーシアに接近を図っています。

これとは対照的にインドはイスラエルとの関係を重視し始めました。

UAEとイスラエルの今回の合意は、単にイスラエルとアラブ世界の緊張緩和というものに留まりそうにありません。

人気テレビドラマ「Le Bureau des Legendes」ではアラビア砂漠のど真ん中で、DGSE(フランスの諜報機関)とイスラエル及びサウジの諜報員が密談を行うシーンがありますが、これはもはや現実と重なっています。

 

今回の歴史的な合意は、過去との継続性ではなく、過去との断絶を表している様に思います。

エジプトのサダト大統領ヨルダンのフセイン国王がイスラエルと平和条約を結んだ際には、米国との関係強化を彼らは望んでいました。

しかし、今回のUAEの決断は、イランそして最近ではトルコで拡大しつつある拡張的野心への恐れが原因となっています。

イランとトルコがUAEをイスラエルに追いやったのは、UAEの指導者たちが、米国への信頼を失っているからです。

米国との関係の変調は今に始まったわけではありません。

疑いは10年前、オバマ大統領時代に始まりました。

段階的に中東から撤退していく米国は、一貫性がなく、予測不能です。

そんな相手を頼りにするよりも、中東に存在し続けるイスラエルを頼りにした方が安全では無いかと言うのがUAEの判断でしょう。

非アラブのイスラム系国家たちが、パレスチナの大義を振りかざす一方で、穏健派のスンニ派アラブ国家は全く逆の選択をしました。

今日、湾岸の王族は、巨大な船を港に置いて最終的に避難することなど考えていません。

彼らは、イスラエルの保護を享受することが、世界で最も不安定な地域で最高の生命保険に加入する事ができると信じています。

パレスチナ問題は外交問題から消えました。しかし、イスラエルは今後も長い期間この問題と向き合っていかなければなりません。

イスラエルにとって、今回の合意は完全な勝利に見えますが、「ピュロスの勝利」(割りに合わない勝利)かもしれません。

フランスの分析

Moisi氏の見方は、フランスが今回の歴史的合意をどの様に見ているのかを知る上で、参考になりました。

米国が今回の合意を仲介したことから、UAEが米国に深い信頼を置いている様に思われたのですが、どうも違う様ですね。Moisi氏の次の様な指摘は興味深いです。

  1. 米国が中東から撤退する流れを作ったのが10年も前のオバマ時代からの事である事。
  2. 米国が本気で湾岸諸国を守ってくれないと感じたスンニ派のリーダーたちは、イランに対抗するため、敵の敵は味方という論理で、中東で最強の軍事力を誇るイスラエルとの協力を選択した事。

この流れの中で、パレスチナ問題は外交問題としては消えていくでしょうが、むしろ国内問題としてイスラエルに重くのしかかってくる様です。

これまではアラブ諸国の圧力の中でパレスチナに関して強硬策一辺倒で来たイスラエルですが、アラブ諸国がこの問題に関心を失えば、自分たちの問題として向き合う必要が出てくるでしょう。

イスラエル国内のアラブ系人口は約2割の160万人、パレスチナには360万人ものアラブ人がいます。

彼らをどうするか、イスラエルは重い課題に直面する事になります。

また、イスラエルはアラブ諸国をイランの脅威から守る事を期待されているので、これは同国に相当な負担を強いる事になります。

これらが、Moisi氏が今回の歴史的合意を「ピュロスの勝利」(割りに合わない勝利)と呼んだ理由だと思われます。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございます。