英誌 Economistのメインタイトルになった安倍首相
安倍首相のレガシーに関しては、内外のメディアが様々な論評を加えていますが、驚いたのは、英誌Economistが今週号のメインタイトルを「How Abe Changed Japan」(安倍首相は日本をどの様に変えたか)とした事でした。
Economist誌が日本の首相をメインテーマにした事は数少ないと思いますが、それだけ安倍首相は海外で存在感があったという事かと思います。
今週号の記事を、かいつまんでご紹介したいと思います。
海外から日本の首相がどの様に見られているのか、皆様のご参考になればと思います。
Economist誌要約
原題:Abe Shinzo’s Legacy is more impressive than his muted exit suggests(安倍首相のレガシーは彼の静かな退場が示すものより印象的だ)
彼の突然の辞任については、コロナによる経済不振、東京オリンピックの延期、憲法改正を実現できなかった事、そして最近の支持率低下を総理自身が受け止めた結果だと解釈する人もいますが、彼は一般に信じられているより遥かに優れた仕事をしました。
コロナ感染が広がるまでは、日本経済はゆっくりとではありますが、経済の再生に成功していました。
アベノミクスにおいて、2%というインフレ目標は達成できませんでしたが、少なくともデフレは阻止しました。
彼が赴任するまで4年間物価は下落していましたが、彼の在任中一年を除いて上昇しています。
経済を活性化する為、安倍首相はこれまで政治的に不可能と思われた政策を実現しました。
農家は自由民主党の最も忠実な支援者であるにも拘らず、農産物の輸入関税を大幅に削減し、輸入割当量を大幅に増加させました。
この施策により、環太平洋パートナーシップ(TPP)を締結させる事が可能になりました。
無料の保育園や育児補助金を通じて、女性の社会進出を実現させました。
外国人労働者に関しても、安倍首相が就任した時に比べ、二倍の外国人が日本で働いています。
コーポレートガバナンスも劇的に改善しました。
8年前は4割に満たなかった社外取締役は今や殆どの大手上場企業に存在します。
投資家のウォーレンバフェット氏が最近日本企業に投資を行いましたが、株式市場指数も安倍政権の間にほぼ二倍となりました。
外交面では、彼は大東亜戦争を引き起こした戦犯(岸元首相を指す)の孫ですし、ナショナリストを公言していましたので、中国と危険な戦いを引き起こす事を危惧されていました。
しかし、実際は、韓国との問題はあったものの、中国を過度に刺激する事なく、中国の軍事力及び経済力と向き合うことに成功しました。
米国がTPPからから撤退したとき、プロジェクトを存続させたのは安倍首相でした。
また、オーストラリアやインドなどの民主主義国家との軍事協力を強化しました。
彼はトランプ大統領と親密な関係にありましたが、驚くべきことに、コロナ感染が広がるまでは、中国の習近平国家主席とも良い関係にありました。
憲法改正は出来ませんでしたが、安倍首相は他国との安全保障上の取り決めや平和維持活動において、日本を国際的に頼りになる存在にしました。
もちろん失敗ややり残した問題もあります。
二度の消費税増税は経済を停滞させました。
財政赤字は膨らみましたし、日銀のマイナス金利は金融業界にダメージを与えました。
日本では労働人口が減少している為、女性の社会進出は重要課題ですが、企業文化は依然として性差別的です。
非正規雇用者は労働市場を非効率的にしています。
一方、政府の仕事はデジタル化が非常に遅れていますし、気候変動問題も対応が遅れています。
しかし、安倍首相は後継者にこれらの問題に対処する為に役立つ大きな財産を残しました。
一つはそれまで首相を振り回してきた派閥の力を削いだ事と、もう一つは、それまで自分たちの論理で動いてきた官僚にしっかりグリップを効かせる事に成功した点です。
次の首相は、彼が何をやるにつけても、安倍首相が築き上げたこの財産に感謝する事でしょう。
安倍首相の足跡を振り返って
安倍首相が在任中、戦後最長の好景気を達成したとの政府発表に対して「失われた30年だ」と酷評していた私ですが、冷静に安倍首相時代を振り返ると、歴代政権よりも多くの実績を残されたと思います。
安倍さんがこれだけの業績を挙げられたのは、彼が選挙に強かったからだと思います。彼は自分の政策を実現するためには、解散を躊躇しませんでした。
解散、選挙を通じて政治上の難題を解決して行ったのです。
TPPは11か国の国際協定ですが、一番の難敵は、国内の農業団体だったと思います。
外交交渉を成功させる為には、国内の敵に打ち勝たないといけないわけです。
Economistが指摘する様に、自民党の支持基盤を支える農業団体の猛烈な反対を押し切って、TPP締結を実現したのは、やはり安倍首相の力量だったと思います。
巷では消費税増税を彼の失政の一つとして挙げる方が多いのですが、普通、政治家は増税をやりたがりません。
過去の例を見ても、増税を断行した竹下首相や橋本首相などは、増税の直後に支持率が低下し、退陣を余儀なくされています。
しかし、安倍首相は不人気な消費税増税を、敢えて行ないました。
私はこの点むしろ評価しています。
コロナ感染対策で膨大な財政支出が行われましたが、増税していなければ更に財政赤字が膨らむところでした。
次の政権には、安倍首相がやり残した課題に挑戦してもらいたいと思います。
特に成長戦略です。
競争力と活力を持った日本を作るため規制緩和を思い切って進める必要があるでしょう。
日本には、規制に守られて、大した努力をしなくても、利益が上がる会社が沢山あります。
次の首相にはそういった業界に思い切ってメスを入れて頂ければと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。