ソフトバンク巨額のオプション取引明るみに
ソフトバンクグループの総帥は、ご存知の孫正義さんです。孫さんは一時日本一の富豪にもなりました。
時価総額でトヨタ自動車に次ぐ会社をゼロから作り上げた彼の先見力、行動力は高く評価されています。
投資家としても大きな成功を収め、特に有名なのはアリババへの投資です。
彼が投資した2000万ドル(21億円)はなんと今や1,000億ドル(10.6兆円)に化けており、この成功がソフトバンクGの急拡大を実現させたと言って良いでしょう。
しかし、彼の投資勘にも最近陰りが見られ、昨年は米のシェアオフィス会社ウィーワークへの投資で大きな損失を出しました。
米国の物言う株主であるエリオットグループは孫会長に対して、自己資産の売却と、大きな投資の自粛を求めました。
これに対応して、昨年からソフトバンクGは資産の切り売りを始めていたのですが、孫会長は根っからのギャンプラーなんですね。
ここにきて密かに米国ハイテク株に関する巨額のオプション取引をやっていた事が明るみに出ました。
オプション取引というものご存知ない方も多いと思いますので、簡単にご説明したいと思います。
今回ソフトバンクGが行った取引はコールオプションと呼ばれるものですが、これは、ある株式を一定の価格で将来購入する権利を得る事です。
こんな風に説明してもわかりにくいので、具体例でご説明しましょう。
ある投資家は株が将来値上がりすると予測し、現在価値100ドルの価値の株を2ヶ月後に 同じ価格で購入する権利(コールオプション)を購入します。
この権利を獲得するために投資家は相手(通常ヘッジファンドや投資銀行)に10ドルのプレミアムを払います。
2ヶ月後に株の価格が150ドルになっていれば、投資家はコールオプションの権利を行使して、相手から100ドルで株を購入します。
この株を市場で売れば、150ドルから100ドルとプレミアムの10ドルを引いた40ドルが利益として投資家の懐に転がり込むのです。
一方、株が値下がりして、90ドルになったらどうなるでしょうか。
投資家はコールオプションを行使しません。相手に払ったプレミアム10ドル分損することになります。
ソフトバンクはこの取引を非常に大きな規模で行った様です。
相手に払ったプレミアムだけで40億ドル(4,240億円)で、ソフトバンクがこのオプションを全て行使した場合、購入する株の価格は500億ドル(5兆円)以上と推定されています。
この取引にはもう一つ注目すべき点があります。
ソフトバンクは最悪のケース、プレミアムの40億ドルがリスクの限界ですが、相手のヘッジファンドや投資銀行のリスクは青天井です。
株価が倍になった場合、市場で株を調達し、元々合意した価格でソフトバンクに差し出さなければならないのです。
従い、ヘッジファンドなどはこのリスクを抑えるために、8月中にかなりハイテク株を購入していた様です。
これが8月のハイテク株の高騰につながっていたと言われています。
今回のソフトバンクのオプション取引に関しては、欧米のメディアから批判の声が聞こえてきています。いくつかご紹介したいと思います。
海外メディアの報道から
1)米ウォール・ストリートジャーナル
「ソフトバンク グループ(SBG)の株価は週初から8%急落し、時価総額のうち87億ドル(約9200億円)が帳消しとなった。
ここにきて発覚した巨大なオプション取引が嫌気された。」
「最近のハイテク株の急騰を踏まえると、ソフトバンクにはかなりの含み益が出ているはずだが、投資家にとっては大した慰めにならないだろう。
相場の流れが反転すれば、こうした含み益はいとも簡単に吹き飛んでしまいかねない。
投資家は昨年、手痛い経験をしている。
ソフトバンクの積極投資によって評価価値が大きく膨らんでいたシェアオフィスの米ウィーワークは、結果的に巨額の損失をもたらした。
ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)に対するソフトバンクの投資は、少なくとも同社が掲げるテクノロジーに関する長期ビジョンに合致している。
だが、株オプション取引への投資について同じことは言えない。
孫正義会長が「第二のアリババ」を発掘することを期待する投資家は、この新たな投資戦略に唖然とするだろう。」
2)英ロイター
「このオプション取引について、最終的に利益が出るかどうかという問いは本質的な問題ではない。
問題は、投資家自身が、孫氏の個人的な支えもないまま、結果的にハイテク株に投資させられていることにある。
投資内容が不透明なのも気になる点である。」
「投資子会社が、孫氏自身の資金と株主の資金を混同している点と、孫氏自身がこの取引を指示している点は、ソフトバンクGのガバナンス(企業統治)の不備を想起させる。
同社の株価を押し下げているのは、ガバナンスの欠如なのである。」
3)英ファイナンシャルタイムズ
「米ハイテク企業のコールオプション取引は、ソフトバンクの企業統治がどれほどお粗末で、財務的に不透明であるかを浮き彫りにした。
同社は上場し、多くの個人投資家がその株を売買しているにもかかわらず、これでは大型ヘッジファンドと変わらない。
「クジラ」(相場に大きな影響を与える正体不明の巨大投資家を指す)と呼ばれる投資家の正体がソフトバンクだったと判明したことを喜ぶデリバティブトレーダーたちは今、このオプションは権利を行使すれば損失が出る「アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)」の状態ではないかと考えている。
そうだとすれば、ソフトバンクはすぐに利益を確保しようとしても権利行使ができない。
そうなれば孫氏は米ハイテク株が急落した場合、その影響を二重に被ることになる。
予想PER(株価収益率)が900倍にもなるテスラをはじめ、ソフトバンク保有株の現在価値が高いことは、本当に危険な状態にあるということだ。」
ガバナンスは日本企業に根付くか
なかなか欧米のメディア厳しいですね。
孫さんとしては、IT株高騰を上手く利用して、投資家に安心感を与えようと考えて打った手だと思われますが、ガバナンス(企業統治)を重視する欧米メディアから厳しい批判を浴びることになってしまいました。
ガバナンスというのは最近、日本でやっと注目される様になってきましたが、未だ文化として根付いているとは言えません。
何せ、株の持ち合いで、これまでなあなあでやってきたものですから、企業文化を変えるのにはかなり時間が掛かると思います。
しかし、日本の株式市場が国際化し、外国投資家から資金を得ようと思うのであれば、ガバナンスは避けて通れません。
アベノミクスは日本の株価を引き上げたと言われていますが、市場最高値に比べれば、未だに程遠い水準です。
米国のS&P500の価格がこの10年で3倍になったのとは対照的です。
日本企業が、今回のケースから教訓を得て、ガバナンスを更に向上させることを期待したいと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。