ディズニーの大失策
ディズニー映画の最新作「Mulan」ご存知でしょうか。
私もまだ映画自体鑑賞していないのですが、今ネット上で頻繁に取り上げられています。
この映画が話題になった理由は、映画の内容に関するものではありません。
主人公を演じる中国人女優がネット上で「私は香港警察を支持する。」と書き込んだ事や、映画のエンドロールでこの映画が撮影された新疆ウイグルの地方政府に感謝している事が明らかになった事で、ディズニーは厳しい非難を浴びる事になってしまったのです。
慌てたディズニーは、この映画の上映を諦め、ネットでの鑑賞に切り替えた様ですが、批判は止まりません。
ディズニーが今回浴びた批判は、中国でビジネスを行っているいかなる企業も無縁ではありません。
米誌「Foreign Policy」がこの点について「Disney’s ‘Mulan’ Disaster Highlights Dangers of China Deals -The cost of doing business with Beijing has risen sharply and swiftly.」(ディズニーの「Mulan」の大失敗は中国との取引の危険を浮き彫りにした- 中国とのビジネスリスクは急激に増大している)と題して記事を掲載しましたので、ご紹介したいと思います。
Foreign Policy記事要約
ディズニーの最新作「Mulan 」は何かに呪われている様です。
主人公を演じる女優Liu Yifeiの香港警察支持の発言に始まり、その後、コロナ感染拡大により、公開日が延期になりました、
その後、映画が公開になった時、エンドロールで新疆自治区の当局に感謝していた事が明るみに出ました。
残念ながら当局者は、現在進行中の大量虐殺の責任者たちです。
更に厳しい試練がありました。
中国政府はこの映画のヒットを祈るディズニーにとって最後の頼みの綱でしたが、この映画に関する報道を封切りの数日前からシャットアウトしました。
中国政府へのディズニーの迎合は、政治的な問題が生じた後には、何の意味もありませんでした。
しかし、ディズニーがこの映画の制作を2015年に発表した時、中国を舞台にした映画の撮影というアイデアは理に適ったものでした。
確かに人権問題はありましたが、今の様に、大統領が中国企業の一部を禁止したり、「中国ウイルス」と名付けて、中国を批判したりはしていませんでした。
香港は自由の楽園であり、警察国家ではありませんでした。
ハリウッドは中国政府が受け入れられるコンテンツについて検討を重ね、ディズニーはチベットに関する映画を作った事に対して、中国政府に謝罪しました。
習主席の国内抑圧強化とトランプ大統領のナショナリズムによる米中関係の悪化は両国間のビジネスに大きな影響を与えています。
ほんの数年前場合によっては数ヶ月前に合意されたものが、一晩で破棄されます。
中国との問題で大きく影響を受けた企業はディズニーだけではありません。
NBA(米国プロバスケットボール連盟)は香港に関する失言を受け、数億ドルを失いました。
プレミアリーグ(英国のプロサッカーリーグ)は英国が香港の扱いに不満を漏らしたため、あまり人気のないチャンネルに強制的に移動させられ、中国での視聴率を失いました。
カナダのキャノーラ油生産者は、カナダ政府がHuawei社の幹部を逮捕したため、中国への輸出が出来なくなりましたし、オーストラリアの業者も中国の標的になっています。
韓国政府が米国のミサイル防衛システムを導入した際に、韓国財閥ロッテは中国での全ての事業が閉鎖されました。
それでも、中国との取引を行おうとする企業もありますが、それは彼らが所属する政府の中国に対する方針に振り回されるだけです。
インドは国境紛争を契機に、中国との本格的なデカップリングに乗り出しています。
米国は制裁対象企業リストに中国企業を毎週追加しています。
制裁リストに載っていない企業とのビジネスも違法となるケースがあります。
中国最大の広告プラットフォームであるWeChatに米国企業が広告を掲載する事は、おそらく違法です。
企業は今の嵐が過ぎ去る事を待とうとします。
中国市場の規模は、簡単に諦めるにはあまりに魅力的です。
しかし、それは今回意味がありません。
習主席の政治的振り子は完全に鎖から外れました。彼の政治的妄想、対外恐怖症もあいまって、今までの傾向は更に続くと見るべきでしょう。
そして米国もトランプ大統領が大統領選で敗れたとしても、現在の米国の反中政策は変わらないでしょう。
多国籍企業の中国に対するアプローチとしては、中国の要求にも応じるという手があります。
航空会社の何社かは、台湾に対する中国の要求に応じましたし、香港に在籍する会社は、中国政府の前にひざまずきました。
しかし、NBAとディズニーのスキャンダルが示した様に、彼らは米国本国で大きなリスクに晒されます。
中国の要求に準拠する企業は、議会の前に引きずり出され、国際的なメディアの批判にもさらされるでしょう。
13億人の中国市場を夢見ている企業家に忠告します。現在の中国に対応できると思っていても、明日中国が何をもたらすかは誰もわかりません。
日本はどうすべきか
この記事の著者はForeign Policyの副編集長であるJames Palmer氏ですが、民主党政権になったとしても今の中国に対する厳しい政策は変わらないと明言している点が印象的でした。
確かに議会では民主党も中国に対して厳しい意見を発しており、バイデン候補が当選しようが、以前の中国に対するソフトな政策に逆戻りすることはなさそうです。
それでは、米中両国の圧力を受ける日本は、どうすれば良いのでしょうか。
ここはしたたかに振る舞うべきと思います。
もちろん日米関係が外交の軸であることを揺るがしてはいけないと思いますが、米国一辺倒にならず、中国とのパイプも開けて置く必要があると思います。
中国も米中関係の悪化の中、欧州と日本に秋波を送ってきています。彼らも孤立したくないのです。
本日、菅氏が総裁選に勝利しましたが、次期政権が米中の間でしたたなか外交を展開する事を期待します。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。