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中国にどう立ち向かうか - 大きく変わった米国の見方

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大統領選も大詰めを迎えようとしていますが、中国にどう対応するかが重要な争点の一つとなっています。

そんな中、プリンストン大学の教授Aaron Friedberg氏が米誌Foreign Affairsに「An  Answer to Aggression - How to Push Back Against Beijing」(圧政に対する回答 - 中国にどの様に立ち向かうか)と題する論文を寄稿しましたので、ご紹介したいと思います。

米国の中国に対する見方を知る上でご参考になればと思います。

少し長くなりますが、お付き合いください。

Friedberg教授論文の要旨

新型コロナに関する初期対応のミスそしてその後に生じた世界的な危機を悪用した中国共産党の振る舞いは、米国では共和党、民主党支持層を問わず、6割以上が否定的に捉えており、それは米国の同盟国でも同じ様です。

この40年間というもの、西側世界は中国との「関与政策」が、中国指導者に「修正主義」的行動を諦めさせ、米国が主導する国際秩序の中に、責任ある一員として加わる事を期待していました。

貿易と投資の拡大が、中国政府に政治経済的な開放を促すと信じていましたが、この「関与政策」は間違いだったことが明らかになりました。

習近平政権は国を開放するのではなく、国内では圧政を行い、米国が持つ経済そして技術面での覇権を奪い取ろうとしています、

彼らは民主主義国家が開放的である事を利用して、彼らの都合の良い様に民主主義国家の世論を誘導しようとしています。

一方で、発展途上国のリーダーとしての地位を確立し、彼らの支援を得て、国際的なルールを書き直し、発展途上国のリーダーたちの権威主義的な好みに沿って国際的な基準、制度を再構築することに取り組んでいます。

長い目で見れば、中国の支配者は、民主主義社会をを分裂させ、弱体化する事を狙っています。

 

その様に夢みる事は彼らの勝手ですが、それを実現する事は全く別の事です。

中国には強みもありますが、経済成長の鈍化、急速に高齢化する人口、国民の同意に基づかない統治システムなど大きな弱みもあります。

しかし、中国政府がこれらの弱点により勝手に転覆するとは考えない方が良いでしょう。

 

先ず、米国と同盟国は中国に対する軍事面での防御を強化する必要があるでしょう。

また経済、社会面でも、中国の侵入や影響力行使に対抗する必要があるでしょう。

しかし、防御だけでは不十分です。

中国がもっと小さい時期であれば、防御だけで対応できたかも知れませんが、これだけ巨大化した相手に対しては、米国と同盟国はより積極的なアプローチをとって、中国から主導権を取り戻す必要があります。

米国とその同盟国は、中国の体制が根本的に変わるという希望を捨てるべきではありません。

民主主義には普遍的な価値があり、中国を含む全ての人々がその価値観から生まれる権利と自由を享受すべきだという主張は堅持すべきです。

中国封じ込めに対する国家戦略

中華人民共和国は1949年の建国以来、国内外の脅威に立ち向かってきました。最大の脅威は米国でした。

中国は米国が関与政策を論じているときも、米国が中国を封じ込めようとしていると感じてきました。

また、米国は国際的な自由主義を唱えることにより、一党独裁のレーニン主義国家である中国政府の正統性にも疑問を呈してきたと認識しています。

この脅威に対抗するために、中国は三つの目標を追求しました。

  1. 政治権力の独裁を維持すること
  2. アジアにおける中国の支配的な地位を取り戻すこと
  3. 最終的に米国を凌駕するスーパーパワーとして社会主義システムの優位性を示すこと

この目標は変わっていませんが、目標を達成する自信は高まりました。

ターニングポイントはリーマンショックでした。

この世界的な金融危機を乗り越えた事で、中国の指導者層は自信を深め、米国や同盟国が没落途上にあると認識するに至りました。

習近平が2012年に権力を掌握した後、この傾向はより顕著になりました。

彼は鄧小平の「能力を隠して、時間を稼げ」というアドバイスに従わなくなりました。

中国は彼らが有利であると判断している現在の状況を継続させたいと考えています。

彼らは、現在のシステムが継続して利益を生む事を強調すると共に、地球温暖化や疫病感染防止の面での協力を西側にアピールしています。

一帯一路政策

大規模な一帯一路政策においては、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカにまたがり、資源確保、新市場の開拓、軍事力の拡大を目指しています。

しかし、中国政府は、発展途上国のリーダーとしての地位を固めることも目指しています。

独裁的な政治と市場経済の融合を唱え「彼らの独立を守りつつ、開発をスピードアップしたい」と習近平は語ります。

中国は発展途上国のエリートたちとの関係を利用して、WHO(国際保健機関)などの国際機関に影響を与え、中国が簡単に支配できるグループに入る様奨励しています

軍事面で米国がとるべき戦略

米国の戦略を成功させるための出発点は、インド太平洋における軍事力の有利なバランスを維持することです。

ワシントンが防衛予算を増加させる事はは難しいでしょうが、それは可能です。

国防総省は、地域の同盟国(特にオーストラリアと日本)と民主的なパートナー(インドと台湾を含む)との協力を深めながら、希少な資源を中東やヨーロッパからインド太平洋に向けてシフトする必要があります。

中国を対象とする軍事戦略においては、中国の海上封鎖が有効でしょう。

この結果として、中国は不経済な陸上パイプラインや輸送インフラへの投資を余儀なくされるでしょう。

中国は対潜水艦作戦にもっと資源を投入せざるを得なくなりますが、彼らにとってほとんど経験がない分野です。

成長の競争

経済の領域では、中国はテクノロジーの盗用、国内産業への助成、市場へのアクセスの制限という問題のある政策を放棄することはありません。

彼らは得られた経済的利益を国民の福祉に回すのではなく、党と国家の強化のためだけに使います。

中国共産党によって支配された中国は、単に経済的な競争相手であるだけでなく、地政学的にもイデオロギーの面でもライバルであります。

これらの事実に照らして、米国および他の先進工業国はもはや中国を単なる貿易相手国として扱う余裕はありません。

監視や妨害行為から身を守るために、米国とそのパートナーは、情報技術ネットワークにおける中国企業の役割を制限し、彼らが国民の個人データを取得することを防ぐ必要があります。

民主主義国家はまた、サプライチェーンの多様化を奨励して、いくつかの重要な材料や製造品に対する中国への依存を抑える必要があります。 

軍事上および商業上の理由から、米国はハイテクにおけるその優位を維持および拡大する必要があります。

イノベーションを促進するために、米国政府は教育と基礎研究により多くの投資を行い、世界中から有能な人々を引き付ける移民政策を採用する必要があります。

オープンな社会の保護

中国共産党は言論の自由が保証された西側社会の開放性を利用します。

中国政府の諜報活動は巧妙です。

彼らは地元の弁護士やロビイストを雇い、影響力のあるシンクタンクと大学に寛大に寄付します。

これらの活動のほとんどは米国で合法です。しかしより厳しい規則が明らかに必要です。

アメリカの高等教育制度は、世界中から人々を引き付ける非常に貴重な資産です。

中国からの学生や研究者の大多数は脅威をもたらしませんが、中国政府の人材採用プログラムを通じて資金を受け入れた科学者やエンジニアは、米国政府の資金提供を受けるプロジェクトへの参加を禁止されるべきです。

米国にとっての課題は、米国で勉強する正当な理由がある中国人に対して可能な限りオープンにしながら、これらすべてを行うことです。

継続的な開放性は、西側の民主主義は中国の政府ではなく中国の人々との間に問題を抱えているという中国共産党の主張を覆すのに役立ちます。

発展途上国との問題

コロナの世界的感染の広がりは、中国に発展途上国において影響力を強化する機会を生み出しました。

一帯一路に関連するプロジェクトの融資返済が、コロナの影響で不可能になった国に対して、中国は難しい選択肢を迫られています。

もし即時返済を求めれば、コロナ感染の最中、中国政府の無慈悲な態度は批判を浴びかねません。

一方、借入国がデフォルト(債務不履行)に陥れば、貸し手の中国の銀行は損失を被り、習近平は海外での無理な冒険に対して批判を浴びかねません。

いずれにせよ米国や同盟国は、債務返済で苦しんでいる国々に対しての国際機関の援助が中国政府や銀行の救済にならないようにすべきです。

中国には「債務の罠外交」(発展途上国を借金漬けにして、言う事を聞かせる手法)と呼ばれる彼らのやり方に自分で責任をとらせるべきです。

中国への広報活動の重要性

中国政府はコロナ感染が発生した直後、国民の情報発信にうまく対応できませんでしたが、その後グリップを取り戻し、批評家を沈黙させ、自己称賛を行い、ウイルスの起源に関する偽情報を拡散しました。

しかし、中国共産党が自国民にどの様に見られているか気にしている事は明らかです。

その意味で、中国が外国から情報が入ってこない様に作った「万里の長城」と呼ばれるファイアーウォールに侵入する試みは今後も続けるべきです。

重要な中国の声を増幅し、中国の中で何が起こっているかについての正確な情報を中国に流すことを続ける必要があります。

米国で生まれたコンセンサス

トランプ政権は、米国の中国の政策をより現実的な方向に転換させました。

しかし、大統領は、同盟国との摩擦を引き起こし、民主主義の価値について説得力のある発言ができないことを証明し、人権侵害について北京を批判することを拒否しました。

それでも、現在、民主党と共和党が中国に対して柔和であると非難しあい、より厳しい立場を争うために競争しているという事実は、米国内で中国政策に関するコンセンサスが形成され始めていることを示唆しています。

論文を読んで思うこと

この論文を読んで、かなり中国に厳しいなと感じられた方も多いと思います。

しかし、米国は保守からリベラルまで中国に対しては相当厳しい見方に転じており、ここに書かれていることはそれほど偏った意見ではないと思った方が良いと思います。

中国は科挙制度を続けてきた国ですので、北京のスーパーエリートたちが、西側の戦略を仔細に分析して、作戦を立ててくる筈です。

旧ソ連と中国の大きな違いの一つに、中国のテクノクラートの優秀さが挙げられると思います。

従い、そう簡単に中国が西側の軍門に降るとは思えませんが、Fridberg教授が唱える様な作戦を米国政府と同盟国が歩調を合わせて採用すれば、さすがの中国テクノクラートも対応に苦慮すると思います。

菅政権の基本方針が発表されましたが、規制緩和等内政が中心で、日本が国際社会でどういう役割を果たすのか明確な方針が示されなかったのが気になります。

対中政策は待ったなしです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。