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偉大なアラブの外交官 - クウェート首長の死去

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クウェート首長の死

クウェートの王、サバハ首長が、 91歳で死去しました。

クウェートという国、サウジアラビアやアラブ首長国連邦に比べて目立ちませんが、日本にとっては大事な国です。下のグラフをご覧ください。

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出典:Yahooニュース

このグラフを見ればお判りの通り、クウェートは日本が原油を輸入する国としては四番目に重要な国です。

クウェート首長の死去は、日本では大きく取り上げられませんでしたが、流石にアラビアのロレンスの伝統を汲む英国はこの王の死去がどの様な波紋を地域に広げるか関心を持っている様です。

英誌Economistの記事「The death of Kuwait's Emir robs the Gulf of a real diplomat」(クウェート首長の死により、湾岸諸国は真の外交官を失った)をご紹介したいと思います。

Economist記事要約

彼の最後の役割は王でしたが、彼は外交官として大きな役割を果たしてきました。2006年に王位に就く前に、数十年を外務大臣として送りました。

彼は、クウェートをその大きな隣国であるサウジアラビアの支配下に陥らせる事なく、主に移民労働者で構成される500万人に満たない小さな国を影響力のあるプレーヤーに変える事に成功しました。

彼が生まれた頃のクウェートは真珠取引で生計を立てていました。

彼が9歳の時に発見された石油は、この国を世界で最も豊かな国の1つに変貌させました。

サバハ首長は1963年に外相に就任し、1990年にイラクのサダム・フセインが侵略した時も含めて40年間、その役職を務めました。

イラクによる占領から米国を中心とする有志連合によって開放されたことにより、彼はアメリカに深く感謝する様になりました。

彼が7月に重病になったとき、治療のために彼を米国に運んだのはアメリカ空軍の飛行機でした。

戦争はまた、国際協力の必要性を彼に痛感させました。

サバハ首長は、1981年に設立された6カ国からなる湾岸協力会議の創始者の1人でした。

そのメンバーの3カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン)が2017年にメンバー国のカタールに経済封鎖を課した時、クウェートは参加を拒否し、首長は紛争の調停を試みました。

一方、彼は国内政治においては苦労しました。

湾岸の君主国の中で唯一クウェートには、真の権力を持つ議会があります。

サバハ首長は、議員との論争のために議会を何度も解散させました。

近年、石油価格の低下がクウェートの財政に穴をあけたため、彼は予算の問題にも取り組まなければなりませんでした。

現在、国庫には、10月末までの公的部門の給与を支払うのに十分な現金しかありません。

しかし、首長は人気のある人物でした。

2015年、ジハード主義者がクウェート市のシーア派モスクを襲撃し、27人を殺害した時、彼は犠牲者を慰めるために現場に駆けつけました。

これは、湾岸地域の支配者の中では珍しい個人的な感情の表し方です。

故首長の異母兄弟であるナワーフ アル サバーが、サバー首長の死が発表されてから数時間後に王位に就きました。

彼は経験のないリーダーであり、すでに83歳です。

彼の主な役割は後継者の選定です。

候補者たちは近年、公に闘争を繰り広げており、汚職の疑いも出ています。

ここでも、クウェートの議会には重要な役割があります。

それは、新しい首長が選んだ後継者を拒否する事です。 (サバハ首長自身、前任者が不信任投票された後に権力を握りました。)

 

クウェートは、今年、統治者を変更した2番目の湾岸諸国です。

オマーンの首長は1月に亡くなりました。

二人の首長はこの地域で大きな敬意を得て、独立した外交政策を追求する自由を持っていました。

オマーンの首長と同様に、サバハ首長はイランとの対立において交戦よりも外交を選びました。

彼らが亡くなると、湾岸の権力はサウジアラビアとアラブ首長国連邦の手に渡り、若くて頭でっかちな王子たちに率いられます。

湾岸諸国は、外交が最も必要とされている時に、一番経験豊富な外交官を失ったのです。

先行きが心配な湾岸諸国

クウェートは80年前まで真珠取引で生計を立てていたとは知りませんでした。

それにしても、この首長の一生は波乱万丈ですね。

サダム フセインによって殺害されていても不思議はありません。

彼が作り上げた豊かな石油の時代は終わりを告げようとしています。

米国でのシェールオイルの発見、先進国でのグリーンエネルギーの高まりを背景に、石油価格は低迷を続けています。

クウェートの国庫財政がそれほど逼迫しているとは知りませんでしたが、どこも湾岸諸国は火の車の様です。

これまで潤沢な石油収入を背景にばらまき財政を行い、国民の不満を押さえてきた湾岸諸国ですが、石油収入が低下すれば、同じ手は使えません。

国民の不満は爆発し、反政府運動に繋がりかねません。

敵の敵は味方とばかりに、湾岸諸国はイランの敵のイスラエルと国交を樹立し始めましたが、これによって湾岸地域が安定するかどうかは疑問です。

今後の湾岸情勢は緊迫度を増す可能性が高いと思われます。

原油輸入の9割近くを湾岸諸国に依存してる日本は、この問題を直視する必要があるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。