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ナゴルノ=カラバフ紛争は止められるか

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凍結された紛争の再燃

アゼルバイジャンとアルメニアの間に生じたナゴルノ=カラバフ地域での紛争は激しさを増している様です。

以前にこのブログでもご紹介した様に、このナゴルノ=カラバフ地域というのは、アゼルバイジャンの国内に飛び地の様にありますが、ほとんどの住民がアルメニア人という特殊な地域です。

この地域は1992年から3万人の死者を出した戦闘の結果、アルメニアが実効支配する事になりました。

その結果、同地域に住んでいた70万人ものアゼル人が退去を余儀なくされました。

人口が三分の一しかない小国アルメニアに敗北したこの紛争は、堪え難い屈辱としてアゼル人の心に刻まれました。

戦いに勝利したアルメニアは、武力侵攻という批判を避けるために、この地域を自国に併合せず、「アルツァフ共和国」として独立させようとしましたが、国際的にはこの傀儡国家はどの国家からも認知されていません。(ロシアも認めていません。)

この紛争は言ってみれば、「とりあえず凍結した紛争」であり、きっかけさえあれば、簡単に火の粉が上がる性質のものでした。

この紛争は止められるのでしょうか。ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Can Anyone Stop the Caucasus Crush?」(誰かコーカサスの紛争を止められるか) と題した記事を発表しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

世界に無秩序が拡大化する中で起きたアゼルバイジャンとアルメニアの紛争は、大国が他の優先課題に気を取られている間に中規模の国が好機を利用する例を示しています。

パワーポリティクスの観点から見ると、この紛争は、トルコのエルドアン大統領が国内の権力基盤を強化しつつ、同国の国際的地位向上を目指す取り組みのように見えます。

ロシアは旧ソ連地域の中で、最もやっかいな南コーカサス地方で難題を突き付けられています。

同国はアルメニア、アゼルバイジャン両国との良好な関係を望んでいます。

ロシアにとって最悪のシナリオは、南コーカサスの紛争が国内に波及することです。

ロシアの支配に反感を抱くイスラム教徒の少数派民族は、チェチェン人だけではないからです。

トルコは、アルメニアがロシアや西側の友好国を説得して紛争を終わらせてもらう前に、アゼルバイジャンがアルメニア軍を打ち負かせると計算している様です。

アルメニア人は粘り強い戦士として高く評価されていいますが。外国の助けがなければ勝てる可能性はほとんどありません。

アゼルバイジャンの国内総生産(GDP)はアルメニア約4倍、人口は3倍に及びます。

加えて、アゼルバイジャンは、1994年の屈辱的な敗北の後、軍隊に重点的に投資してきました。

エルドアン氏の賭けは成功するかもしれません。

ロシアは新型コロナの第二波に苦しんでいるほか、ベラルーシの政治危機に気を取られています。

トルコと連携するシリア人の傭兵がアゼルバイジャン軍を支援しているという報道については、この記事が掲載される時点で未確認ですが、それはロシアにとって紛争の重みを倍加させます。

鍛えられた戦争経験者やジハーディスト(イスラム聖戦主義者)がコーカサス地方に存在することは、トルコがその気になればロシアにとって多くの問題を作り出せる事を、想起させます。

この紛争は、アルメニアのもう一つの近隣友好国であるイランにも問題をもたらします。

イランに住む1500万~2000万人のアゼリー人(トルコ系民族)国内最大の少数民族で、イラン政府がアルメニア支持に傾く何らかの兆候が見られれば、反政府運動に移るでしょう。

イランは米国の制裁による打撃を受けている事もあり、新たな紛争に首を突っ込むことをためらうでしょう。

アルメニアは西側の支援を期待するでしょうが、支援は来ないかもしれません。

フランスや米国に存在する政治的に強力なアルメニア系移民のコミュニティーは、支援を呼び込むすべを心得ています。

しかし、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とトルコのエルドアン大統領はうまく時期を選びました。

米国は新型コロナや大統領選に気を取られているほか、外国駐留部隊の撤退や規模縮小の機運の中で、その反応は冷淡なものとなる可能性が高いです。

又、欧州連合(EU)の行動はせいぜい象徴的な制裁措置、懸念の表明にとどまるでしょう。

 

エルドアン氏にとっては、コーカサスにおける勝利は個人的な勝利にもなるでしょう。

アゼリー人はイスラム教徒のトルコ系民族であり、東方教徒のアルメニア人と対立しています。

そのアゼリー人の側に立つことは、トルコ国内の信仰心の厚い市民やナショナリストから強い支持を得ています。

トルコの勝利は、この地域の大国としてトルコをより重視することをロシアに強いることになるでしょう。

それはまた、エルドアン氏の米国からの自立を強め、オスマン帝国の失われた栄光を復活できる人物として評価を高めることになるでしょう。

一方、エルドアン氏が損失を被るリスクもまた大きいでしょう。

特にロシアが本気で決着を図ろうと決断した場合はそうです。

しかし、一段と無秩序になりつつある世界において、トルコのような中規模国は見つけた機会を逃さず利用しなければなりません。

戦争に巻き込まれる市民や兵士にとって、来る冬は悲惨なものとなるでしょう。

弱体化した国際体制には、その戦争を防ぐ意志も能力も欠如しているように思われます。

世界の無秩序化を象徴する紛争

客観的に見ると、この紛争はトルコ、アゼルバイジャン両国が計算づくで仕掛けたものと見られます。

彼らの計算は下記の通りと思われます。

ナゴルノ=カラバフ地域は国際的にはアゼルバイジャン領であり、不法にアルメニアに1994年から占拠されてきました。

今回の戦いは自国の領土を取り返すという大義名分があります。

米国は大統領選で忙殺されているし、欧州も軍事介入する事は無いでしょう。

唯一、懸念があるとすればロシアですが、ロシアも次の理由から本気で軍事介入する事はないでしょう。

  1. アルメニアとロシアの間には相互防衛協定がありますが、今回紛争となっている地域は国際的にはアゼルバイジャン領内です。アルメニア領をアゼルバイジャン軍が攻撃しない限り防衛協定は発動しません。
  2. アルメニアのパシニャン政権は2018年に誕生しましたが、反露親欧を旗頭にしており、プーチン大統領との関係は良くありません。今回もフランスの支援を仰ごうとして、ロシア政府の不興をかっている様です。(露モスコフスキー・コムソモーレツ紙報道)
  3. アゼルバイジャンはロシアから大量に武器を購入しており、ロシアと良い関係を維持しています。

いずれにせよプーチン大統領が今回も決定権を握っている様です。

米国の影が薄くなった今、空いた空間を埋めるのがロシアの大統領というのは如何なものかと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。