MIYOSHIN海外ニュース

世界の役立つ情報をわかりやすくお伝えします。

迷える超大国アメリカ - 内向きな国民感情

f:id:MIYOSHIN:20201011172427j:plain

アメリカは世界をリードできるか

11月3日の大統領選に向け、選挙戦は大詰めを迎えました。

バイデン候補が勝利すれば、トランプ大統領の「アメリカ ファースト」路線が訂正され、国際協調主義が戻ってくると期待する向きも多い様ですが、そうなるでしょうか。

この点について、米誌Foreign Affairsが興味深い論文を掲載しました。

そのタイトルは「Rogue Superpower」です。Rogueと言う単語は「Rogue State」(ならず者国家)などと北朝鮮の様な国を形容する時に使いますが、論文の著者は米国を「ならず者超大国」と形容しています。

その真意はどこにあるのでしょうか。かいつまんでご紹介したいと思います。

少し長くなりますが、お付き合い下さい。

Foreign Affairs論文要旨

トランプ氏は、米国の外交政策の見直しを約束して大統領に就任しました。

多くの専門家は、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」政策がいわゆるリベラルな国際秩序に与えた損失を嘆きます。

彼らは、トランプ氏がホワイトハウスを去った後、米国が自由世界のリーダーとしての役割を再開することを期待しています。

 

彼らの期待はあてになりません。

リベラルな米国の覇権の時代は、冷戦時代の産物です。

外交政策に対するトランプ氏のアプローチは、米国の歴史をみればむしろ標準的と言えるものです。

トランプ大統領が負けても、トランプ流のやり方が長く続く可能性があります。

 

2040年までに、米国は、大きく成長する市場と、世界的な軍事プレゼンスを維持する財政能力を備えた唯一の国になるでしょう。

しかし、最も強力な国であり続けることは、自由な国際秩序の保証人であり続けることと同義ではありません。

第二次大戦終結以来、米国は自由主義的価値観に基づいて構築された国際システムの擁護者であると見なされてきました。

米国は、数十か国に軍事的保護、安全な輸送ルート、および米ドルと米国市場へのアクセスを提供してきました。

引き換えに、これらの国々は忠誠心を提供し、多くの場合、自国の経済と政府を自由化しました。

 

しかし、今後数十年の世界の急速な高齢化と機械による自動化の進展は、民主資本主義への信頼を弱め、いわゆる自由世界を崩壊させるでしょう。

20世紀のように、21世紀は米国によって支配されるでしょう。

しかし、以前の「アメリカの世紀」はリベラルな米国のビジョンに基づいて構築されていましたが、今日私たちが目撃するのは、「非自由主義的なアメリカの世紀」の幕開けかも知れません。

 

トランプ大統領の外交政策である「アメリカ第一主義」のアプローチは、米国の歴史に深く根ざしています

1945年以前、米国は世界の他の地域への影響をほとんど考慮せずに自国の利益を積極的に追求していました。

1880年代までに、米国は世界で最も裕福な国となり、膨大な天然資源があったため、米国は海外で同盟を結ぶことにほとんど関心がありませんでした。

 

ソビエト軍が欧州の広い範囲を占領し、共産主義が世界中で何億人もの信者を引き付けた冷戦の間に、状況は変わりました。

1950年代初頭までに、ソ連は西欧の2倍の軍事力を持ち、共産主義者は世界の産業資源の35%以上を支配していました。

米国はこれらの脅威を封じ込めるために強力なパートナーを必要とし、数十か国に安全保障と米国市場への容易なアクセスを提供しました。

 

しかし、冷戦が終結したとき、アメリカ人は米国の世界的リーダーシップの重要性を理解せず、海外への関与に慎重になりました。

最近の世論調査によると、アメリカ人の60%以上が、政府が自分たちの面倒だけを見る事を望んでいます。

アメリカ人に米国の外交政策の優先事項を尋ねるとき、民主主義、貿易、人権の推進を引用する人はほとんどいません。

代わりに、彼らはテロ攻撃を防ぎ、米国の雇用を保護し、不法移民を減らすことを指摘しています。

調査対象者の約半数は、同盟国を守るために米軍を派遣することに反対し、80%近くが貿易による失業を防ぐための関税の使用を支持していると述べています。トランプ大統領のアプローチは的外れではありません。それは常にアメリカの政治文化を貫いてきた流れを利用しています。

 

今後、世界の高齢化と機械による自動化の進展により、国際的な自由秩序に対するアメリカ人の支持はさらに低下する可能性があります。

 

世界の経済大国20か国の中で、オーストラリア、カナダ、および米国だけが、今後50年間で20〜49歳の成人の人口を増やすと予想されています。

たとえば、中国はこの年齢層で2億2500万人を失い、現在より36%減少します。

日本は、42%減少し、ドイツは17%減少します。

その間、米国は10%拡大します。他の主要経済国が縮小するにつれ、米国は世界の成長の中心になり、国際商取引への依存度がさらに低くなるでしょう。

 

世界中の急速な高齢化は、機械による自動化の進展と同時並行的に起こります。

「機械学習」と呼ばれる能力を備えたスマートマシンの登場で、今日の仕事のほぼ半分は2030年代までに機械によって置き換えられる可能性があります。

 

世界的な高齢化と同様に、スマートマシンの普及により、米国の他国への経済的依存度が低下します。

米国はすでに、自動化の分野で大きな優位を誇っています。

たとえば、2位の中国の約5倍の人工知能企業と専門家がいます。

何十年もの間、米国は海外で安い労働力と資源を追い求めてきましたが、自動化によって米国は自国にもっと依存できるようになります。

 

米国とは違い、他国に関する見通しは悲惨です。

今後30年間で、米国の同盟国の生産年齢人口は平均で12%減少し、持続的な経済成長はほとんど不可能になります。

一方、これらの国の高齢者人口は平均して57%増加し、年金と医療への平均支出はGDPの2倍になります。

今後、高齢者の年金を削減し、増税し、または移民を増やす必要があります。これらはすべて、政治的反発を引き起こす可能性があります。

 

一方、世界中の機械による自動化は経済の混乱を激化させるでしょう

歴史は、技術革命が長期的には繁栄を生み出すが、一部の労働者を短期的には低賃金や失業に追いやることを示しており、何世代にもわたって続く可能性があります。

今日、機械は、何百万人もの人々、特に大学の学位を持たない人から職を奪います。

これらの傾向は数十年続くと予想されています。

 

成長の鈍化、巨額の借金、賃金の停滞、慢性的な失業は、ナショナリズムと過激主義を生み出します。

1930年代、経済的欲求不満により、多くの人々が民主主義と国際協力を拒否し、ファシズムや共産主義を受け入れました。

今日、極右は、民主主義の世界全体で優勢となっています。

ナショナリストが権力を獲得し、関税を引き上げ、国境を閉鎖し、国際機関を放棄するにつれて、リベラルな世界秩序を主導するという米国の任務はますます難しくなるでしょう。

 

激動する同盟国と国際秩序に無関心な米国民に直面して、米国は大きな同盟のリーダーのようにではなく、「ならず者超大国」のように振る舞うかもしれません。

実際、トランプ大統領の下では、すでにその方向に向かっているようです。

トランプ大統領の在任中、米国の安全保障の一部はみかじめ料のように見え始め、大統領は米軍の受け入れ費用に加えて50%のプレミアムを同盟国は支払うべきだと考えています。

トランプ政権は、一方的な関税と貿易協定を実施しました。

トランプ大統領は、民主主義の促進という目標を大幅に放棄し、外交を格下げしました。

 

トランプの批評家の多くは、これらの変化を賢明ではないだけでなく、アメリカらしくないとして非難しています。

しかし、トランプのアプローチは今日多くのアメリカ人にアピールし、世界における米国の役割に関する国民の好みと一致しています。


「ならずもの超大国」のシナリオ

米国が、「ならずもの超大国」のように振る舞った場合、米国は、同盟国を2セットだけ保持する可能性があります。

1つ目は、オーストラリア、カナダ、日本、および英国です。

これらの国々は世界中に戦略的に配置されており、その軍隊と諜報機関はすでにワシントンと統合されています。

 2番目のグループは、バルト三国、湾岸アラブ君主国、台湾など、米国の敵と国境を共有するか、その近くに位置する国で構成されます。

米国はこれらのパートナーを武装させ続けるでしょうが、もはや彼らを守ることを計画しないでしょう。

 

これらの同盟国以外(NATOや韓国を含む)との関係は交渉次第となります。

米国の保護と市場アクセスのために二国間ベースで交渉しなければならないでしょう。

 

米国がこのような「アメリカ第一主義」のビジョンを完全に受け入れたら、世界はどうなるでしょうか。

ロバート・ケーガンは、1930年代の専制政治、保護貿易主義、紛争への復帰を予見しており、中国とロシアは大日本帝国とナチスドイツの役割を再演しています。

この予測は極端かもしれませんが、本質的な真実を反映しています。

第二次世界大戦後の国際秩序は、多くの点で欠陥があり不完全でしたが、人類の歴史の中で最も平和で繁栄した時代を育み、その秩序が無くなれば、世界をより危険な場所にするでしょう。

 

米国主導の国際秩序のおかげで、何十年もの間、ほとんどの国は市場アクセスのために戦ったり、サプライチェーンを守ったり、国境を真剣に守る必要さえありませんでした。

米国海軍は国際水路を開いたままにし、米国市場は数十か国に信頼できる消費者の需要と資本を提供し、米国の安全保障は70か国近くをカバーしています。

 

米国主導の国際秩序が無くなれば、大国の重商主義と新しい形態の帝国主義の復活を見るでしょう。

中国はすでに、世界中のインフラプロジェクトのネットワークである一帯一路イニシアチブでこれを開始しています。

大国が経済圏をめぐって競争する様になれば、冷戦時代のように、地政学的紛争は国連を麻痺させるでしょう。

NATOは、米国が厳選したパートナーのみに再編される可能性があります。

そして、欧州を覆う米国の安全保障の傘の消滅は、すでに深い分裂に苦しんでいる欧州連合の終焉を意味する可能性もあります。

 

米国の取るべき選択肢

現在の自由秩序を維持するために、米国は国益追及について非常に寛大になる必要があるでしょう。

国富と権力の追求より国際秩序に重きを置く必要があります。

しかし、米国でナショナリズムが広がる中、そのような道をたどることはますます難しくなるでしょう。

その結果、米国がパートナーを保護したり、シーレーンをパトロールしたり、民主主義と自由貿易を促進したりする一方で、見返りをほとんど求めないという可能性はほとんどないかもしれません。

それはトランプ政権によって引き起こされた異常ではありません。むしろ、これは根深い傾向です。

 

この様な状況では、アメリカのリーダーシップの最良のシナリオは、ワシントンがリベラル国際主義のよりナショナリストバージョンを採用する事かもしれません。

米国は同盟国を維持することができますが、保護のためにより多くのお金を払わせることができます。

貿易協定に署名することはできますが、米国の基準を採用している国とのみです。

国際機関に参加しますが、米国の利益に反する行動をとる場合、国際機関を離れると脅迫します。

民主主義と人権を擁護しますが、主にライバルを不安定にさせるためです。

 

世界的なリベラル秩序を主導することと比較して、このよりナショナリスト的なバージョンの米国の関与は、けちで刺激的ではないように見えるかもしれません。

しかし、それはより現実的であり、最終的には、前例のない高齢化および技術革新の時期に自由な世界をまとめるのにより効果的です。

内向きな米国民

この論文の中で、意外な発見がありました。

  1. 米国が先進国の中で唯一と言って良いほど人口が伸びている。
  2. 日本は英国やオーストラリアなみに同盟国として認知されている。
  3. 「アメリカ第一主義」はアメリカ国民の底流を流れる思想を基にしている。

アメリカの歴史をひもとけば、確かに国際的な関与を避けてきた伝統が窺えます。

モンロー主義は有名ですし、ウィルソン大統領は第一次世界大戦後国際連盟の樹立を唱えましたが、議会で批准されず、国際連盟には参加していません。

米国が国際舞台に引きずり出されたのは、東西冷戦の結果でした。

冷戦が収束した今、彼らが自らの穴にひきこもろうとするのは自然な事かも知れません。

以前、米国の地方都市を訪れた際に、地方新聞に国際面が無いので驚いたことがありました。

読者にしてみれば、遠い中東の情勢より、市長選挙やひいきのアメフトチームの勝敗の方が大事なのです。

そんな国民にイラクやシリアでISと戦うために兵士を送ってくれと頼むのは難しい仕事でしょう。

しかし、米国が引きこもれば、世界は混乱します。自由民主主義陣営のリーダーとしてその地位に留まってもらいたいと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。