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パクスアメリカーナは終焉か- 米軍.CIAの本音

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米国対外戦略の変化は必要か

トランプ大統領の外交政策に関しては、賛否両論あります。

UAEとイスラエルの外交関係樹立や本格的な戦争を起こさなかった事を評価する人もいますが、同盟国(特にNATO)との関係が悪化したことや、中国に対して適当な対抗措置を取らなかった事を批判する人もいます。

政治家はとかく我田引水の議論を展開しますので、彼らの発言から真実を汲み取る事は困難を伴います。

一方、米国の対外戦略の現場を取り仕切っている人たちが、現状をどの様にみているのか関心が湧きます。

そんな中、米誌Foreign Affairsに興味深い論文が掲載されました。著者は次の三人です。

  • JAMES A. WINNEFELD、JR 統合参謀本部元副議長
  • MICHAEL J. MORELL CIA元副長官
  • GRAHAM T. ALLISON 元国防長官補佐官

この論文をかいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要旨

来年1月、次の政権に誰が就こうが、冷戦以来、米国が経験した最も困難な外交局面に直面するでしょう。

問題は、個別の課題だけでなく、戦略における4つの古典的な変数である目的、方法、手段、および安全保障環境の間の不均衡から生じています。

この不均衡が的確に認識されないまま放置されると、ますます容認できない戦略的リスクを生み出すでしょう。

 

現在の米国の外交政策の問題は、上記4つの変数が変化したことから引き起こされています。

 

第一に、米国とその主要な競争相手を含む、世界情勢の過去20年間の変化は、計り知れない問題を提示します。

購買力平価で測定すると、世界のGDPに占める米国のシェアは1950年の50%から2018年には14%に減少しましたが、最近中国が米国を上回り、18%となっています。

さらに、中国とロシアは開かれた民主主義社会を利用するテクノロジーを開発し、米国とその同盟国との間の分裂を促進することによって米国のリーダーシップを弱めました。

第二に、アメリカの有権者は、国内問題により多くの関心を示しています。

さらに、新型コロナのために講じられた措置の結果として、米国政府の債務は、今年の終わりまでに、GDPの110パーセントに達するでしょう。

これは第二次世界大戦以降最高レベルで、その結果として外交政策に利用できるリソースは縮小します。

 

この問題を解決するために、国益の優先順位を明確に再設定する必要があります。

 脅威と選択に対処するための優先順位付けは、次の5つの順番になると思われます。 

  1. 自由民主主義国家として国が存続することです。これは、政府の最も重要な責任です。
  2. 国民に対する壊滅的な攻撃の防止です。大規模なテロ攻撃を含む多くの脅威がこのカテゴリに分類されます。核攻撃、重要なインフラに対するサイバー攻撃。海底ケーブルの切断、更には高高度核爆発によってもたらされる電磁パルス攻撃なども考えられます。
  3. 国際秩序の保護と、その中での米国のリーダーシップの役割です。この秩序の中で、米国は、ルールに基づいた貿易、ドルによる金融の促進など通じて、世界経済の成長を促進してきました。このシステムは、ナショナリズムとポピュリズムの高まりによって、現在内部からも攻撃を受けています。
  4. 同盟国の安全保障と相互サポートです。同盟国は米国の安全と繁栄において重要な役割を果たしています。米国自身の外交、諜報、および軍事能力を強化し、必要なときに法的および道徳的なサポートを提供してくれます。大国間のシーソーゲームにおいて重要な同盟国を持つことは、米国をはるかに強くします。
  5. 残虐行為、大量虐殺、民間人への意図的な攻撃、化学的または生物的戦争の防止、国家の主権と人間の救済などの理想を含む、普遍的な価値の保護があります。

重要なポイントは、明確な優先順位を持つことです。

この枠組みが難しい選択を明確にするのにどのように役立つかを知るために、例として、ジョージ W.ブッシュ政権がオサマ ビン ラーディンを追跡し、タリバン政権を崩壊させ、代わりに民主的な政府を創設するという決定をレビューしてみましょう。

第一に、武力使用を正当化するために、上記の2番目と4番目の目的と十分な相関関係がありました。

ただし、タリバンを弱体化させた後、政策立案者は上記の5番目の目的を追求し、アフガニスタンに民主国家を定着させようとしました。

しかし、それはその後20年間に費やされた兵士の血や費用に見合うものではありませんでした。

 

安全保障環境の変化と手段の制限により、次期大統領は、どの目的にリソースを割り当てるかについて、ますます困難な決定を下す事になるでしょう。

アメリカ本国の安全とその民主主義を含む、より優先順位が高い目的は議論の余地がありませんが、すべての同盟国に米国が深くコミットしていく事や、世界のすべての地域で軍事的優位性を維持する事は現実的でしょうか。

これらの質問に答える際に、次期大統領はヘンリー・キッシンジャーの警告に注意する必要があります。「世界のあらゆる場所で、いつでも同時に賢明に行動できる国はありません。」

 

軍、CIA、国防総省の国家安全保障当局者としての経験から、この問題を解決することが難しい事を理解しています。

政治家たちは、優先順位の設定に抵抗し、現在進行中の出来事に反応し、「死活的」という言葉を無差別に使用します。

軍事的作戦は、多くの点で米国の国益と一致しない、政治家の実績作りに結びついています。

この問題を克服するには、大統領からの明確で直接的な命令と、その判断に責任を持たせるための規律あるレビューが必要です。

米国一強時代の終焉

この論文を読んで、現場の悲鳴の様なものを感じました。彼らはおそらく次の様に考えているのでしょう。

  • 政治家の思いつきの様な政策に付き合わされて、現場は相当疲弊している。国が追求する政策目標に合理的な優先順位を設け、大統領より明確な指示が下りる事を期待している。
  • 現場は、米国は唯一無二の超大国ではもはや無いと認識している。米国民が内向きになったことも考え合わせれば、限られたリソースを合理的に割り振るべきと考えている。

ベトナム、イラク、アフガニスタンなどに軍事介入を行い、自由民主主義国家を建設するという企てを行ってきた米国ですが、相対的な国力が低下し、内向きになった米国は世界中でそんな事をやる余裕は無いという事でしょう。

日本も、この様な米国の変化を織り込んだ戦略を立てる時期に来ているのではないでしょうか。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。