菅首相の所信表明演説
先日、菅首相は2050年にカーボンニュートラル社会を実現すると表明しました。
この社会を実現するには、自動車から発電所に至るまで根本的な変革が必要です。
まだ30年もあるじゃないかと言われるかも知れませんが、30年後にガソリンで走る車を全て電気或いは水素自動車に変えられるのか、天然ガスや石炭を燃やす発電所を置き換える事が出来るのかと考えると、首相の設定した目標が本当に実現できるのか疑問が湧いてきます。
そんな中、英誌Economistが「Innovation is an essential part of dealing with climage change」(イノベーションは気候変動にとって最重要である)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
今週、日本、中国及び韓国は、相次いでカーボンニュートラルを宣言しました。
3月、EUも独自の「ネットゼロ」計画を発表しました。
来週のバイデン候補の勝利は、アメリカを同様の道に導く可能性があります。
目標の設定は簡単ですが、実行はそうではありません。
今日、世界の産業エネルギーの約85%は化石燃料から来ています。
エネルギーの生産と使用方法を大幅に変更する必要があります。
鉄鋼やセメントの製造方法や建物の設計や省エネの方法を改善するために、継続的なイノベーションが必要になります。
環境に優しい技術を持っている企業の株価は高騰しています。
テスラの価値は3,850億ドル(40兆円)に達し、3大自動車メーカーの合計価値を上回っています。
中国の競争相手であるBYDの時価総額は、今年3倍以上になりました。
今月、クリーンな電力会社であるNextEraは、ExxonMobilを上回り、アメリカ最大のエネルギー会社になりました。。
しかし、研究開発への資金投下は不十分です。
研究開発への支出には、ベンチャーキャピタル、政府、エネルギー会社の3つの主要な資金源があります。
気候変動に関連したこれらの合計した投資額は年間は800億ドル程度です。
ちなみに、これはアマゾンの研究開発費の2倍を少し上回るだけです。
研究開発費を増加させるために何ができるでしょうか?
市場だけに任せていては十分ではないため、政府はいくつかの方法で関与する必要があります。
それは、基礎研究だけでなく、技術の開発と展開にも、国が資金提供する必要があります。
一部のプロジェクトは、リスクが大きすぎるので、民間だけで推進する事ができません。
実際には、政府は、新しい原子力発電、電気自動車の新しい充電グリッドなどの新技術の調査及び地球工学の様な新しい分野の研究のために、コストを負担する必要があります。
政府はまた、環境に優しい消費を奨励する政策を制定する必要があります。
炭素の価格設定は重要なステップであり、企業、そして最終的には消費者に排出コストを負担させ、投資家がより効率的に資本を配分するように導きます。
最近のニュースは、政府が遂に動き始めた事を示しています。
炭素税は広がりつつあり、まもなく世界の排出量の5分の1以上をカバーするでしょう。
EUの7,500億ユーロ(90兆円)の経済再生計画の一部は、温室効果ガス削減に関連する研究開発に向けられる可能性があります。
バイデン氏は再生可能エネルギー技術に重点を置いて、4年間で研究開発に3,000億ドル(31兆円)を費やす予定です。
資本市場は、これまで、より成熟した企業に資金源を提供し、グリーンVCなどには冷淡でした。
多額の資金を持っている機関投資家は、この機会を受け入れる必要があります。
今後のエネルギー転換は、ここ数十年で最大のビジネスチャンスの1つになるでしょう。
会社が設立されてから17年も経たテスラの株を吊り上げるのではなく、投資家は次のスーパースターを見つけるために努力する必要があります。
英国のしたたかな狙い
英国人というのは、伝統を重んじる国民ですが、ことビジネスに関していうと、機を見るに敏で、大変柔軟性があります。
環境ビジネスに関しても、排出権にいち早く目をつけ、ロンドンを排出権取引の一大拠点に仕立て上げました。
排出権というのは、一種の金融取引ですから、ロンドンの金融街と相性が良いのです。
英国の強みはシティを中心とした金融業とBBC、ロイターに代表される様な国際的な発信力を持ったメディアの存在です。
実はこの二つは密接に結びついていて、メディアの力で金融業が一押しする産業を世界中に売り込み、資金をロンドン市場に呼び込むという事もやっています。
今回取り上げたBBCの記事も、読んでいる人からすると、環境関連株を買っておこうかと思わせる様な内容になっています。
メディアがいつも金融業者とタッグを組んで情報発信しているわけではありませんが、持ちつ持たれつの関係は存在しています。
7つの海を支配してきた英国は国際世論の操縦にかけては誰にも引けを取りません。
彼らの書く記事を読むときには、ポジショントークが含まれていないか、少し立ち止まって考えてみる必要があるかも知れません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。