大激戦の大統領選
このブログを書いている時点で、大統領選開票はかなり進み、両候補が稀に見る大激戦を展開しています。
法廷闘争にまでもつれ込むのではとの予測もありますが、米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)がトランプ大統領の過去4年を総括し、「The Trump Referendum」(トランプ氏の信任投票)と題して社説を発表しましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。
トランプ氏の功罪が良くまとめられています。
WSJ社説要旨
4年前に「トランプ氏がもたらすものは政治的混乱だ」と書いた。
そしてトランプ政権は、善かれあしかれ、まさにそれをもたらした。
同氏の政策と従来の慣例からの脱却は、多くの事柄を実現させた。
しかし分断を助長するような統治手法と、人格上の問題点は、今回の選挙での敗北につながる恐れがある。
バイデン候補の選挙キャンペーンは、突き詰めると「私はトランプではない」というものだ。
トランプ氏の評価の2極分化は、最近のギャラップ社の世論調査に集約されている。
同調査では、4年前よりも生活水準が向上したとの回答が56%に達した。
これはレーガン氏(44%)、ブッシュ氏(47%)、オバマ氏(45%)を上回っている。ここに挙げた3氏は全員、大統領再選を果たした。
しかしトランプ氏の支持率がが50%を上回ったことは、この4年間で一度もなかった。
大半の人々はトランプ氏の政策の成果を好ましく思っているが、大統領としての振る舞いを嫌っているということだ。
トランプ氏の業績評価
トランプ政権の1期目の成果は中身を伴うものであり、2016年時点でわれわれが想定した結果を上回る内容となった。
トランプ氏は、新型コロナ感染が始まる前までは、経済運営で成功していた。
税制改革により、米国企業の競争力は高まり、外国から本国への何千億ドルもの資金回帰が促された。
エネルギー生産の促進は、高賃金の雇用を創出し、米国の外国産原油への依存度を低減させた。
経済成長の加速は、失業率を低下させ、オバマ政権時代の低成長によって置き去りにされていた何百万人もの賃金を引き上げた。
単純労働者の賃金の伸びは、富裕層を上回った。
左派の主張とは対照的に、刑務所改革、低所得地域の不動産の税制優遇策、問題のある公立学校に代わる教育機関利用への支援といったトランプ氏の政策は、マイノリティーを助けることにもなった。
トランプ氏の貿易と移民に関する政策は期待通りの結果をもたらさなかったが、もっと悪い結果になる可能性もあった。
貿易面での最大の失敗は、対中政策上重要なTPPから離脱したことだが、北米自由貿易協定は破棄しなかった。
トランプ氏は合法的な移民さえも縮小しようとする動きを容認している。これは2期目にとっての悪い前兆だ。
外交に関しては、ツイッター上での暴言や米軍を撤退させるとの衝動的な発言は、友好国を遠ざけた。
外交を取引のようにみなす姿勢は、北朝鮮の金正恩などの独裁者から求愛されるという、無益な結果をもたらした。
しかし、同氏の慣習嫌いは、他の大統領ではなし得なかった国益に関する判断につながった。
欠陥のあるイラン核合意や気候に関する見せかけのパリ合意から離脱し、イランのテロ首謀者であるソレイマニ将軍を殺害したほか、米国大使館をエルサレムに移転した。
後者は、アラブ諸国とイスラエルとの関係に大きな突破口を開いた。
バイデン氏が、イランに譲歩するというオバマ前大統領の政策に従うのであれば、これが台無しになる可能性がある。
トランプ氏は、中国に世界の規範を破ったことへの代償を払わせた初の米大統領でもある。
他にも不満を口にしていた者はいたが、ほとんど行動を起こしていなかった。
トランプ氏はファーウェイを孤立させ、インド、ベトナム、日本、韓国および台湾とのより強固な戦略的関係を構築した。
われわれは、同氏が貿易面でも、中国のみならず米国にも打撃を与える関税措置ではなく、同じような同盟関係の構築を行っていれば良かったと考えている。
しかし、バイデン氏でさえ、中国に関してオバマ時代に戻ることはできないだろう。
トランプ氏が作り出す敵
これだけの実績があれば、再選に向かって順調な船出ができただろうが、トランプ氏は世論調査で後塵を拝している。
この背景には、官僚組織と党派的なメディアが協力して、大統領の統治能力をむしばもうとする動きがある。
ロシア疑惑をめぐる捜査は、トランプ氏の選挙活動阻止を狙ったクリントン陣営に扇動されたFBIの企てであった。
インサイダーが外国指導者とトランプ氏の会話を漏えいし、民主党は何らかの理由をつけてトランプ氏の弾劾訴追決議を行ったが、重大犯罪あるいは軽犯罪に関する証拠は示さなかった。
しかし、トランプ氏自身による混沌とした政策運営ぶりはしばしば敵につけ込む隙を与えた。
トランプ氏は向こう見ずで、不必要な敵をつくることが多い。
トランプ氏に仕えた大統領首席補佐官は4人、国家安全保障担当の大統領補佐官も4人で、トランプ氏はこれらの優れた人々の辞任に際して彼らを激しく非難することが多かった。
われわれが2017年に警告したように、トランプ氏は、誤った主張で人々を説得しようとした。
それは、新型コロナに悩まされるという形でトランプ氏にはねかえってきた。
「事態は好転しつつある」という楽観主義的な主張を行うことは、とりわけ高齢者の支持を失うことになった。
トランプ氏が再選されると考える理由は見当たらない。
同氏のもたらした分断作戦は2016年のヒラリー・クリントン氏に対しては有効だったが、トランプ氏は、国民の考え方が変わっている中で今回も同じ作戦で臨んでいる。
米国民はコロナに関して冷静な現実主義を求めている。
トランプ氏はそのマーケティングの才覚にもかかわらず、国民の意向の変化を見落としている。
トランプ氏は自分自身に焦点を当て過ぎた結果、バイデン氏が今回の選挙を、候補者の選択ではなく、現職大統領に対する信任投票にするのを助ける格好となった。
トランプ氏再選のための最善の方法は、経済と文化の両面でますます過激になっている民主党に対するブレーキの役割を負うことだ。
バイデン氏では不可能であり、その意志もない。
共和党優位の上院もまた、そうしたブレーキとなり得るが、上院の選挙結果はトランプ氏にかかっている。
トランプ氏に退任を余儀なくさせるのは、バイデン氏や民主党や党派色の強いメディアではない。それができるのはトランプ氏本人だけである。
トランプ氏の独り相撲
この社説を読むと、トランプ氏という突如として政界に現れた怪物が独り相撲をとっている様子が浮かんできます。
アメリカは完全にトランプ氏にかきまわされていますね。
トランプ氏を嫌う人々の大半は、バイデン氏の政策などに関心を持っていません。
トランプ氏でなければ誰でも良い訳です。
大統領選挙がトランプ大統領の信任投票に変わってしまったため、今後の4年間をどんな政策を行うかわからない候補に委ねることになるかも知れません。
これもトランプ氏がもたらした混乱の一つかも知れません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。