中東における地殻変動
中東の主要なプレーヤーと言えば、サウジ、イラン、トルコ、エジプトなどが挙げられますが、これに加えて人口は少ないですがイスラエルの影響力も無視できません。
最近湾岸諸国のUAEやバーレーンが相次いで、それまで公式な関係を持たなかったイスラエルとの国交正常化に踏み切りました。
アラブ諸国とイスラエルは過去に何度も戦火を交えた関係ですので、この国交正常化のニュースは世界を驚かせました。
このアラブ社会とイスラエルの関係正常化は、中東における大きな地殻変動を表すものとして注目されています。
バイデン政権は、この地殻変動にどの様に対処していくのでしょうか。鍵を握るサウジとイスラエルの最近の動きに関して、英誌Economistが「Israel and Saudi Arabia send a clear signal to Iran—and Joe Biden The meaning of a surprising meeting」(イスラエルとサウジアラビアはイランとバイデン に明確なシグナルを送った - 世界を驚かせた面談の意味は」と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
イスラエルの大臣たちは、11月22日に予定されていた閣議が延期されたと突然告げられました。
しかし首相のネタニヤフが空港に向かっている事は告げられませんでした。
彼は、イスラエルの諜報機関モサドのトップであるコーヘンと空港でおち合い、夜が明けると、彼らはプライベートジェットで紅海を越えてサウジアラビアに南下しました。
サウジ領にほんの数時間滞在した後、彼らはイスラエルに戻りました。
鋭い勘を持つジャーナリストは、オンラインの飛行追跡Webサイトで異常な飛行に気づき、同じ時期にサウジアラビアに滞在していたポンペオ米国務長官と結び付けました。
彼は皇太子であるムハンマド ビン サルマン(サウジの事実上の統治者)に会うため、サウジを訪問していました。
ネタニヤフ首相の事務所に電話した処、ポンペオ国務長官、ムハンマド皇太子、ネタニヤフ首相3人が会ったという情報は、驚いたことに否定されませんでした。
サウジ当局も、ネタニヤフ首相とムハンマド王子との会談を確認したとウォールストリートジャーナルは報じています。
伝えられるところによると、彼らはイラン問題とサウジ、イスラエル両国間の外交関係樹立について話した様です。
しかし、最近イスラエルとの関係を「正常化」したアラブ首長国連邦やバーレーンとは異なり、サウジはユダヤ人国家に大使館を開く準備ができていません。
サウジの王であるサルマン氏(ムハンマド皇太子の父)は、1967年にイスラエルが占領した領土内のパレスチナ独立の要求とアラブ和平イニシアティブの原則を長い間支持してきました。
アラブ連盟のメンバーに、イスラエルが占領地から撤退するまで通常の関係を確立しないように勧めるこの方針は、サルマン王が生きている間は変わらないでしょう。
イスラエルとの関係をめぐるサウジ王室内の緊張の兆候として、サウジ外相は遅ればせながらそのような会合が行われたことを否定しました。
サウジ、イスラエル両国は、公式には会談の事実は否定されたものの、2つの重要なメッセージが発信されたために、会談のニュースが漏れた事に満足しているようです。
1つ目は、イランへの警告です。
11月中旬、国際原子力機関は、イランの低濃縮ウランの備蓄は、2015年に合意した(そしてアメリカが2018年に撤退した)核合意によって設定された制限の12倍であると述べました。
イスラエルは過去に、イランが核爆弾の製造に近づいた場合、イランの核施設を爆撃すると脅迫してきました。
会談が発信する2番目のメッセージは、米国とバイデン次期政権へのメッセージです。
中東でのトランプ大統領の政策の多くは、彼の前任者であるオバマ氏の遺産を否定する事に焦点を当てているようでした。
トランプ氏はイランとの合意を破棄し、経済制裁を課しました。
彼の政権はまた、イスラエルとパレスチナ人の間の公平な和平工作者として行動するという長年のアメリカの政策を放棄し、イスラエルが征服した領土の併合を認めると述べました。
トランプ政権は、イランに対する厳しい姿勢と、ジャーナリストであるカショギ氏の殺害を含むサウジの人権侵害に目をつむる事でサウジアラビアを喜ばせました。
今年初めにサウジ政権を「パリア(好ましくない国家)」と呼び、人権問題をめぐって武器の販売を停止すると脅したバイデン氏の下で、これはすべて変わるかもしれません。
彼はまた、イランとの外交を再開し、核合意を再交渉することを約束しました。
イスラエルとサウジは、アメリカの中東政策の大きな変化に反対するために、ワシントンにかなりの外交的および政治的リソースを確保するつもりがあると次期大統領に通知したようです。
これが公式には認知されていない秘密会談の成果と言えるでしょう。
バイデン政権の中東政策は
オバマ政権下で国務副長官を務めたブリンケン氏が、新しい国務長官に指名されることが確実となりましたが、もう一つ注目すべきは、元大統領候補ケリー上院議員が気候変動対策担当として政権入りした事です。
バイデン 氏の信頼厚いこの民主党の大物議員は、当時国務長官としてイラン核合意の責任者として活躍した人物です。イランの直接の担当ではありませんが、彼が政権入りするところをみると、バイデン 氏のイランとの各合意再交渉への意欲は相当強いと推測されます。
サウジは、傍観していれば、バイデン 氏がイランに近づき、サウジの地位があやうくなりかねないと危惧し、敵の敵は味方の理屈でイスラエルに接近して行ったものと思われます。
しかし、最終的に漁夫の利を占めるのは、交渉上手なイスラエルの様な気がします。
彼らはサウジの弱みを熟知していますので、バイデン 政権にサウジの味方として働きかける様なふりをして、実際には動かず、サウジから巨額の投資だけを得るという青写真を描いていると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。