政界から厳しい批判を浴びたSNS
今回の米大統領選は大接戦でしたが、その中でフェイスブックやツイッターといったSNSの役割が注目を集めました。
新聞など読まなくなった有権者の多くは、情報をスマホから得る様になっています。
民主共和両党とも有権者に与えるSNSの影響力を重視し、SNS対策を徹底した様ですが、フェイスブックやツイッターはプラットフォーム上の言論統制に関して、政界から厳しい批判を浴びました。
そのせいか、今回、フェイスブックが提訴され、傘下に収めたインスタグラムの売却を迫られている様です。
この点について、ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Breaking Up Facebook」(フェイスブックの解体)と題した記事を発表しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
WSJ記事要約
フェイスブックの初期のモットーは、「速く動き、競合先を壊す」ことでした。
米連邦取引委員会(FTC)が今週46州の司法長官の支持を得て、今回フェイスブックを提訴しましたが、これほど法的根拠の薄弱な訴訟は見たことがありません。
フェイスブックのザッカーバーグCEOは最近、共和・民主いずれの党にも、味方がいません。
プラットフォーム上の言論規制について、やり過ぎだという批判と手ぬるいという批判の両方を受けています。
同社は新聞広告市場の崩壊を促しました。
同社が存在しない方が、より良い世界になるかもしれません。
しかし、米国の反トラスト法(独占禁止法)の目的は、社会的または政治的問題を是正することではありません。
フェイスブックは買収した画像共有アプリ大手インスタグラムと対話アプリワッツアップの分離を求められています。
FTCの訴状によると、ザッカーバーグ氏は競争を排除するためにインスタグラムとワッツアップを買収しようとしました。
確かに同氏は2008年に「競争するより買収した方が良い」と電子メールに書きました。
どの企業も技術の進化や消費者の嗜好(しこう)の変化に対応する必要があります。
フェイスブックにとって、模倣製品を開発するよりもアプリを買収した方がコストが安く、手っ取り早かったのです。
大手企業がスタートアップ企業を買収するのはよくあることです。
また、インスタグラムとワッツアップはいずれもフェイスブックを補完するアプリであり、直接競合する製品ではありませんでした。
多くの人がTikTok(ティックトック)やツイッターなど異なる特徴を持つソーシャルメディア(SNS)を並行して使用しています。
FTCは、フェイスブックが買収しなければ、ワッツアップとインスタグラムは同社の強力な競争相手に成長していた可能性があると考えています。
恐らくそうでしょう。
しかし、インスタグラムは買収された当時、従業員がわずか13人で売り上げはありませんでした。
FTCも2012年に全会一致で10億ドルでの買収を承認しています。
買収は常に成功するとは限りません。
別の企業に買収されていたとしたら、今ほど人気のアプリになっていなかった可能性もあります。
フェイスブックは両アプリの開発や改良に数十億ドルを投じました。
ワッツアップは買収される前は定額制だったが、フェイスブックは全世界で無料化し、ビデオ通話機能や暗号化技術を加えました。
FTCは、フェイスブックが今やディスプレー広告市場で寡占状態にあると述べていますが、これは市場を狭く定義しすぎです。
フェイスブック(やその他SNS)によって最も被害を受けたのはWSJなどの新聞ですが、特に影響が大きかったのが地方紙です。
フェイスブックにインスタグラムを売却させても彼らの助けにはなりません。
ユーザーデータをあまり持たないスタートアップ企業がフェイスブックと競争するのを阻んでいるとする「ネットワーク効果」についてはどうか。FTCでさえ、次のように認めています。
「独占的な地位を持つSNSも競争で脅かされる可能性はある。技術・社会の移行期や、既存のサービスとはある意味で差別化された新たなサービスが登場した場合には特にその可能性がある。」ティックトックがその良い例です。
訴状がとりわけ説得力に欠けるのが、反トラスト法違反の法的根拠となる、消費者に対する具体的な被害について一切言及していないことです。
フェイスブックに実際に非があるように見える点は、単純に大き過ぎることです。
しかし、政治家がそう考えているのなら、それを規制する法律を成立させればいいでしょう。
この前例のない
事後的な反トラスト調査は、新たな判例を作り出すことになり、不人気な企業の解体に利用されかねません。
政府は政治的リスクを作り出しています。
成功した合併が、たとえ事前に承認を受けていたとしても、政府が望めばいつでも白紙に戻される可能性があるのだから。その結果、スタートアップ企業に対するベンチャー投資やイノベーション(技術革新)、競争が制限されたとしても、意外ではありません。
フェイスブックへの対抗策は
WSJ社説の論点はいちいちごもっともで、独占禁止法の観点から、Facebookを有罪と決めつけるのは無理筋と言わざるを得ません。
しかし、フェイスブックの様なIT大手がネットワーク効果で、異様に大きなシェアを獲得しているのは見逃せない点です。
アマゾンにしてもグーグルにしても、電子商取引や検索において、他社を圧倒する存在となっています。
ネット上ではシェアの大きいものが益々有利になるのは自明であり、フェイスブックやツイッターの様に政治的影響力を有するとなれば尚更危険です。
もしフェイスブックが政治的な意図を持って、利用者を恣意的に特定の情報にさらす様導いたらどうなるでしょうか。
フェイスブックが開発したアルゴリズムで人間の心理を左右しようとした場合、これに対抗するのはほぼ不可能と言わざるを得ません。
全体主義国家はメディアを支配し、国民の情報へのアクセスを遮断します。
SNSはもっと巧妙なやり方で情報を操作しかねません。
この問題に対処するには、独占禁止法の観点ではなく、国民の知る権利と言った観点からの対策が必要ではないかと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。