金融には触れられなかったEUとの合意
ブレグジットに関する交渉は、先日お話しした通り、期限切れ寸前で纏まりました。しかし、合意の内容はほとんど貿易に関するものであり、英国産業の主要部分を占めるサービス業、特に金融業に関する取り決めはわずかしか含まれていない様です。
この問題に関して、英誌Economistが「The City of London does not yet know what Brexit will mean - The likely answer: damage, but no disaster」(ロンドンの金融街シティにブレグジットが何をもたらすか不明だ - しかし予想されるダメージは壊滅的ではなさそうだ)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
批評家は、12月24日に署名されたブレグジットに関する欧州連合との貿易協定を「薄い」と表現しました。
1,255ページに及ぶ協定書において金融サービスはほとんど触れられていません。
それは驚くべきことではありませんでした。
金融における将来の関係は、個別に、そして後で取り扱われることがずっと前に決定されていました。
金融セクターが英国の保守党政権にとって優先事項ではなかったことを批判する人もいます。
しかし、政権は、銀行界よりも漁師を保護すした方が多くの票が得られることを認識し、英国の大手銀行やファンドマネージャーは、自分たちの面倒を見るのに十分なほど強大であると見られていました。
これにより、ロンドンの金融街であるシティに大きな懸念が残りました。
シティが将来EUでどの程度の市場アクセスを享受するかを知るには、1月以降まで待たなければなりません。
英国のEUからの離脱は、EUから国際金融における圧倒的なハブが抜けることを意味します。
2018年に英国はEU資本市場活動の約3分の1のシェアを持ち、次に高いメンバーであるフランスの約2倍のシェアを持っていました。
英国の銀行は当初、英国が離脱した後、完全な「パスポート」権を保持することを望んでいました。
つまり、EUの顧客へのアクセスが妨げられることなく継続できるということです。
しかし、それはすぐに拒否されました。
彼らが今期待できる最善の方法は「同等性」です。
これはパスポートと似ていますが、それほど力がありません。
特定の金融分野における他方の規制の枠組みが「同等」であると双方が宣言した場合にアクセスが許可されます。
このアプローチの欠点には、アクセスがいくらか制限されていること、同等性が特定の金融セクターでのみ可能であり、30日前の通知で取り消される可能性があることが含まれます。
両者はこれまでのところ、同等性について異なる提案を行ってきました。
英国は、かなりの数の企業のEU企業にそれを付与しています。
ただし、EUは一時的な同等性しか提供しておらず、清算(多数の債権債務を差し引きする)など、EUにとって重要であると考えている分野はごくわずかです。
専門家によると、これは、英国がブレグジット後、ニューヨークやシンガポールなどの他のグローバル金融センターより劣後することを意味します。
不確実性が続く理由の1つは、英国がEUの規則から逃れるるために新しい規制の自由を享受したいと考えているからであり、その計画はまだ明らかにされていません。
イングランド銀行を含む英国の規制当局は、銀行と市場の規制を「よりスマート」にすることについて話しています。これは、
法律によって決定されるのではなく、監視機関によって決定されるようにすることです。
欧州委員会は、貿易協定と同時に発表された文書の中で、英国がEUの規則からどの程度逸脱する予定であるかについて「さらなる説明」を確認する必要があると述べました。
EUは、ブレグジットを彼らの金融セクターをより強力で一貫性のあるものにする機会と見なしています。
すでに、少なくとも7,500人の雇用がロンドンからEUの金融センターに移行しています。
ブリュッセルのEU官僚は、清算のような重要な機能も数年以内に移転することを望んでいます。
しかし、フランクフルトやパリからルクセンブルグやアムステルダムまで、EUでは金融センターが分散しているため、効率が低下しています。
中期的にロンドンに匹敵するものを見つけるのは困難です。
確かに、英国の離脱は、欧州の資本市場がはるかに小さくなり、発展が遅れることを意味します。
世界の資本市場活動に占めるEUのシェアは、約3分の1減少して13%になると予想されています。
一方、英国は、EUにおける最大のプレーヤーから、世界シェアの約8%を占める独立したプレーヤーになります。
少なくとも短期的には、ある程度打撃を受けるでしょう。
しかし、英国の大蔵大臣は良い作戦を立てています。
彼らは、ブレグジットで失われた雇用の数が、5万人以上に達するという当初の予測をはるかに下回っていると指摘しています。
Financial Timesの最近の調査によると、ほとんどの銀行が過去5年間にロンドンで実際には人員を増やしました。
保守党は、ロンドンをより外向きの金融ハブに変え、特にアジアと中東の非EUセンターとの密接なつながりについて語ります。
彼らは、EUの息苦しい規制から切り離されることで、フィンテックやグリーンファイナンスなど、ロンドンがすでに世界のリーダーの1つになっている分野でのロンドンの可能性が高まることを期待しています。
スナック大蔵大臣は、英国を世界でビジネスを行うのに最適な場所にしたいと述べています。
ブレグジットは金融ハブであるシティにとって悪いことですが、壊滅的なダメージにはならないでしょう。
生き残るシティ
EUはブレグジットを機会に、欧州大陸にシティの様な国際金融ハブを育てたいのでしょうが、これは大変難しいと思います。
その理由は次の通りです。
シティは一朝一夕にできたものではありません。
銀行や保険会社だけでなく、法律事務所、会計事務所など金融ハブを支える膨大なバックオフィスが存在する必要があります。
時間がかかるのはそういう人材を集める事だけでなく、規制当局が公平で迅速な判断を下せる事が重要です。
英国は「法による支配」が確立されており、外国人投資家から絶大な信用を得ています。
投資家は自分の持つ資産をどこに置けばもっとも安全かという観点で資産を動かします。
シティの持つ絶大な信用に、欧州大陸の金融ハブが肩を並べる様になるには相当な時間がかかるでしょう。
規制当局だけではありません。
以前このブログでも取り上げたドイツで一斉を風靡したフィンテック企業「ワイヤーカード」の不正を最初に指摘したのは、英国の「空売り屋」でした。
彼らは「ワイヤーカード」を詳細に観察した上で、不正があることをいち早くつきとめました。
こういう空売り屋の様な経験豊富なWatchdogが市場を見張っていることも、シティが健全な市場であることを担保しています。
この様な環境を整えることはそう簡単ではありません。
最後にもう一つ切り札を英国は持っています。それは英語です。
これは欧州大陸に比較して明白なアドバンテージと言えるでしょう。
シティはそう簡単にはへたばりません。
最後まで読んで頂き有り難うございました。