突然起きたクーデター
ミャンマーで起きたクーデターについては、連日の様に各種メディアで取り上げられています。
長く軍政が続いたこの国は、アウン サン スーチー女史のリーダーシップもあり、民主化への道を順調に歩んでいる様に見えました。
しかし今回起きたクーデターは、この国の政権が民主派と軍部の脆いバランスの上に成り立っていたことを明らかにしました。
クーデターの背後にあるものは何でしょうか。この点に関して欧米メディアの論説を幾つかご紹介したいと思います。
ミャンマーの問題を理解するには、先ずこの国の軍が持つ特権を理解する必要がある様です。
Foreign Affairs論文抜粋
ミャンマーの憲法は、「国家の統一を崩壊させたり、主権を失う可能性がある」状況を防ぐために、軍が権力を握ることを認めています。
軍は、アウン サン スーチーの政党であるNLDが軍に近い連邦団結発展党(USDP)に対して大勝利を収めた11月8日の総選挙において、不正があったとの申し立てをおこないました。
トランプ米大統領の選挙不正の主張と似通ったクーデター後の声明の中で、ミャンマー軍首脳は次のように主張しました。
「この不正問題が解決されない限り、それは民主主義への道を妨げるだろう」
軍は、一年後に行われる総選挙の結果に基づき、勝者に権力を委譲すると宣言しました。
しかし、不正選挙はクーデターの原因ではありません。
主因は、政府と軍の関係悪化でした。
2010年後半の国政選挙後、軍事統治者は自ら改革を開始し、米国や他の西側政府への架け橋を築いた準文民政府が政権を握りました。
しかし、将軍たちは、憲法上の拒否権を保持することによって、彼ら自身の特権を維持しようとしました。
11月の選挙でのNLDの一方的な勝利は、その微妙な勢力均衡を脅かしました。
これが軍部がクーデターを起こした原因です。
2011年に開始された改革は、NLDと軍の間の両者の緊張を故意に回避しました。
ミャンマーの「民主化への移行」は、軍の権力と特権を保護するために明示的に設計された文書であり、2008年憲法によって設定されました。
軍事政権によって起草された憲法は、3つの強力な省庁と議会の議席の4分の1の支配を軍に保証しました。
これは、憲法修正の事実上の拒否です。
憲法には、アウン サンスー チーがかつて外国人と結婚したことを理由に大統領を務めることを禁じる条項も含まれていました。
Foreign Policy記事抜粋
最も重要なプレーヤーは中国かもしれません。
先月、中国外相王毅と軍のトップであるミン・アウン・ラインの間で行われた会談が、クーデターを決定する上で極めて重要だった可能性があります。
米中両政府がこの危機にどのように対処するかは、彼ら自身の関係を占う重要な試金石になる可能性があります。
ミャンマー軍部は、国連での西側諸国からの非難から彼らを守るために中国に頼ることができると確信しない限り、行動を起こすことを躊躇していました。
その会議において何かが、中国が行動を起こす事をいとわないだろうと軍事指導者に信じさせたようです。
おそらく中国は将軍が彼の計画を進めることに対して、明確には許可しなかったと思われますが、軍の指導部は彼らの防衛の為に、中国を引き込むことができると考えた可能性があります。
ここで彼らは、中国がアジアでの影響力を拡大する機会を逃すことはめったにないので、米国とその同盟国がミャンマーに制裁を課す事になった場合、中国は自国の利益の為に介入するだろうと推測したのです。
中国が事前にクーデターに暗黙の了解を与えていた場合、米国は中国がクーデターを支持するのかしないのか真意を示さなければならないように追い込むべきです。
たとえば、中国は国連安全保障理事会でクーデターに対する非難を拒否するでしょうか?
バイデンチームは、中国がクーデターのどこに絡んでいるか正確に把握するよう努めなければなりません。
彼らがこれを手際良く行えれば、この地域の人権と民主主義のために多くの利益が得られるだけでなく、米国が世界の舞台でそのイメージを回復するための重要なチャンスにもなるでしょう。
ミャンマーの民主化はどうすれば達成できるか
驚くべきは、ミャンマーの憲法の中身です。
この憲法の草案は軍部が作成し、民主派に押し付けたものですから、軍部に有利な内容が含まれていることは当然ですが、ここまでとは思いませんでした。
事実上、軍の了解なしに憲法を改正することは不可能ですから、半永久的に軍の特権は維持される事になります。
軍の幕僚長が防衛大臣(彼の上司の筈)を指名できる仕組みになっていますので、シビリアンコントロールが全く守られていないと言って良いでしょう。
しかし、東南アジアを含め、この様な憲法が例外的ではない事は心しておく必要があると思います。
中国が今回のクーデター劇においては重要な役割を果たしている様です。
中国にとってミャンマーはインド洋への出口を確保する意味で、一帯一路戦略上極めて重要な国です。
バイデン大統領にとってみると政権発足早々に、舵取りが非常に難しい局面に遭遇しました。
もちろん、軍事クーデターを非難し、拘束された人たちの開放を要求するのは当然ですが、更に進んで厳しい経済制裁を課すところまでやるかどうかです。
経済制裁により、最も苦しむのはミャンマー国民です。
その上、軍事政権を中国側に追いやるリスクがあります。
個人的には、軍の出方を注意深く観察する必要があると思います。
ミャンマー軍部は伝統的に中国を含む隣国の干渉に対して強い拒絶反応を示してきました。
そう簡単に彼らが中国の軍門に降るとは思えません。
中国政府と深い関係を築いてきたのは、軍部よりも寧ろアウン サンチー スー政権の方でした。
総選挙の大勝利で軍部を一気に追い込もうとした現政権のやり方が軍部の反発を生んだのであれば、ここは拙速に経済制裁を課す代わりに、軍部ともコミュニケーションをとりながら作戦を練る必要があるのではないでしょうか。
ミャンマーの民主化にはそれなりの時間と忍耐が必要だと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。