Uberとの戦いを制したDidi
コロナ感染が始まる前ですから一昨年だと思いますが、中国の企業であるDidiが日本でタクシー配車事業を始めたと聞き、すぐにスマホにアプリを入れて、何度か使いました。
他の配車サービスと比べて、特に差がないので、その後、使わなくなってしまいましたが、このDidiは中国で圧倒的な配車サービスに成長した様です。
英誌Economistが「Why China’s Didi can succeed where Uber has struggled - To glimpse the future of the ride-hailing business, look east」
(Uberが苦戦する一方で、中国のDidiが成功できる理由 -ライドシェアリングビジネスの将来を占うにはアジアを見るべきだ」と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
2016年6月に天津でUberの創設者であるTravisKalanickは、「ここ中国に多額の投資を行なっています」と宣言しました。
2か月後、Uberは中国市場を断念し、北京を拠点とするライバルのDidiに中国の事業を売却しました。
Uberは中国の2年間で約20億ドルを失いました。
その撤退により、Didiは中国ライドシェアのチャンピオンとなりました。
このチャンピオンは、今日、国内の注文の5分の4以上を処理しています。
中国の巨人は、近々株式が公開され、 600億ドルの評価額を取得する可能性があります。
中国は世界最大のライドシェア市場であり、昨年10月には、平均して毎日2100万件もの予約が配車プラットフォームで行われました。
これは、パンデミック前のアメリカの2倍の数字です。
Uberは、中国事業を売却するまで、国内市場を含む他のどの国よりも多くの注文を中国で受けていました。
中国のライドシェアの総取引額は、昨年、2017年から50%以上増加して2,210億元(3兆4千億円)に達したと言われています。
アメリカはライドシェアリングを発明したかもしれません。
しかし、それが繁栄するための条件に最も恵まれているのは中国です。
その理由は、市場の規模だけではありません。
Didiはもっと多くのものを得るかも知れませんが、ライバルの活動も活発です。
配車会社は、人口密度が高い大都市の顧客に極度に依存しています。
2019年のUberの総予約数の約4分の1は、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドンの5つの大都市からのものでした。
中国には14の大都市圏があり、人口はそれぞれ1,000万人を超え、他のどの国よりも多くなっています。
これらの都市のほとんどは、交通渋滞を減らすことに熱心であり、ナンバープレートの供給を制限することによって自家用車の所有を思いとどまらせています。
北京の最新のナンバープレート抽選会では、360万人の応募者が6,370のナンバープレートを競いました。
中国で最も人口の多い都市である上海では、毎月少数のナンバープレートがオークションにかけられています。
1月のオークションでの平均落札価格は91,863元で、多くの中型車よりも高額でした。
車を保有できない何百万人もの人々は、シェアライドに依存する他ないのです。
さらに、高い都市密度は、駐車スペースを高価な商品に変えます。
中国で2番目に人口の多い都市である北京の1台あたりの公共駐車スペースの数は、ロサンゼルスの5分の1です。
世界最長の中国の高速鉄道ネットワークは、自動車所有のメリットを減じています。
また、労働力が安いということは、乗り物を低価格で提供できることを意味し、より多くの顧客がライドシェアにアクセスできるようにします。
中国政府は、3億4000万人以上の中国人が2020年前半に少なくとも1回は配車サービスを予約したと述べています。
Uberは、配車サービスから収益を上げていると主張していますが、昨年は49億ドルという莫大な営業損失を報告しています。
近年、同社はカーシェアリングや食品の配達から金融サービスまで、ビジネスラインを拡大しています。
目的は、便利な「エコシステム」を構築して、顧客がライバルのプラットフォームに切り替えるのを阻止することです。
ただし、ライバルたちも黙ってはいません。
中国の最も手強い競争相手であるShouqiの社長であるJack Weiは、今後の見通しについて楽観的です。
彼は、おそらく3つか4つの企業が、中国で長期的に繁栄する余地があると考えています。
市場を切り開く1つの方法は、差別化によるものだとWei氏は示唆しています。
Shouqiはプレミアムカスタマーサービスに強みを持っています(Uberの国内ライバルであるLyftがアメリカで試みているように)。
彼らの目標は、マスマーケットでDidiに「追いつき」ながら、高級な乗り物の「リーダー」になることです。
市場シェアを獲得するもう1つの方法は、戦略的提携を構築することです。
Shouqiは、中国の電子商取引の新星であるMeituanと特別な取り決めを結んでおり、特に食品の配達や自転車の共有サービスを提供しています。
この契約により、Meituanの年間4億7700万人のアクティブユーザーは、スーパーアプリでShouqiの乗り物を直接予約できます。
Meituanは、脅威と見なしているDidiをプラットフォームから除外しています。
その利点にもかかわらず、中国市場にはいくつかの障害があります。
欧米と同様に、当局はビッグテックに懸念を抱いています。
12月、市場規制当局は、Didiを含むオンライン巨人六社を召喚し、支配的な立場を乱用しない様指導しました。
地方レベルでは、過去4年間で、100を超える自治体が配車会社の運転手に厳しい規則を定めました。
目的は、配車会社によって影響を受ける地元のタクシー業界をなだめることであるように思われます。
ルールは通常、ドライバーに働きたい都市の居住証明を要求するなど、高い基準を設定します。
しかし、ほとんどの運転手は農村からの移民労働者です。
2016年、Didiは上海にいる41万人のドライバーのうち3%だけが基準を満たしたと不満を漏らしました。
Didiが2016年から開発している自動運転車の登場により、この問題はいつか解決するかもしれませんが、おそらく時間が掛かるでしょう。
その間、Didiは多様化することによって、成長を維持しようとしています。
2017年に国際部門を設立しました。
現在、ラテンアメリカを中心に13の海外市場で事業を展開しています。
しかし、中国は依然として最大のビジネスチャンスです。
地方自治体はライドシェア会社の規則違反に目をつぶっています。
おそらく彼らは、より厳しい法の執行が失業を増大させ、社会の安定を損なう事を危惧しているのでしょう。
Didiのドライバーの8人に1人は軍の退役軍人であることも影響しているかも知れません。
中国でのライドシェアビジネスにはまだまだ成長の可能性がある様です。
中国のライドシェア会社恐るべし
上海でナンバープレートが車より高い値段で取引されているとは知りませんでした。
それだけ中国の大都市の交通渋滞はひどいという事でしょう。
しかし、激しい交通渋滞がDidiの様なライドシェア会社に新しい機能を生み出させている様です。
Didiが集めるビッグデータはこの会社に渋滞をコントロールする力をも与えていると言われています。
全体主義国家である中国は国民のプライバシーに重きをおいていませんので、すべての市民がどこにいて、何をしているのか、また過去の履歴から、市民一人ひとりの行動パターンまで詳細に把握しているものと思われます。
この様なデータが蓄積されれば、人の流れがかなり高い確率で予測できるでしょう。
そうなれば、AIの力を使って、信号の間隔を調整するなどして、渋滞を緩和することもできる筈です。
既に、中国では運転手がいない自動運転車(ロボットタクシー)が使われ始めていると聞きますが、これも万一の事故リスクよりも開発を急ぐ全体主義国家だからできる事なのかも知れません。
コロナ感染対策もそうでしたが、当局が思うがままに市民を管理し、情報を集める事ができる中国の優位性が、ライドシェア業界においても発揮されそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。