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テキサス州の大停電から得られる教訓

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日本の寒波電力網を襲う

今年北日本を中心に厳しい寒波が襲い、一部地域で電力不足に陥りました。

この様に一時的に電力需要が急増した場合、電力需給のギャップを埋めるのは、一般的に天然ガス焚き発電所です。

しかし、各電力各社とも液化天然ガスの蓄えは十分でありませんでした。

各社とも天然ガスは長期契約で手当てしており、コストが高く、保存が効かない液化天然ガス(LNG)のスポット調達は敬遠されていたのです。

しかし、停電の危機に瀕した電力各社がスポット調達に走った為、LNGの価格は急騰し、それが電力価格に跳ね返りました。

電力自由化の掛け声の下、雨後の筍の様に生まれた新電力各社は、電力卸価格の急騰に一部は廃業を余儀なくされた処もあった様です。

異常気象による電力価格の高騰は日本だけではなかった様です。

米国テキサス州も歴史的な寒波に襲われ、停電が何日も続いた地域があった様です。

英誌Economistが「The freeze in Texas exposes America’s infrastructural failings」(テキサスの寒波は米国のインフラに関する失策を明らかにした)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

冬の嵐が記録的な降雪と30年ぶりの最低気温がテキサス州を襲った後、何百万人もの人々が電気と熱源を失いました。

2月16日、電力需要が急増し、配電網全体がダウンしないようにする為、450万もの世帯が電力を遮断されました。

一部のテキサス人は雪道に勇敢に立ち向かい、幾つかのホテルにチェックインしましたが、ホテルに到着すると電源が切れました。

他の人たちは、明かりが戻ってくることを期待して、スキーウェアを着て家に籠もったままでした。

州全体で、停電が数日間続きました。

暖をとるために起きた火事や、車を熱に使うことによる一酸化炭素中毒により、20人以上が車中で亡くなりました。

嵐はまた、コロナワクチンの配達を停止し、今週約100万回のワクチン接種が行われない可能性があります。

いくつかの小売電力会社は、卸電力価格の高騰に見舞われた為、破産する可能性があります。(図参照:出典Economist)

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テキサス人は、アメリカのエネルギー資本が信頼できる電力を提供できないことに当然のことながら激怒しています。

簡単に言えば、グリッドを運営しているテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)が、エネルギー需要を適切に予測していなかったということです。

これを予測することはほぼ不可能であると言う人もいますが、前週には厳しい寒波の到来が予測されていたにも拘らず、ERCOTの対応は遅きに失しました。


多くの共和党の政治家は、停電の原因を風力などの再生可能エネルギーに押し付けたがりますが、それは公平ではありません。

一部の風力タービンは確かに凍結しましたが、州の発電量の約半分を占める天然ガスが停電の主な原因でした。

ガスのサプライチェーンやパイプラインと同様に、発電所が故障しました。

州の2つの原子力発電所の1つにある原子炉も運転停止しました。

エネルギー調査会社であるウッドマッケンジーは、送電線も氷結している可能性があると述べています。

要するに、テキサスは完璧な嵐を経験したのです。

 

責任の一部は、テキサスの電力市場のユニークな特徴にあります。

アメリカの48の隣接する州の中で、テキサス州は唯一他の州と接続していません。

これは、発電機が故障した場合、州外から電力を調達できないことを意味します。

 

州の規制緩和された電力市場も激しい競争を繰り広げています。

ERCOTはグリッドを監督し、発電所は卸売市場向けに電力を生産します。

約300の小売電力会社がその電力を購入し、消費者を求めて競争しています。

このような寒さはまれであるため、エネルギー会社は、消費者価格を上昇させる要因となる、機器の「冬期の備え」に投資しません

おそらく最も重要なのは、州には「余剰電気容量」がないことです。

これは、急増する需要に対応する一種の保険として機能するため、停電は起きませんが、顧客はより高い対価を支払うことになります。

 

何年もの間、テキサスの規制緩和された市場構造の利点は明らかでした。

州の電力の平均小売価格は1キロワット時あたり8.6セントで、全国平均の約5分の1であり、カリフォルニアの約半分のコストです。

1999年に州は再生可能エネルギーの目標を設定し、今日ではアメリカの風力エネルギーの約30%を占めています。

 

この災害により、テキサスの電力システムが以前信じられていたほど適切に設計されているか疑問視されるようになりました。

しかし、テキサスの電力網が根本的に再設計される可能性は少なそうです。

雪が溶けた後、州はある課題に取り組む必要があります。

余剰電力容量を増やす必要があるかどうかです。

「ここに余剰電力を課し、機器を厳冬に対応させる為、大量の新しい設備投資が必要な場合、誰がそのコストを負担しますか?最終的にはお客様です」と関係者は述べます。 

 

停電に苦しんでいる州はテキサスだけではありません。

電力市場がより厳しく規制されているカリフォルニアは、高熱、強風、山火事の時期に定期的に停電に陥ります。

カリフォルニアでも、テキサスと同様に、追加の発電、ピーク需要を満たすためのエネルギー貯蔵、および埋設電力線やより長距離の高電圧送電などのより回復力のあるインフラストラクチャが必要になります。

かつては異常と思われた気象現象がより一般的になりつつあります。

電力網への投資がなければ、停電も再度発生するでしょう。

安定した電力供給を可能にするには

異常気象による電力供給の不安定化は日米とも同じ理由から生じている様です。

電力市場の自由化からコスト競争が激化し、以前の様に余剰電力容量を誰も持たなくなっている事や、異常気象に対応する様な発電システムのレベルアップも行って来なかった事などです。

更に言えば、再生可能エネルギーの導入により、需要の急増に対応する電力源の比率が下がった事も理由に挙げられるでしょう。

以前の様な地域独占の状態に戻すのは現実的ではないと思いますが、国として余剰電力容量を確保したり、電力が不足している地域に余っている地域から電力を融通したりするシステムを構築すべきと思います。

欧州などは国を超えた電力融通システムを構築していますので、例えばドイツの風力が十分な電力を生まなくても、フランスの原子力がそれを補う事ができますが、島国の日本は不可能です。

日本に最もふさわしいエネルギーミックスが何かをしっかり検討すべきと思います。

異常気象はもはや例外ではなくなりつつあります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。