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再び高騰を始めた欧州排出権価格

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活気を取り戻す排出権市場

京都議定書が締結されたのは1997年12月でした。

その後2000年代初頭にかけて、排出権取引は大きな盛り上がりを見せました。

当時私もこの排出権取引に取り組んだ一人ですが、最初は排出権取引の仕組みがよく分からず、途方に暮れたのを覚えています。

二酸化炭素の排出を削減するのが目的だと思っていたのですが、地球温暖化ガスというのは二酸化炭素だけではないんですね。

エアコンの触媒として使われるフロンガスや化学肥料工場から排出される亜酸化窒素なども地球温暖化ガスなのです。

そして排出権取引に関与しているものにとってビジネスターゲットはこれら地球温暖化ガスでした。

その理由はフロンガスなどは二酸化炭素と比較して地球温暖化により大きな悪影響を与えるとして、地球温暖化係数という指標が使われ、例えば1トンのフロンガス排出を削減すると、二酸化炭素換算で1万トン以上を削減した事になるのです。

排出権取引という仕組みを設計した人は大変賢い人だと思います。

この仕組みの中に、巧みにビジネスのインセンティブが仕込まれていたのです。

排出権価格は長い間低迷しましたが、ここにきて高騰している様です。

英誌Economistが「Prices in Europe’s carbon market, the world’s biggest, are soaring」(世界最大のEU炭素市場の価格は高騰している)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

ワクチン接種が進み、迅速な景気回復の可能性について期待が高まるにつれて、株式、商品、およびあらゆる種類の資産の価格が上昇しています。

排出権取引システムの本拠地であるヨーロッパの炭素価格も同様です。

価格は11月以来60%上昇しました。

2月12日には、二酸化炭素換算トンあたり40ユーロ近くという過去最高を記録しました(グラフを参照)。

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昨年、世界の炭素市場の価値は過去最高の2,290億ユーロ(29兆円)に達し、2017年の5倍になりました。

EUの排出権取引システム(ETS)は、その価値と成長において世界市場のほぼ10分の9を占めています。

2020年には、約10億ユーロ相当の排出枠が毎日変更され、多くのオプションや先物契約も変更されました。

投資家が関心を持っているため、取引がより活発になっています。

 

2005年に発売されてから長い間、ETSはほとんど機能しませんでした。

過剰な割当(保有者に一定量の温室効果ガスを排出する権利を与える)により、価格はほぼゼロに保たれました。

しかし、欧州委員会が2019年に市場から過剰な割り当てを取り上げた後、それは高騰し始めました。

 

ETSは奇妙な市場です。

EUの政治的に決定された排出目標に基づいて全体的な排出権割り当てが制限されます。

一方、需要は3種類の参加者から来ています。

最大の需要源は、ドイツのRWEやフランスのEngieなどの電力会社です。

彼らは、現在のプロジェクトからの排出をカバーするため、または将来の価格上昇をヘッジするために手当を購入します。

次は、鉄鋼メーカーなどの産業会社です。

これらのほとんどは無料の排出量割り当てを受け取るので、ETSは生産者が海外に移動することを奨励していません。

3番目の、そして成長している需要源は、ゴールドマンサックスなどの金融会社と、ヘッジファンドです。

これらは排出量割り当てを保持する必要はありません。

代わりに、先物またはオプション市場で投機することによって、利益を得ることを狙っています。

 

最近の価格の高騰は、需要と供給の両方を反映しています。

1月にオークションが中断されたため、販売される割り当てが少なくなりました。

そして12月11日、EUの指導者たちは、排出量の削減を加速し、2030年までに1990年のレベルと比較して40%ではなく55%削減することに合意しました。

これは、排出量の上限が低く、最終的には排出枠が少なくなり、価格が高くなることを示しています。

投資家が活発になる理由の1つは、炭素が一方向の賭けのように見えることです。

多くのアナリストは、EUの55%削減目標を達成するためには、割り当ての数を減らし、価格を上げる必要があると予想しています。

おそらく1トンあたり80ユーロに近づくでしょう。 それは投資家にとって朗報かもしれません。

 

炭素価格を購入して維持するだけが戦略ではありません。

炭素価格は他の資産の価格とほとんど無相関であるため、一部の投資家はポートフォリオを多様化するために炭素価格を保持している様です。

また、インフレをヘッジするためにも使用できます。

「投資家がそれを[環境、社会、ガバナンスの要因を考慮した] ESG取引と見なし始めると、ファンドは炭素市場により多くの資金を割り当てるでしょう」と専門家は指摘します。

ETSの次の一手は何でしょうか?

野心的なアイデアの1つは、国境炭素税を通じてETSを他の地域と接続することです。

理論的には、それは炭素集約的な海外の競争相手からヨーロッパの産業を保護するでしょう。

ETSは依然として本質的に政治的なプロジェクトです。

国際的なルール作りで後れを取る日本

京都議定書に基づく排出権取引で得をしたのは誰でしょう。

それはもちろん排出権を高く売れた中国を筆頭とする発展途上国でしょう。

しかし、排出権を購入せざるを得なかった筈のEUは日本ほど損をした訳ではありません。

EUと日本の差を招いたのは、京都議定書の基準年でした。

京都議定書では1990年度の排出量を基準に各国の削減率を決めています。

1990年という年は東西ドイツが再統一された年です。

もちろん旧東独は省エネ技術も遅れており、CO2を垂れ流していた状態でした。

EUは東独の様な旧共産圏の国も含めた排出量を基準にしていますから、簡単に削減目標を達成できました。

それに引き換え、日本は世界で最も優れた省エネ技術を使って1990年時点では既に、世界で最も省エネを達成していました。

従って、京都議定書で1990年をベースに削減目標を設定されたという事は、絞り切った状態の雑巾から更に水分を絞りとれと言われた様なものでした。

この京都議定書の失敗を繰り返してはいけません。

しかし、したたかなEUは自分に都合の良いルールをまたしても作ろうとしています。

これに対抗するためには、簡単ではありませんが、米国或いはEUから離脱した英国を味方につける他はないでしょう。

排出権取引は今も昔も大国間の戦いなのです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。