使用を一時停止された英国製ワクチン
日本も遅まきながらワクチンの接種が始まりました。
日本が契約を結んでいるワクチンは英アストラゼネカ社と米ファイザー・独Biontech社の二つと報道されています。
その内1億2千万回(6千万人分)が供給される予定のアストラゼネカ社のワクチンに関して、EU各国が安全の問題から接種停止を発表しました。
この問題には複雑な欧州の政治情勢も絡んでいる様で英誌Economistが「EU countries pause AstraZeneca’s covid-19 jab over safety fears - An abundance of caution could well backfire」(EU諸国は、安全上の懸念を理由にアストラゼネカのワクチン使用を一時停止 - 慎重に過ぎれば裏目に出る可能性がある)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ヨーロッパでは、新型コロナに対するワクチン接種が、遅いスタートを切りました。
EUでは、100人ごとにわずか11回の投与しか行われていませんが、アメリカでは32回、英国では38回です。
欧州人は、政府や、昨年ワクチンの注文で失敗した欧州委員会を批判しています。
さらに悪いことに、いくつかの国では新しい感染の波が発生しているようです。
しかし、最近、速度への懸念に安全性への懸念が加わっています。
3月15日、フランス、ドイツ、イタリアは、英国とスウェーデンの製薬会社であるアストラゼネカが製造したワクチンの使用を一時的に停止したことを発表しました。
ワクチン使用停止の動きは、血栓の4例を報告したノルウェーの医療規制当局からのデータによって始まりました。
同様の僅かな数の報告は、デンマーク、イタリア、オーストリアからも行われています。
ところで、アストラゼネカワクチンは安全ですか?
ほぼ確実にYesです。
アイルランド政府の責任者であるRonanGlynnは、ワクチンが血栓を引き起こしたという証拠はないと述べました。
世界保健機関と欧州医薬品庁(EMA)も同様に、ワクチンが安全でないと信じる理由はないと述べています。
医学においては、特に何百万人もの人々に与えられる薬に関しては、相関関係から因果関係を解きほぐす事が重要です。
EMAは、アストラゼネカのワクチンを接種された約500万人の人々の間で30の血栓が見られたと考えています。
血栓のある人がワクチンを接種したことは、それ自体、ビタミンサプリメント、または朝食を摂取した人がいるという事実と同様に注目に値しません。
問題は、レートが他の方法で予想されるよりも高いかどうかですが、そうではないようです。
「予防接種を受けた人々の血栓の数は、一般の人々に見られる数よりも多くはありません」とEMAは言います。
他の場所で得られたデータも同様に問題がありません。
ワクチンの評価に使用された臨床試験では、ワクチンを与えられた人の38%が、主に注射部位の痛み、頭痛、一過性の発熱など、少なくとも1つの副作用を報告しました。
そのため、グループ内の28%がダミー注射を行いました。
どちらのグループも、深刻な病気にかかったのは1%未満でした。
試験データは、他の国での実際の経験によって裏付けられています。
2月28日までに、英国は、970万回分のアストラゼネカワクチンと1,150万回分のファイザー社製のワクチンを投与しました。
英国の医薬品規制当局である医薬品医療規制庁は、両方のワクチンが、1,000回の投与ごとに3〜6回の副作用の報告を引き起こし、そのほとんどすべてが軽度であると考えています。
ファイザー-BioNTechのワクチンを投与された直後に227人が死亡しました。
アストラゼネカの場合275人です。
繰り返しになりますが、どちらの数字も異常ではないようであり、死亡がワクチンに関連している可能性は低いです。
英国では毎年約50万人が亡くなり、非常に年をとった重い疾患を抱えた人が最初にワクチンを接種しました。
しかし、問題には免疫学の問題以上のものがあるかもしれません。
1つの要因は政治です。
1月、アストラゼネカはEUに対し、期待したほどのワクチンを供給できないと警告し、英国のEU離脱後のEUとの関係についての広範な論争に巻き込まれました(アストラゼネカのワクチンは英国で製造されています。)。
匿名の情報源に基づくドイツの新聞の記事は、65歳以上の人々におけるワクチンの有効性について疑問を投げかけましたが、後で間違っていることが証明されました。
これらの主張は後に、このワクチンが「あまり効かない」事を示唆したマクロン仏大統領によって増幅されました。(フランスが予防接種キャンペーンを加速しようとしたため、マクロン氏は後に彼の立場を変えました)
もう1つの問題は、専門家が「ワクチン忌避症」と呼んでいるものです。
公衆衛生当局者は、安全上の懸念を真剣に受け止めていると見られたがりますが、アストラゼネカワクチンをめぐる論争は彼らを過敏にさせた可能性があります。
過去のワクチンの事象は、一度植え付けられた疑いを取り除くのは難しい事を示しています。
はしか、おたふく風邪、風疹の混合ワクチン(MMR)が自閉症を引き起こすという考えは、ある単一の論文に基づいていました。
そのような関連性については現在、完全に反証されています。
にもかかわらず、MMR悪玉説は未だに一部で信じられています。
多くの先進国は、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の予防接種を子供たちに行っています。
2013年に副作用の事例報告があった後、日本はHPVワクチン接種プログラムを一時停止しました。
HPVワクチンの安全性を示す証拠があるにも拘らず、予防接種を未だに復活させる事が出来ていません。
ある論文によると、その結果、1994年から2007年の間に生まれた5,000人から5,700人の日本人女性が亡くなっています。
1月にアストラゼネカワクチンを確保するために必死になったため、ヨーロッパには現在、使用されていないワクチンが残されています。
人々がすでにワクチンについて疑問を抱いている場合、一時的な使用停止は、厳格さと安心のコミットメントと見なされる可能性があります。
一方、それはより多くの人々にワクチンを避けさせ、パンデミックを長引かせ、そうでなければ生きていたであろう何人かを殺すかもしれません。
結局のところ、新型コロナの「悪影響」の1つは死です。 1%弱のケースで発生します。
実証データから客観的な判断を
このEconomistの記事を読む限り、どうやら、ワクチンの早期確保に失敗したEU各国政府が国民の批判をかわすために、「アストラゼネカのワクチンは危険だから、あわてて使わなくて良かった。」と説明している様です。
こういう政治家の責任逃れに翻弄される国民は本当に気の毒です。
ワクチンや特効薬に関して重要なのは徹底してデータだと思います。
薬には勿論副反応というリスクが付き纏います。
当局はリスクを取りたがりませんので、概して新薬の採用には消極的です。
彼らは、新薬のリスクを踏むよりも、何もしない方が批判を生みにくいと考えがちです。(新薬を使わないために命を落とした犠牲者は数字に表しにくい)
しかし、彼らに全て任せれば、Economist記事が触れている子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の予防接種の様に、救える筈の命も救えなくなる可能性があります。
しっかりした科学的データに基づき、客観的に判断する必要があると思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。