アパレル企業が直面する二者一択
新疆ウイグル自治区における中国政府のウイグル人への弾圧は、最近欧米のメディアでしばしば取り上げられる様になりました。
英米に続いて、EUもついにこの問題に関して制裁措置を発表しました。
これに対して中国政府は反撃を開始した様です。
中国市場で活動しているアパレルメーカーを狙い撃ちして、中国側につくか否かの踏み絵を踏ませようとしている様です。
この問題について、英誌Economistと米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
1年以上の間、いくつかの大手アパレルおよびテクノロジー企業は、新疆ウイグル自治区のイスラム系少数民族であるウイグル人に対して中国が犯した人権侵害について微妙な線を引いてきました。
これらの企業は、ウイグル人の強制労働をサプライチェーンから一掃するために取り組んできました。
しかしこれらの企業は、共産党と14億人の中国の消費者を怒らせることを恐れて、これらの努力を控えめに行ってきました。
今週、中国当局が熱狂したオンライン上の騒動は、中国政府が海外企業のこういった曖昧な姿勢にうんざりしている事を示唆しています。
中国政府は、新疆ウイグル自治区の政策を批判する企業を罰することにますます熱心になっており、外国企業に、中国を支援するか、中国市場から撤退するかという選択を強いています。
3月24日、共産党の下部機関である共産主義青年団は、新疆ウイグル自治区での強制労働に関する懸念を表明したアパレル企業H&Mに対してオンラインボイコットをかきたてました。
これに政府関係者と国営メディアが参加しました。
オンラインの暴徒はH&Mや、ナイキ、ユニクロ、アディダスなどの他のブランドを包囲し、中国で収益を上げることを望む場合は、新疆に関する過去の声明を撤回するよう要求しました。
3月26日までに、eコマースから地図アプリまでの中国のアプリがH&Mを削除しました。
翌日までに、中国のいくつかの店舗は閉鎖されていました。
収益が10億ドルに相当する中国事業(2020年のH&Mの世界売上高の約5%)は危機に瀕しています。
共産党は、世界第2位の経済大国である「強力な重力場」を利用して、他国に経済的圧力をかけることがますます可能になっていると考えています。
中国市場の引力は確かに強いです。
無印良品、FILA、ヒューゴボスを含むいくつかのアパレル企業は、中国のソーシャルメディアで、新疆ウイグル自治区の綿花を支持していると証言しました(これら3社はすべて、新疆ウイグル自治区での強制労働の申し立てに関する懸念を認める本社からの声明も発表しています)。
他の企業は新疆に関する以前の声明を取り下げました。
カルバン・クラインを所有するPVH、Zaraを所有するインディテックスなどのブランドです。
インディテックスは2020年1月の時点で中国本土に570店舗を展開しており、スペイン国内市場以外のどの国よりも多く、中国の製造業者はバングラデシュに次ぐ50万人以上の労働者を雇用しています。
新疆ウイグル自治区の政策に対する批判に対する中国の公式の怒りと、西側の人権運動家や消費者からの圧力の両方が強まり続けるにつれて、それはすべてを変える可能性があります。
人権活動家たちはすでに、来年の北京オリンピックの企業ボイコットを呼びかけています。
企業は、儲かる中国市場と世界の他の地域で企業が公言する価値観との間の選択は避けられなくなっていると、元国務省職員であるフリーマン氏は言います。
WSJ記事要約
捏造(ねつぞう)された怒りは効果の高い政治的武器かもしれないが、それはいとも簡単に制御不能に陥る。
異なる視点が存在しない環境で、強力なソーシャルメディアによって煽られればなおさらだ。
スウェーデンのH&Mをはじめとする国際的なファッションブランドが世界最大の消費者市場である中国で直面しているのは、まさにそうした状況だ。
発端となったのは、新疆ウイグル自治区の綿花を使用しないという決定だった。
H&Mとその小売店舗は通販サイト「淘宝網(タオバオ)」のような電子商取引プラットフォームからほぼ削除された。
そればかりか、「百度地図(バイドゥマップ)」などの地図アプリや配車サービスの滴滴出行からも締め出された。
安易な抜け道はない。
ナイキのように、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切)」など米国内の社会運動への支持を表明している企業にとってはとりわけそうだ。
欧米の消費者ブランドは今後ますます、新疆ウイグルのような状況は嫌悪すべきと考える本国の顧客と、中国の消費者のどちらかを選ばねばならなくなっていく。
中国の消費者は多くの場合、自国政府の行いについて全体像を知ることがなく、中国政府へのあらゆる批判は中国をおとしめる偽善的な試みだと描くメディアに囲まれている。
問題への対応策を見いだすことは米国の企業や政策当局者にとって難題だ。
一つ役立つことがあるとすれば、人種間の根強い不平等や憎悪犯罪といった米国自身が抱える問題への取り組みを迅速に進めることかもしれない。
人権問題の実績に乏しい他国政権への支援もできるだろう。
そうした段階を踏むことで、米国や米企業は中国の虐待について非難する際、偽善との批判を受けにくくなる。
北京オリンピックへの影響
この問題はグローバル企業にとっては難題です。
今後アパレルだけではなく、他企業にも波及する可能性があります。
更には開催まで一年を切った北京冬季オリンピックに波及する可能性があります。
中国政府は早くも西側諸国のボイコットの可能性を危惧しているのか、先手を打って「オリンピックに政治を持ち込むな」と主張しています。
確かにオリンピックは、戦争に明け暮れたギリシャの市民国家がオリンピックの期間だけは矛を収めて競技を行なった故事に基づいています。
しかし、現代のオリンピックは商業主義にまみれています。
IOCの最大の収入源は米国のテレビ放映権ですが、米国の視聴者が中国けしからんとなれば、米国のテレビ局はオリンピックを中継しなくなります。
こうなればオリンピックはイベントとして採算がとれなくなります。
北京オリンピックの赤字は中国政府が埋めるとしても、今後のオリンピックはコロナ感染の様なリスクに加えて、政治リスクを抱えるとなると、ホストをやりたいと名乗り出る都市はいなくなるでしょう。
ウイグル族への弾圧は、オリンピックの終焉を招く引き金になりかねません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。