巨大コンテナ船が象徴するグローバリゼーション
先日、スエズ運河で座礁した大型コンテナ船「エバーギブン」は全長400メートルで2万個のコンテナーを積めると聞いて驚きました。
こんな巨大な船が欧州とアジアを往復している事は、世界のグローバリゼーションが如何に進んでいるかを如実に物語っています。
しかし、そのグローバリゼーションに最近暗雲が垂れ込めています。
米中の対立激化を背景に、各国ともサプライチェーンの見直しに着手しています。
そんな反グローバリゼーションの動きに対して英誌Economistが「Global supply chains are still a source of strength, not weakness - Resilience comes not from autarky but from diverse sources of supply」(グローバルサプライチェーンは弱点ではなく強みの源です - 危機に対する抵抗力は、閉鎖経済からではなく、多様な供給源からもたらされます)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ほぼ1週間、スエズ運河は20万トンの巨大な船によって封鎖されました。
「エバーギヴン」は、世界最大のコンテナ船の1つであるだけでなく、グローバリゼーションが行き過ぎているとの批判のターゲットにもなりました。
1990年代初頭以来、効率を最大化するためにサプライチェーンが構築されてきました。
企業は、規模の経済を追求するため、特定のタスクを専門化し、集中させることを目指してきました。
しかし今では、大きすぎて操縦できない船のように、サプライチェーンが脆弱性の原因になっているのではとの懸念が高まっています。
半導体の不足により、自動車会社は世界中の工場で操業停止に追い込まれました。
中国は、新疆ウイグル自治区から綿花を調達することを望まない、H&Mにネット上でボイコットを課しました。
欧州連合とインドはワクチンの輸出を抑制し、接種を急ぐ世界の取り組みを混乱させました。
彼らがパンデミックと戦い、地政学的緊張の高まりに直面するにつれて、世界中の政府は効率性の追求から回復力と自立へと方針転換を行おうとしています。
サプライチェーンをより堅牢にすることは理にかなっています。
国家安全保障が危機に瀕しているとき、政府は物資をより安全にする役割を担っています。
しかし、グローバリゼーションからの衝動的な後退は、それが大きな害をもたらすだけでなく、予期せぬ新たな脆弱性を生み出す事を認識する必要があります。
グローバリゼーションに対する不満の1つは、生産を集中させ、代替ソースを排除することです。
iPhoneは、49か国にまたがるAppleの製造ネットワークに依存しています。
ワクチンのチャンピオンであるファイザーには、5,000を超えるサプライヤーがいます。
しかし、効率の絶え間ない追求により、在庫が少なくなり、問題が発生しました。
パンデミックが始まったとき、国民と政治家は外国製のフェイスマスクとテストキットの争奪戦に恐怖を感じていました。
先進的な半導体の半分以上は、台湾と韓国のいくつかの工場で製造されています。
中国は、電気自動車のバッテリーに使用される世界のコバルトの72%を処理しています。
地政学上の対立が高まっているとき、そのような依存は特に問題です。
国際貿易ルールの衰退により、各国は相互に依存することをより警戒するようになっています。
パンデミックの間、各国は140以上の特別貿易制限を通過し、多くの国が外国投資のスクリーニングを密かに厳しくしました。
アメリカと中国の間の争いが激化するにつれて、禁輸、あるいは軍事紛争の脅威が高まっています。
トランプ前大統領の下で、米国はグローバルな貿易体制を弱体化させましたが、バイデン大統領はそれを再建するために多くの政治的資本を費やさないでしょう。
このような背景の中、政府は物資を確保する役割を担っていますが、それは限定的であるべきです。
補助金など国内サプライヤーへの支援は、重要な製品が敵対的な政府による潜在的な干渉の対象となる場合にのみ正当化されます。
一部のレアアースはこのカテゴリーに分類されますが、手指消毒剤は分類されません。
リスクは、各国が最小限の介入を超えてしまうことです。
つまり、インドの保護貿易主義者であるモディ首相のスローガンの様に、各国は「地元の声」を得ることになります。
2月24日、バイデン氏はアメリカのサプライチェーンの100日間のセキュリティレビューを命じました。
3月9日、EUは、2030年までに世界の半導体製造のシェアを2倍の20%にすると発表し、2025年までにバッテリーを自給自足することを約束しました。
昨年、習近平は中国経済の外圧からの隔離を目的とした「二重循環」を開始しました。
そのような、国内の雇用と製造業への選好と補助金の約束は、世界が自由で開かれた市場からシフトする可能性を生み出します。
閉鎖経済へのそのようなシフトは正当化されないでしょう。
その理由の1つは、政府が管理する国内のサプライチェーンはグローバルなサプライチェーンよりもさらに回復力が低いことです。
豆とパスタのパニック買いの後、8兆ドルの世界的な食品サプライチェーンは即座に適応し、ほとんどのスーパーマーケットで在庫を維持しました。
どのように配分するかについての議論は沸騰していますが、世界的なネットワークは今年、100億回分ののワクチンを供給する事ができます。
自立は安全に聞こえますが、政治家や有権者は、食事、電話、衣服、ワクチンがすべてグローバルサプライチェーンの産物であることを覚えておく必要があります。
サプライチェーンを国内で複製することによる効率の低下とコストは壊滅的です。
国内企業は補助金や関税によって競争から保護されるため、コストの増加は消費者への隠れた税金となるでしょう。
そして結局のところ、自立の政策は、先進産業を受け入れるには小さすぎるか貧しい国にペナルティを課すことになるでしょう。
製造業を国内に集中させることになれば、アメリカの様な大国でさえインテルの様な自国の生産者の欠点にさらされるでしょう。
危機への耐性は、閉鎖経済からではなく、多様な供給源とショックへの絶え間ない民間部門の適応からもたらされます。
時が経てば、グローバル企業は、新たな投資を行う場所を徐々に変えることで、アメリカと中国の間の緊張や気候変動の影響など、長期的な脅威にさえ適応するでしょう。
貿易にとって危険な時期が訪れています。
グローバリゼーションが開放性を生むように、ある国の保護と助成金は他の国に広がりました。
グローバリゼーションは数十年の仕事です。座礁させないでください。
危険な保護主義の高まり
地政学的な対立の高まりは、各国のサプライチェーンの見直しにまで発展しています。
「海外への依存を避けて、国内産業を育成する」という耳障りの良いスローガンを掲げる政治家が世界中で製造業の国内回帰を主張しています。
そのポピュリスト政治家の代表がトランプ氏だった訳ですが、これは危険な動きだと思います。
保護主義が昂じて禁輸にまで発展すれば、第二次世界大戦直前の日本に対する米国の禁輸措置が戦争にまで発展した様に、大きな紛争を生みかねません。
グローバルサプライチェーンは発展途上国の雇用や先進国からの技術移転にも大きな貢献を果たしていますので、これがなくなれば南北格差は更に広がりかねません。
レアアースや一部の高機能半導体の様な戦略的物資は別ですが、通常の商品の生産まで国内回帰するのは、経済的にデメリットが大きく、喜ぶのは一部の政治家と彼らに群がる圧力団体だけではないでしょうか。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。