日米首脳会談での最重要議題
今月16日に菅首相はバイデン 大統領との首脳会談に臨む予定です。
日本の首相が直接の面談相手としては最初に指名された事は特筆すべき事ですが、そこで協議される議題は解決が困難なものばかりです。
その中でも北朝鮮問題は台湾問題と並んで最も難易度が高いと思われます。
北朝鮮は弾道ミサイルの打ち上げを再開し、アジアだけではなく、米国にとっても安全保障上の脅威となっています。
この問題について米誌Foreign Affairsが「China’s Dangerous Double Game in North Korea」(北朝鮮における中国の危険な裏切り行為)と題した論文を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs記事要約
ワシントンの新政権はおなじみの問題に直面しています。
北朝鮮は国連安保理決議に違反して、弾道ミサイルをを再びテストしています。
バイデン米大統領は、同盟国と協議して強力な対応を策定することを表明することで、前任者との差別化を図っています。
そのような方向転換は大歓迎です。
しかし、新政権が本当に北朝鮮を動かしたいのであれば、北朝鮮における中国の役割について受け継いだ仮定を再考する必要があるでしょう。
これまでのところ、バイデンチームは、米国と中国が北朝鮮の核軍縮に共通の関心を持っており、そこでの米国の政策は北朝鮮政府に対する中国の多大な影響力を利用しなければならないという長年の見解に固執しています。
しかし、中国はここ30年間、その自己利益が何であるかを示してきました。
それは現状維持です。
中国は確かに北朝鮮が弱体化し、米国が朝鮮半島で強まるのを見たくありません。
しかし、米国が軍事オプションを取る事を余儀なくされるほど、バランスが北朝鮮に有利に傾くことも望んでいません。
北京が非核化を支援するために何もしなかった場合、米国は外交への信頼を失い、代わりに半島での軍事的プレゼンスを高めるか、あるいは軍事行動をとることを決定する可能性があります。
しかし、北京が米国を助けるためにあまりにも多くのことをすると、北朝鮮は崩壊し、半島全体が米国の影響下に入る可能性があります。
したがって、中国の北朝鮮政策は微妙なバランスをとる行為です。
それを通じて、北京は金正恩政権を大胆にさせることなく、その政権に対する影響力を維持しようとしています。
北朝鮮を政権崩壊を引き起こす程の圧力にさらすことなく、国連制裁プログラムなど、北朝鮮に圧力をかけるための多国間努力に参加します。
そして、軍事介入を未然に防ぐための外交的解決策への十分な希望を米国に提供すると同時に、いかなる解決法も米国ではなく中国に有利な様に導きます。
中国のバランス
北京と平壌はここ数年、冷めた関係にあります。
紙面では、中朝友好協力条約は両国を同盟国にしています。
しかし実際には、北朝鮮が紛争を引き起こした場合、北京はそれを守る義務を負わない様です。
習近平主席は金正恩主席と何回も面談を行っていますが、北朝鮮を同盟国と呼ぶことを避け続けています。
一方、北朝鮮を押さえ込むことを目的とした国際的な取り組みを中国は管理しようとしています。
中国は2017年に北朝鮮に関する国連安保理決議の3つすべてに賛成票を投じましたが、北京は、核問題に関する北朝鮮のコンプライアンスを強要するために制裁を使用することに常に懐疑的であり、過度の圧力が金正恩を打ちのめし、国際的な努力を弱体化させる可能性があると懸念を表明しました。
2017年に国連が制裁を課した時も、中国は当初、制裁を厳格に施行する態勢を整えているように見えましたが、すぐにロシアと協力して制裁を緩和しようとしました。
中国は、北朝鮮に22,730トンの精製油を供給し、北朝鮮が約3億7000万ドル相当の石炭を輸出するのを支援したことにより、規制に違反したとされています。
北京の北朝鮮政策は、主にアジア太平洋地域の米国の力に対抗し、朝鮮半島に対する中国の影響力を高めたいという願望によって動機付けられています。
核問題は、北朝鮮が脅威を感じなくなったら核兵器開発を停止するという理屈で、米国が半島での軍事的プレゼンスを減らすよう求める口実を北京に与えています。
北京は明らかに半島での戦争を望んでいません。
そのような紛争は地域を不安定にし、米国の影響下で統一された朝鮮半島が誕生する可能性があります。
トランプの予測不能なアプローチと金正恩と直接面談する彼の意欲は、ワシントンと平壌の間で距離を測ろうとする中国を脅かしました。
米国が北朝鮮政権を強制的に追放するという本当の可能性は、中国に金正恩との関係を強化することと彼の政府に本当の圧力をかけることの両方を決定させました。
しかし、2019年2月の最後の首脳会談は失敗でした。
この後、中国政府ははいつものやり方に戻りました。
バイデンの選択
北朝鮮に新たな進路を設定するために、バイデン政権はもう一度中国政府にバランスを崩させる必要があります。
中国が半島の将来への影響力を高め、国際的なイメージポイントを獲得すると同時に、米国の北朝鮮政策を打ち負かすという現状は、もはや受け入れられません。
米国は独自の戦略をとる必要があります。
それは、米国が北朝鮮からの脅威を減らすことと、同時に北京との競争で優位に立つ事を可能にします。
北朝鮮の非核化に対してより漸進的なアプローチをとる多国間外交は、この目的を達成することはできません。
中国の多くの人が、トランプによる同盟国の疎外は韓国や日本に核開発を促すリスクがあると考えていたので、北京は多国間アプローチを歓迎するでしょう。
ホワイトハウスは代わりに、北京を排除するか、少なくとも中国に居心地の良い居場所を与えない多国間外交を追求することを検討すべきです。
そのようなアプローチは、北京の善意に依存しない実用的な策略を求めるバイデンの顧問の多くの考えと一致するでしょう。
中国は、いかなる取引からも切り離されないよう、直ちに行動を起こすでしょう。
中国は、北朝鮮やロシアとの関係を強化するかもしれません。
その場合、中国の行動に応じてヨーロッパの同盟国と力を合わせることができます。
中国と北朝鮮の間の近い関係は、米国にとって有用であることが証明されるかもしれません。
北朝鮮はコロナウイルスの蔓延を防ぐために、2020年1月に国境を完全に閉鎖しました。
その結果、中国との貿易は81%減少しています。
この措置により、北朝鮮に対する中国の経済的影響力は失われました。
中国は今後、北朝鮮に対する新たなレバレッジの創出に取り組む可能性があり、それはバイデン政権につけこむ隙を与える事になるでしょう。
カート・キャンベルを含む一部のバイデン顧問は、より大胆なアプローチを提唱しています。
一つの可能性は、ワシントンがその焦点を非核化から軍備管理に移すことです。
このシナリオでは、米国は北朝鮮を事実上の核保有国として受け入れ、米軍のプレゼンスを強化し、地域の同盟国との軍事協力を強化するなど、北朝鮮に対する抑止力を強化するための措置を講じます。
この場合、中国は、この地域での米軍のプレゼンスが高まる事を防ぐため、体制を不安定にすることを犠牲にしても、北朝鮮の非核化を誘発するために必要な事をしなければならないかもしれません。
バイデンの北朝鮮への新しいアプローチは、中国に、完全な協力または明らかな妨害のいずれかの道を選ぶ事を強制しなければなりません。
その後、中国がどちらの方向に進むかに応じて、米国は北京を含めるか、除外するかを決定することができます。
しかし、はっきりしていることが1つあります。
それは、北京と今までのやり方で交渉を行うことは、非核化と中国との競争の両方で米国の利益を損なうことです。
相手の善意をあてにしない外交
いろいろ外交面でも失策の多かったトランプ氏ですが、その北朝鮮政策は中国を慌てさせたという意味で間違ってなかった様に思えます。
少なくとも北朝鮮を中国の砦から外に引き出す事には成功しました。
この論文が唱える様に、多国間アプローチで北朝鮮を手なずけようとしても上手くいかないでしょう。
ともかく交渉ごとは相手の善意をあてにしてはいけないと思います。
どうやったら相手が最も困るかを想定した上で、打つ手を考える必要があります。
米国の北朝鮮戦略から中国が排除された場合、中国がどの様な手にでるか見てみたいものです。
菅首相はこの問題にどの様に対応するでしょうか。
米国がこの地域で最も頼りにしているのは日本です。
日本にとっても、北朝鮮の核の脅威を取り除く事は喫緊の課題ですが、日本の支援なくして米国は北朝鮮問題を解決できません。
バイデン 大統領との交渉では、拉致問題も合わせて解決する様米国に迫ってほしいものです。
米国に対する協力の見返りとして、拉致問題の解決をリストに入れる事は理不尽な要求ではありません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。