宮廷内部から生じた政変
ヨルダンは人口一千万人に満たない中東の小国です。
しかし、この国はイスラエル、シリア、イラク、サウジアラビアの4カ国に囲まれているという点で、地域の安定には非常に重要な存在です。
イスラエルと国交を有している点もアラブ諸国の中でユニークな存在で、親欧米の王国として知られています。
石油資源に恵まれないこの国は、新型コロナで大きな経済的ダメージを受けました。
そんな中、先日王室の内部で政変が生じました。
元皇太子のハムザ王子やその側近らが政権転覆の容疑で拘束されたのです。
ハムザ王子は現国王に批判的であり、一部のヨルダン国民がそうした王子の批判を共有している様です。
この政変について英誌Economistが「A feud between prince and king is but one of Jordan’s problems - Oppression is no way to fix them」(皇太子と王の間の確執はヨルダンの問題の1つにすぎません- 弾圧は問題を解決できません)
Economist記事要約
その「退屈な王国」というニックネームにだまされてはいけません。
ヨルダンは、宮殿に陰謀の歴史があります。
蜂起と暗殺のリスクに晒された一生を生き延びた後、故フセイン国王は死の間際に彼の兄弟、ハッサンを王位継承の候補から外しました。
それは、国王に対して陰謀を企てたばかりのフセインの息子アブドラ(現国王)に道を譲りました。
今回陰謀を企てたと当局が主張する、以前は王位継承者であったハムザ王子は、首都アンマン郊外の宮殿に幽閉されました。
政府は陰謀の証拠を提供していません。
一方、ほんの数日前に流布されたビデオにより、ハムザ王子は次の様な政権批判を行いました。
「私は、過去15年から20年、統治構造に蔓延し、悪化している統治の崩壊、汚職の責任者ではありません」
アブドラ国王は長い間そのような反対意見を抑えようとしてきましたが、最近ではデモを禁止する言い訳として新型コロナを利用しています。
しかし、ハムザ王子や他の批評家が口をつぐむ事はありません。
彼らは多くのヨルダン人が感じる欲求不満を代弁しています。
国は国王が直面しなければならない大きな問題に直面しています。
それらすべての根底にあるのは、コロナ感染の前から低迷し、昨年5%縮小した経済です。
労働者の4分の1は失業しています。
ヨルダンは石油やガスが少なく、水も多くないため、地域の安定を重視するアメリカと湾岸諸国からの援助に依存しています。
しかし、それらの国々も問題に直面しているため、支援の一部が枯渇しています。
そして、支援の大部分は、ヨルダンに避難した60万人以上のシリア難民のために使われました。
ヨルダン人は湾岸諸国で仕事を見つけようとしますが、提供される仕事は少なくなっています。
ヨルダン経済にとって重要な外国からの送金は急減しています。
王国の改革計画は、教育の改善、肥大化した公共部門の削減、投資の促進について、重要なポイントを網羅しています。
しかし、ヨルダン人は、腐敗して無能であると見なされている指導者への信頼を失っています。
議会は、政治家がお金を集める場所です。
市民は、コネや賄賂に頼らなければ仕事や基本的なサービスを受けることはできないと言います。
パンデミックの前に、ヨルダン人の45%は、主に経済的な理由で国を離れることを考えていると述べました。
王は誰よりも上にいるかのように振る舞います。
先月、コロナ患者を治療していた公立病院で機能不全が発生し、7人が死亡した時、彼は保健大臣を解任し、汚職を糾弾しました。
しかし、アブドラ国王1999年に王位に就いた後、13人もの首相を交代させました。
彼は、厄介なイスラム主義者から厄介な組合まで、反対派を退けました。
選挙は、政府を批判する傾向のある人々に対して不公平に行われています。
王は腐敗したシステムの上に座り、ビジネスマンや部族の指導者(家族や友人は言うまでもなく)に彼らの支援の見返りに現金を分配します。
アブドラ国王自身が担当しているので、彼は変化の鍵です。
しかし、彼が権力の一部を放棄しない限り、変化は起こりそうにありません。
ヨルダンは、より国民を代表する議会を必要としています。
国王はグリップを緩めるのに苦労しています。
しかし、彼がハムザ王子のような内部からの批判に対応し始めなければ、彼はすぐにより敵対的な挑戦に直面するでしょう。
アラブの春の終焉
アラブの春は一時、中東諸国にも民主主義が定着するのではとの期待を生みましたが、その後急速にその動きは後退しました。
現在の中東を覆っているのは、強権主義の政府か国民議会も許さない旧態依然とした王国です。
この様な政府が長続きするのは政府が親米だからという理由で、腐敗した政府だろうが、独裁国家だろうがお構いなく支援してきた米国政府の姿勢に問題があると思われます。
このまま放置していれば、中東の多くの国は、腐敗した政府に不満を持つ国民に革命を起こされるか、失業者の多くを占める若者がイスラム国家の様なテロ組織に加入して、シリアの様な内戦状態になるかです。
米国はベトナム戦争で、いくら親米でも腐敗した政府は支援の価値がないことを学んだ筈です。
バイデン 政権は、前政権に比べれば、政権の腐敗には厳しいと聞いていますが、一方で「米国の中産階級にとって重要か否か」という物差しで外交政策を進めている様です。
中東など米国に関係がないと切り捨てるるのではなく、この問題にしっかり取り組んでもらいたいと思います。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。