税収を失った米国の呼びかけ
新しく米国の財務長官となったイエレン氏は、各国に最低法人税率の導入を呼びかけました。
最近、先進国の間で法人税率を下げる動きが活発化していました。
トランプ政権がその最たるものですが、イエレン財務長官はこの動きに反旗を翻した形です。
企業は税率に敏感です。
水が低きに流れる様に、企業も税率の低い国に拠点を移そうとします。
GAFAの様なデジタル企業は、どこで利益を上げているのか捕捉が難しいため、税率の低い国で納税し、高額課税を巧みに逃れている訳です。
EUなどでも問題になっている法人税の減税競争に関して、英誌Economistが「Joe Biden hopes to stop American multinationals booking huge profits abroad - Given their love of tax havens, reform could be valuable」(バイデン大統領は、米国の多国籍企業が海外で巨額の利益を計上するのを止めたいと考えている - 彼らがタックスヘイブンを利用している事を考えれば、改革は価値があるかもしれない)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
アメリカの財務長官であるジャネット・イエレンは、彼女が「底無しの競争」と呼んだものの終焉を求めて、世界の最低法人税率を提案しました。
彼女の提案に異議を唱えるのは難しいです。
Tax Foundationによると、世界の平均法人税率は、1980年の40%から2020年には24%に急落しました。
ケイマン諸島や英領バージン諸島などのタックスヘイブンは、特別な格安レートで多国籍企業を誘惑してきました。
1960年代には、アメリカの多国籍企業(石油会社を除く)が獲得した外国の利益の10%足らずが、これら低税率の地域で計上されていました。
2018年までに、その割合は50%を超えていました。
ある見積もりによると、アメリカの内国歳入庁(IRS)は、タックスヘイブンで利益が計上されているため、年間650億ドル(約7兆円)もの税収を失っています。
アメリカの税法はしばしばそのような租税回避を奨励しています。
たとえば、1990年代に、IRSは、IRSフォームのボックスにチェックマークを付けるだけで、企業が税務上の目的で海外子会社を分類する方法を自分で決定できるようになりました。
この「チェックボックス」ルールは、元々はお役所仕事を回避する事を目的としていましたが、今日、それは最も広く使用されている租税回避の抜け道の1つであり、米国企業が利益を高税国から低税国にシフトすることを可能にしています。
法人税率を1998年の32%から2003年には12.5%に引き下げたアイルランドで計上された米国企業の利益は、税引前外国利益の5%から15%に急上昇しました。
アメリカは現在、OECDの他のほとんどの国よりもGDPに占める法人税収の割合が少なくなっています。
バイデン大統領は、連邦法人税率を(国内利益の21%から28%に、海外利益の10.5%から21%)に上げる予定で、他の先進国にもに足並みを揃える様に要請しています。
しかし、企業が自由に行動できる現在の世界ではこれは困難かもしれません。
通常、企業は法的に拠点を置いている国で課税されます。
これにより、事業をより低い税率の場所に移すインセンティブが生まれます。
資産が主にデジタルであり、簡単に移動できるテクノロジー企業は、これを最大限に活用しています。
英国の税制改革グループであるFairTax Markのレポートによると、シリコンバレーの6大企業は2010年から2019年の間に、アメリカの税率を考えると予想されるよりも1,553億ドル(26兆円)少ない税金を支払ったと推定されており、その違いはタックスヘイブンの使用に起因しています。
最低法人税率が合意された場合、グローバルな最低税率は、企業が本社を置く国の法人税率と最低税率の差額を支払うことを義務付け、競争の場を平準化します。
しかし、この計画は他の国がそれに同意した場合にのみ機能します。
それは大きな「if」です。
今週、G20の財務大臣はこのアイデアへの支持を表明しました。
しかし、そのようなグローバルな税制を創設する提案は過去に行われ、崩壊するだけでした。
税率を低く抑えている現在の取り決めから利益を得る人々は、改革を潰そうとするかもしれません。
英国はどうする
この記事が掲載されたEconomistは英国の雑誌ですが、国際的な最低法人税率の導入に最も反対するのは英国ではないかと思います。
英国は実はタックスヘイブンの元締めです。
19世紀に植民地への投資を増やしたい英国政府は、植民地での税金を低く設定しました。
この政策により、英国企業は植民地に投資を活発に行いました。
これがタックスヘイブンの始まりです。そのうち、税率の低さに目をつけた多国籍企業などもタックスヘイブンに会社を設立し、投資を行う様になりました。
現在も、タックスヘイブンの多くは英国の領地か元英国領の島々です。
何故、英国は本島ではなく、海外の島々にタックスヘイブンを設けているのでしょう。
それはイギリス本国でタックスヘイブンを設けると、他国からの批判を浴びやすいからです。
海外の島々であれば「あそこは自治領なので、英国の責任外だ。」と弁解が可能なのです。
英国が今でも米国と並んで金融大国として君臨する理由は、このタックスヘイブンの存在が大きいと言われています。
良くニューヨークのウォール街とロンドンのシティが比較されますが、この二つには大きな違いがあります。
前者が扱うのは殆ど米国内の取引です。
一方シティが扱うのは殆どが国際取引であり、世界の外国為替の取扱量のなんと4割を英国が占めるそうです。
米国はその半分以下です。
本当の意味での国際金融の中心地はシティなのです。
世界第5位の経済規模しかない英国が、世界のマネーゲームの中心地として君臨できる理由の一つにタックスヘイブンがあるのは間違いありません。
ブレグジットの真の理由の一つは、EU内でのタックスヘイブンに対する風当たりが強くなった事も挙げられます。
今回の米国政府の要請に対して、英国は表向きは賛成するかもしれませんが、裏では抵抗するものと思われます。
英国人は簡単には折れません。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。