犠牲者が増加の一途を辿るミャンマー
ミャンマーの混乱は増すばかりです。
メディアが伝えるところによると、軍の武力による鎮圧により、市民の犠牲者は既に700名を突破した様です。
ミャンマーは長く軍政が続き、東南アジア諸国の中では、経済発展が遅れました。
しかし、民政に転換してからというもの、急速に経済が発展し、「東南アジア最後の楽園」と称される様になりました。
日本企業の進出も活発で、隣国のタイの様な発展を遂げるのでは無いかと期待されていました。
市民に銃を向ける軍の姿勢はとうてい許されるものではありませんが、市民の抵抗は功を奏するのでしょうか。
英誌Economistが現状に関して「Myanmar could be Asia’s next failed state」(ミャンマーはアジアの次の破綻国家になりうる)と題した記事を掲載しました。かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ミャンマーを統治する将軍たちが、選挙で選ばれた政府への道を開く憲法を作成したとき、彼らはその取り決めを「規律を生む民主主義」と呼びました。
彼らは、規律のない政治的競争は混乱を招き、開発を妨げるだろうと示唆し、 軍隊だけが秩序と繁栄を保証することができると宣言しました。
2月1日のクーデターで軍が再び国を完全に支配した後、生まれたのは混乱だけだというのは皮肉なことです。
軍が非武装のデモ隊を射殺し始めて以来、暴動は縮小していますが、連日抗議活動が行われています。
兵士たちは反抗的な地区を暴れ回り、手当たり次第殴打して殺害し、遺体を解放するために悲しみに暮れる家族に120,000チャット(85ドル)を請求していると伝えられています。
市民は軍隊に結びついた店を焼き払いました。
ゼネストは企業を麻痺させました。
公共サービスはほとんど停止しています。
国境地帯では、何十年にもわたって政府と何度も戦い続けてきた20ほどの武装グループの一部が、危機を利用して軍の前哨基地や武器の貯蔵庫を占領しています。
軍は彼らを爆撃し、難民を近隣諸国に送りました。
要するに、ミャンマーは破綻国家になりつつあります。
アジアの最大の大国である中国とインドに隣接するこのフランスよりも広い国で、真空状態が作り出されています。
それは暴力と苦しみで満たされるでしょう。
ミャンマーはまだアフガニスタンほど無法ではありませんが、急速にその方向に向かっています。
これは国を元に戻すのがいかに難しいかについての警告です。
ミャンマーの破綻は、5,400万のビルマ人にとっての災難であるだけではありません。
地域全体に波及するリスクも生み出します。
ミャンマーのゲリラが管理する密林はヘロインを生成し、メタンフェタミンの世界最大のサプライヤーです。
タイとの国境近くに位置する9つの難民キャンプは、軍とカレン民族解放軍(KNLA)などの少数派部族の武装勢力との間の戦闘の犠牲者で埋め尽くされています。
イスラム教徒の少数派である70万人以上のロヒンギャが、2017年に軍が統治するポグロムからバングラデシュに逃亡しました。
新しい輸出品は感染症です。
中国は先月、ミャンマーからの3人の訪問者がPCR検査で陽性を示した後、国境の町であるリウリを封鎖しました。
これらの問題は、更に悪化します。
軍隊は、抗議者をハッキングして攻撃し、服従させようとしています。
軍隊は頭と背中を撃たれる危険があると彼らに警告しました。
既知の死者数は700人を超えています。
4月9日、軍は地方都市バゴーで80人以上を銃撃しました。
抗議者たちは、その場しのぎの武器を使って反撃しています。
国境にいる反政府勢力の民兵に軍事訓練を求めている人もいます。
逮捕から逃れることができた国会議員のグループは、多くの民族民兵の一部を含む「連邦軍」の結成について話しています。
これらの中で最大のものは、対空ミサイル、大砲、装甲兵員輸送車を装備した2万人の兵士を集めることができます。
反政府勢力は、彼らが協調して行動したとしても、軍隊を倒してクーデターを逆転させる火力を持っていません。
しかし、KNLAは1949年以来軍隊と戦っており、軍は彼らを打ち負かすことができていません。
軍は最終的に、過半数の民族グループであるビルマ族が住む国の中心部においてその権威を主張することに成功する可能性があります。
しかし、国家の組織は壊れます。
徴税人、教師、医師の多くが仕事を辞めました。
銀行が再開するとき、彼らは運営に苦しむにちがいありません。
外国のドナーは援助を凍結し、外国企業は投資を停止しました。
クーデターの前に、世界銀行は経済が今年ほぼ6%成長すると予測していました。
今では10%縮小すると予想しています。他の人は20%の縮小を警告しています。
近隣諸国は警戒しています。
中国は、新型コロナを排除し、ベンガル湾からその内部に石油とガスを運ぶパイプラインなどの戦略的投資を保護したいと考えています。
インドは、戦闘からの難民の流れを警戒し、彼らを追い払おうとしています。
ミャンマーを含むアセアンの一部のメンバーは、混乱について話し合うために首脳会談を招集したいと考えています。
そこには遠くから干渉があります。
ロシアは、間違いなく西側に邪魔する機会と捉えて、軍部を支援し、国防副大臣を派遣して彼らを喜ばせました。
アメリカとイギリスは、軍の幹部と彼らが支配する会社に的を絞った制裁を課しましたが、そのような措置は、決定的なものではありません。
以前の軍事政権の時代に、西側の圧力は軍事政権にほとんど影響を与えませんでした。
将軍に影響を与えることができる唯一の部外者は、ミャンマーの近隣諸国である中国、インド、その他のアセアン諸国であり、西側に嫌われた場合、彼らはこれらの国に向きを変えます。
問題は、これらすべての国が介入を躊躇していることです。
難民やコロナウイルスについての懸念を反映するだけでなく、彼らは国内の政治問題として大混乱を敬遠したがる傾向があります。
それは近視眼的です。ミャンマーを騒乱に陥らせることは、麻薬、難民、不安定さで隣人を脅かします。
それを避けるために、それらの隣人は勇敢でより建設的なアプローチを採用すべきです。
どの国もクーデターを認めるべきではありません。
アセアンはミャンマーの加盟を停止すべきです。
武器禁輸が課されるべきです(中国、インド、ロシアが現在最大の供給国である)。
外国は軍に圧力をかけて、彼らが倒した指導者であるアウンサンスーチーを含む政治犯を釈放し、タイ国境近くで活動している彼女の影の政府と話し始めるべきです。
タイ政府は、お金と物資を手に入れるための非公式な経路を摘発すべきです。
協調した圧力だけが、将軍に民間人と話をさせ、それによってミャンマーを荒廃から救う事ができます。それができなければ、アジアの中心に破綻国家が生まれます。
ミャンマーの将来は
この記事が主張する通り、米国が課した軍のリーダーに対する制裁などは、全く効果がないと思われます。
最も効果があるのは国境を接した隣国からの圧力ですが、中国、インド、タイはいずれも今回の軍事クーデターを非難していません。
中国はともかく、インドやタイが何故ミャンマーの軍部政権に同調するのか不思議に思っておられる方も多いと思いますが、インドの現在のモディ政権はイスラム教に厳しい姿勢で知られており、ロヒンギャ(ミャンマー内部にいるイスラム系少数民族)へ弾圧を加えるミャンマー軍部と気脈を通じているものと思われます。
タイはプラユット首相自身2014年に軍事クーデターを起こして首相になった経緯あり、同首相とミャンマーの軍部トップとの関係が緊密です。
難民が押し寄せる事も危惧しているものと思われます。
米国に以前の様な世界の警察官を期待するわけにいかず、ここにもアフガニスタンやシリアの様な権力の空白が生まれる可能性が高いと思われます。
アジアでは、過去に軍事政権により人権が踏みにじられ、多くの人命が失われた例がいくつもあります。
カンボジアのクメール ルージュや北朝鮮もそうですが、ミャンマーがその様な悲劇の舞台にならない事を祈りたいと思います。