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台湾半導体企業の綱渡り- 米中対立の狭間で

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半導体産業の戦略的価値

日米首脳会談後の共同声明には、「台湾」が明記され、中国政府はこれを厳しく批判しました。

台湾をめぐる米中の摩擦は高まるばかりですが、台湾の価値を高めているものの中に、半導体産業があります。

中国は習近平主席の号令一下、半導体の自給自足を目指して大増産を行おうとしていますが、台湾にはTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)と呼ばれる最先端の半導体を生産する会社があります。

台湾を中国が武力で奪い返せば、世界に冠たるこの会社を自分のものにできる訳で、中国の武力侵攻の動機になるのではと見られています。

この会社について英誌Economistが「How TSMC has mastered the geopolitics of chipmaking」と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

半導体ビジネスで最も重要な会社は、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)です。

アメリカのアップルから中国のアリババまで、世界最大のテクノロジーブランドが、洗練された製品とサービスを可能にするために依存している最先端の半導体市場の84%を抑えています。

高速通信ネットワークとクラウドコンピューティングの拡大により、最先端チップの需要が急増する中、TSMCは最先端の優位性を拡大するために莫大な追加資金を注ぎ込んでいます。

これは成功したビジネスモデルであることが証明されています。

昨年、TSMCは480億ドルの売り上げで200億ドルの営業利益を上げました。

時価総額は5,640億ドル(61兆円、注:日本一のトヨタが27兆円)で、世界で11番目に価値のある企業です。

それはまた、中国が領土の一部であると主張し、アメリカが軍事的支援を提供している母国の運命を含む、2つの超大国間の高まる緊張を乗り越えようとする地政学的プレイヤーでもあります。

2020年には、TSMCの収益の62%が北米に本社を置く顧客からのものであり、17%が中国に拠点を置く顧客からのものでした。

それは、アメリカと中国の双方の技術的野心にとって不可欠なものである事により、地政学的な分裂を回避してきました。

 

TSMCは1987年に設立され、最初の四半世紀の間、ありふれた半導体を製造していました。

それは、iPhone用の強力な半導体を作る最初の契約を交わした2012年に変わりました。

Appleは、TSMCがその製造技術を可能な限り迅速に進歩させ、ライバルのスマホメーカーよりも優位に立つことを望んでいました。

秘密主義で有名なAppleは、TSMCの創設者であるMorris Changが企業秘密保護を会社の優先事項の1つにした方法を高く評価しました。

2年後、台湾の会社のチップは、史上最も売れたスマートフォンであるiPhone6に供給されました。

2億2千万個のスマホからの収益は、TSMCを急成長させました。

TSMCはかつて最先端技術を独占していたアメリカの巨人インテルを追い抜きました。

トップクラスの半導体で残っているライバルである韓国のSamsungも、ほとんど追いつくことができません。

ライバルとの差は広がっています。 TSMCは、前例のない速度で最先端の「ファブ」に現金を注ぎ込んでいます。

1月には、2021年の設備投資を2020年の170億ドルから250億ドルから280億ドルに引き上げると発表しました。

4月には、この数字を再び300億ドルに引き上げました。

今後3年間で1,000億ドル(11兆円)を費やす予定です。

今年の支出の80%は、高度なテクノロジーに費やされます。

 

また、価格の引き下げも停止しました。

調査会社であるICInsightsは、TSMCが最先端のプロセスを販売する場合、次に最先端のテクノロジーが取得するものと比較して、シリコンウェーハあたり2倍から3倍の価格を請求できると計算しています。

これにより、正のサイクルが作成されます。

誰よりも早く最新のテクノロジーを開発することで、TSMCはより高い価格を請求し、より多くの利益を得ることができます。

サイクルを継続するために次世代のテクノロジーに再投資されます。

そして、サイクルはこれまでになく速く回転しています。

4世代前のTSMCは、これらの最先端のチップが収益の20%を占めるまでに2年かかりました。

最新世代は、同じレベルに到達するのにわずか6か月しかかかりませんでした。

2012年までの10年間で年平均8%の成長率であった営業利益は、その後平均15%の成長率で上昇しています。

 

これはうらやましい立場です。

しかし、それは攻撃不可能な立場ではありません。

技術的な失敗のために過去2世代のチップで遅れをとっているインテルの経験は、最も経験のあるメーカーでさえつまずく可能性があることを示しています。

半導体ビジネスもまた、周期的であることで有名です。

ブームは生産超過につながり、価格暴落を引き起こします。

在宅勤務やエンターテイメントを可能にする電子機器の購入を前倒しして、パンデミックから豊かな世界が出現していますが、今後、需給が緩むと、TSMCの収益は悪化するでしょう。

彼らは、130億ドルの現金を保有していますが、これは、大手ハイテク企業の基準によると、比較的控えめな雨の日のための手元資金です。

 

TSMCにとって最も深刻な危険は、米中関係から来ています。

最先端の会社は、地政学的混乱の真っ只中にありあす。

半導体業界の内部関係者によると、台湾政府は、TSMCを含むすべての国内台湾メーカーに、外国の干渉から自国を守るために、国内で最先端の生産を維持することを奨励しています。

台湾の委託製造業者は、世界の半導体販売の3分の2を占めています。

これを反映して、TSMCの570億ドル相当の長期資産の97%が台湾にあります。

これには、最先端の工場がすべて含まれます。

56,800人のスタッフの約90%は、その半分が博士号または修士号を持っており、台湾を拠点としています。

同社はアメリカと中国にもっと投資することを申し出ました。

しかし、これを外交上の駆け引きと見なされるべきでしょう。

2018年に開設された南京の中国工場は、最先端から2、3世代遅れた半導体を生産しています。

南京の製品よりも高度に設計された最初のアメリカの工場が2024年に稼働するまでに、TSMCは台湾でさらに洗練された製品を生み出します。

開示された投資計画に基づく私たちの見積もりによると、TSMCの工場と関連機器の正味価値は2025年までに約2倍になりますが、86%は依然として台湾にあります。

 

過去3年間の間に、アメリカ政府は微妙なバランスを崩し始めました。

中国のHuaweiの為に、外国企業がアメリカのツールを使用して半導体を製造することを禁止しました。

これは2019年にHuawei向けに最も多く販売したTSMCにも適用されました。

しかし、TSMCが中国とビジネスを行うことを阻止しようとするアメリカの試みは、台湾を強制的に取り戻そうとする中国政府による干渉を招く可能性があります。

バイデン政権はまた、国内でチップ製造を復活させる500億ドルの政府計画を発表しました。

補助金がインテルの優位性を回復するかどうかは疑わしいですが、この国内メーカーへの補助は、TSMCに米国で最先端の生産を行う様圧力をかけるでしょう。

同社はこれに抵抗してきました。

 

ライバル勢力はこれまでTSMCに直接干渉することを控えていますが。TSMCの重要性が高まり続ける場合、そのうちの1人は、それを放っておくのはまずいと判断する可能性があります。

喉から手がでるほど欲しい技術資産

480億ドルの売り上げで200億ドルの収益とは凄まじい利益率ですね。

しかし、彼らがトップの位置を維持できるのは、稼いだ利益のほとんどを再投資するからです。

半導体ビジネスはリスクと隣り合わせで、サラリーマン社長の日本企業がこの分野から滑り落ちたのは、TSMCやサムスンの様なオーナー企業と違い、思い切った投資判断ができなかったからだと思います。

今後、TSMCは米中の緊張が高まる中、今まで以上に難しい経営判断を求められると思います。

両国から制裁を受けない様に、双方に甘い顔をする必要がありますが、これからもそれが許されるかどうかわかりません。

それにしても上記記事の最後の一文気になりますね。

インテルがひょっとするとTSMCを買うという事でしょうか。

これはこれで中国が許さないのではと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。