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中国人監督作品のアカデミー賞受賞を素直に喜ばない中国

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アカデミー賞を総なめにした中国人監督作品

今年のアカデミー賞は中国人監督クロエ・ジャオがメガホンをとった「ノマドランド」が作品賞、監督賞、主演女優賞と主な賞を総なめしました。

昨年は韓国作品が作品賞をとりましたので、アジア系監督の作品が2年連続で作品賞に輝いた事になります。

米中の対立が激化する中、してやったりとばかり中国では今回の受賞を大喜びしているのかと思いきや、現実はかなり異なっている様です。

複雑な内情を英誌Economistが「China blocks mention of Oscar-winner Chloe Zhao」(中国はアカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオのコメントを削除した)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

クロエ・ジャオが2月にゴールデングローブ賞で彼女の映画「ノマドランド」の最優秀監督賞を受賞した時、彼女の生まれた国である中国の映画ファンは盛り上がりました。

国営メディアは、彼女が中国の誇りであると宣言しました。

「おめでとうございます」と、ソーシャルメディアで「CrouchingTiger、HiddenDragon」のスターであるZhangZiyiが祝福し「アカデミー賞を楽しみにしています。」 とのべました。

しかし、2か月後、ジャオ女史がアカデミー監督賞を受賞した最初の有色女性となり、「ノマドランド」が最優秀作品賞を受賞した時、中国で彼女の名前はどこにも見当たりませんでした。

 

何が起こったのでしょう?

それは、ますます盛んになっているナショナリストの反発が原因です。

チャオさんがゴールデングローブ賞を受賞した直後、インターネットユーザーは2013年に彼女が行ったコメント「中国はどこにでも嘘がある場所だ」を掘り起こしました。

これに 検閲官は直ちに反応し、中国のインターネットから彼女についての言及を削除しました。

 

ナショナリストのあら探しは、彼らが中国を批判していると見なす発言にずっと不寛容でした。

政府は現在、これらナショナリストの攻撃を支援しています。

おそらく、そうしない場合弱腰に見えることを恐れているのでしょう。

当局は中国での「ノマドランド」の上映をキャンセルしました。

 

ジャオさんはこのように扱われた最初の人ではありません。

昨年6月、中国の歴代最高得点を記録したサッカー選手で、現在海外に住んでいる郝海東は、共産党の支配が「人道に対する罪の恐ろしい残虐行為を引き起こした」と述べました。

中国のウェブサイトから彼の名前をすぐに削除されました。

2020年、武漢のロックダウンの最中、ずっと日記をつけていた作家のファングさんは、全国で数千万人の人々に読まれました。

しかし、アメリカの出版社が彼女の日記を英語に翻訳していることが発表されると、彼女は愛国心がないとレッテルを貼られ、ネット上で猛攻撃に直面しました。

彼女の執筆は、中国の出版社やメディアによって敬遠されてきました。

「これはあら探し屋の勝利です」とファングさんの作品を翻訳したマイケル・ベリーは言います。

「これらの攻撃は、実際の政治的決定につながる可能性があります。」

 

中国はまた、より大きな目標を持っています。

それは自国の映画を促進し、アメリカの文化的支配を弱めることです。

ニューヨーク市立大学のYing Zhu氏は、ハリウッドから評価を求める時代は終わったかもしれないと述べています。

アメリカとの関係がますます不安定になる中で、共産党は国際的な賞にあまり執着しなくなりました。

今年の中国の売上上位10本の映画のうち9本は中国製でした。

中国の新聞は「アカデミー賞は、依然として西洋の嗜好と基準によって決定されており、中国は独自の映画祭を行うべきだ」と述べました。

そういった動きは既に始まっているかもしれません。

2019年、中国は、ある受賞者が台湾の独立を求めた為に、主要な中国語の映画祭であった台湾でのゴールデンホース賞への本土の映画製作者の参加を禁止しました。

中国政府は同じ夜にゴールデンルースター賞を企画し、映画製作者に選択を強いました。

 

ジャオ氏に対する党の扱いは、国がそのソフトパワーを促進する機会を逃しました。

アメリカと中国の関係が悪化するにつれ、ジャオさんのようなバイカルチュラルでバイリンガルのアーティストが重要な架け橋となる可能性があります。

アカデミー賞授賞式のスピーチで、彼女は子供の頃に父親と一緒に中国の詩を暗記したことを懐かしく話し、漢文の有名な一節を引用するために北京語に切り替えました。

 

しかし、当局には、ジャン イムーやチェン・カイコーなどの「第5世代」の映画監督を含む中国の芸術家を検閲してきた長い歴史があります。

ジャン氏の最新映画「ワンセカンド」は、「技術的な理由」により、2019年のベルリン国際映画祭から土壇場で撤回されました。

 

最後は、すべての良い映画と同様に、大団円で終わるかもしれません。

アカデミー賞授賞の後、国家主義的な新聞である環球時報は、ジャオさんが中国にルーツを持つことを誇りに思っている点を称賛し、「仲介役」になる可能性があると述べた英語の解説を発表しました。

ジャオさんの次の映画は、スーパーヒーロー映画「エターナルズ」です。

そのプロデューサーは、この映画が現在世界最大の市場である中国でもうまくいくことを望んでいるでしょう。

しかし、ジャオさんが中国人であるという事実は、彼女の魅力の一部かもしれませんが、今は逆に弱みの様に見えます。

ナショナリストの扇動

これはなかなか面白い展開ですね。

ジャオ監督のアカデミー賞受賞を当初は国営メディアは中国人の快挙と称賛していたのですが、ナショナリストが中国に批判的な同監督のコメントをネット上で広めた後は、彼女に関する報道がネット上から削除されてしまった様です。

自国のナショナリストに弱い中国政府の特殊な体質が浮き彫りになっています。

ナショナリズムというのは、困った概念で中国に限らず、排他主義と深く結びついている事が多いです。

政治家によってこの概念は悪用される事が多く、中国にはこの概念を使って、世論を操り、自分に有利な体制を築き上げている組織が存在するのだと思います。

ジャオさんの様なバイカルチャの人間は米中緊張が高まる中、仲介役として非常に貴重な存在だと思います。

彼女が両国の緊張を和らげてくれることを期待します。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。