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国際問題における注目すべき小国の役割

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既存国際機関が直面する問題

現在、国際的な枠組みは行き詰まっています。

ミャンマーの問題ひとつとってみても、国連の安全保障理事会では中国の拒否権にあい、東南アジア諸国の枠組みであるASEANも全会一致原則の前に効果的な処方箋を示せません。

大国間の対立が深まる中、国際問題に効果的な解決法を見出す事は不可能なのでしょうか。

この点について、米誌Fpreign Affairsが「The Case for Microlateralism With U.S. Support, Small States Can Ably Lead Global Efforts」(小国主導主義の事例 - 米国の支援があれば、小国は世界的な取り組みを主導することが可能である)と題した論文を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要約

トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」の政策とは対照的に、バイデン政権は、多国間主義を積極的に受け入れてきました。

新しいチームは最初の数週間で、前任者のアプローチのいくつかを変更しました。

パリの気候協定に再び参加し、米国の世界保健機関(WHO)からの撤退を停止し、国連人権理事会に再び関与しました。

そして条件付きですが、イランの核合意に再びコミットします—そしてバイデンと彼の閣僚は同盟と国際協力の重要性についてしばしば語ります。

 

これらはすべて基本的に良いことです。

米国政府の観点からは、共通の課題を解決するために他国と協力することは、多くの場合、単独で行うよりも正当性が高く、コストが低いことを意味します。

しかし、すべての多国間主義が有効であるわけではありません。

新たな大国競争の時代において、国連安全保障理事会G20などでは、メンバーが幅広い関心を共有している場合でも、しばしば行き詰まっています。

中国の影響力は、WHOなどの主要な国際機関の有効性を損ない、環太平洋パートナーシップ協定などの多国間貿易協定は、国内の政治的支援を欠いています。

 

国際的な行動を調整するための効果的なメカニズムの欠如は、明らかに新政権の新しい提案に問題点を生み出しました。

たとえば、「技術民主主義国家」を統合するT-12主要な民主的権力を結集するD-10

米国、日本、インド、オーストラリアとの対話に韓国または東南アジア諸国を含む「クワッドプラス」。世界的な行動を活性化させる気候サミットなどです。

今後、米国政府は、小国が多国間主導権を握る可能性に特別な注意を払うべきです。

多くの場合、小国は、新しいプログラムを試験的に実施する事に向いており、厄介な問題について正直な仲介者を演じるのに適した立場にあります。

この小国のリーダーシップと大国の参加の組み合わせ(「小国主導主義」と呼ばれる)は、米国の国際的取り組みの重要な手段として浮上するはずです。


小国主導主義は、過去に効果的であることが証明されてきました。

特に、根強い紛争の場合はなおさらです。

たとえば、1990年代に、ノルウェーはイスラエルとパレスチナ解放機構の間の秘密交渉を仲介し、最終的には米国が支援するオスロ合意を生み出しました。

1999年、トーゴは和平プロセスを主導し、米国の支援を受けて、シエラレオネの内戦を終結させました。

2008年、カタールは、フランス、サウジアラビア、イラン、米国の支援を受けて、レバノンでの18か月間の政治危機を終わらせ、ドーハ協定を締結するために敵対するレバノンの複数の派閥を召集しました。

 

小国はまた、大国からの財政的およびその他のリソースの動員に成功し、重要なコミットメントを確保しました。

2015年以降、ヨルダン主導のアカバプロセスは、情報を共有し、テロ対策の取り組みを調整するために、より大きな国を結集させました。

2019年の恐ろしいクライストチャーチでのモスクへの襲撃の後、ニュージーランドのアーダーン首相は、フランスのマクロン大統領と協力して、政府やイ​​ンターネット企業を招集し、オンラインでテロリストや暴力的な過激主義者のコンテンツを排除する取り組みであるクライストチャーチコールを纏めました。

2020年3月、オーストリアはFirst Movers Groupの結成を主導し、オーストラリア、ギリシャ、イスラエル、シンガポールなどの国々が新型コロナの対応について話し合う場を作りました。

そして2020年11月、フィンランドはアフガニスタン会議を共催し、困窮した国のために33億ドルの開発支援を集めました。

 

小さな国が主導するが、はるかに大きな国を含むそのような集団的努力は、多くの場合、永続的な多国間組織よりも柔軟性があります。

スカンジナビア諸国の紛争調停の長い歴史や過激派グループとの取引経験など、小国の特定の強みを利用することで、深い専門知識と、より大規模で影響力のある国のリソースを組み合わせた建設的な分業が可能になります。

小さな国々によるリーダーシップは、多国間努力を、互いに競争関係にある大国にとってより口に合うものにすることができます。

このような取り組みは、最善の場合、無期限の幅広い義務ではなく、明確に定義された期限付きの目標(特定の目的のための資金調達、特定の問題に関する原則の合意、特定の危機の解決)で開始されます。


前述の小国主導主義の過去の成功を考えると、ワシントンが彼らを奨励する上でより積極的な役割を果たす時が来ました。

これには、特定の小国が指導的役割を担うことを奨励し、その努力に対する米国の支援を約束することが含まれます。

それはまた、常にリーダーを演じたいという衝動に抵抗し、それでも米国が参加するであろう多国間努力を主導するよう他の人々に促すことを意味します。

 

最初の課題はデジタル経済から始まるかもしれません。

たとえば、エストニアの人口はわずか130万人で、敵対的なロシアと国境を接していますが、政府デジタルサービスに関する調査では、日本、シンガポール、米国よりも上位にランクされています。

メキシコ、フィンランド、日本などの大国は、エストニアのオープンソースバックボーンX-Roadを使用して自国のデジタル行政サービスを改善しています。

エストニア主導のマイクロラテラルフォーラムは、多くの国がデジタルシステムを介して政府サービスと医療の効率と提供を改善するのに役立つ可能性があります。

確かに、2020年6月にシンガポール、チリ、ニュージーランドが署名したデジタル経済パートナーシップ協定を含め、小国がデジタル問題を主導することを可能にする国際的な枠組みが昨年に前面に出てきました。

エンドツーエンドのデジタル取引、国境を越えた金融サービスのデータフローへの信頼の構築、人工知能の倫理基準の確立などがカバーされています。

 

小国主導主義を批判する人々は、2020年9月にグテーレス国連事務総長が安全保障理事会に提出したように、「体系的で予見可能な世界的リスクに対する臨時の解決策」は、グローバルガバナンスとより広範な多国間努力を損なう可能性があると警告しています。

しかし、革新的なリーダーシップの下で、各国が国際的な課題に対処できるより多くの手段を開発することは、最終的には、既存の多国間構造を弱体化させる方法ではなく、補完手段として役立つ可能性があります。

 

フランスの著名な政治学者トックビルは、アメリカの市民社会の事を、「共同体の芸術」を称賛しました。

これは、米国の市民が並外れた活力を持っている事を示しています。

「どこでも、新しい事業の先頭に立つと、フランスでは政府が、イギリスでは偉大な領主が見えてきます」と彼は書いています。

バイデン政権は、この一般的な真実を国際問題に適用し、米国だけよりもうまく課題に取り組む国々の集まりを構築することに熱心であるように思われます。

国際的集合体には、多くのやり方があります。

しかし、小国が主導するものを含む、ニッチで期限付きの多国間努力に焦点を当てることは、想像以上にプラスの効果をもたらす可能性があります

小粒でもピリリと辛い小国の価値

アメリカファーストと小国主導主義は正に対極に位置する考え方だと思います。

大国のエゴは米国だけの専売特許ではありません。

中国やロシアも同じです。

中国が中央アジアの国々と共に設立した「上海条約機構」という国際的な枠組みがありますが、これなど名前からして中国が中央アジアを取り込もうという野心が明らかです。

小国は大国が覇権を及ぼしてくるのではないかといつも警戒しています。

衣の下から鎧が見えるやり方は、あまりスマートではありません。

この論文が唱える様に、問題が難しければ難しいほど信頼できる小国に主導権を与えた方がうまくいく様に思われます。

その良い例はスカンジナビア諸国が主導した国際的合意です。

オスロ合意はその代表例ですが、国際的にも信頼され、民主主義が確立した北欧諸国は小国主導主義の時代の中心的存在になるものと期待されます。

ネットフリックスで評判の高い「コペンハーゲン(原題:Vorgen)」はデンマークの女性首相を主人公にしたドラマですが、この中にもアフリカ諸国の和平に女性首相が乗り出す場面が出てきます。

なぜ北欧の小国がアフリカや中東に関心を寄せるのでしょうか。

おそらく古くから海洋国家であった彼らは海外の情勢に関心が高いものと思います。

バイキングは海賊と訳されていますが、実際は国際的な商人であり、商人にとって政治的安定は不可欠なものです。

日本は小国とは言えませんので、小国主導主義のリーダーにはなれないとは思いますが、北欧諸国の様な国々と協力して、国際問題の解決に取り組むという方法はあると思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。