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新燃料(e-fuel)に賭ける自動車・エネルギー業界のお家の事情

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脱炭素化に大きく舵を切ったバイデン政権

世の中は一気に脱炭素化に向けて走り出した様です。

バイデン大統領の打ち出したグリーンディールはターニングポイントとなりました。

今後、化石燃料を燃やして走る車の比率はこれから急減すると予測する向きもあります。

本当に内燃機関で走る車は無くなるのでしょうか。

大手自動車メーカーは、これまで膨大な時間をかけて、内燃機関の技術を磨き上げてきました。

そして内燃機関の開発には巨額の費用と技術の蓄積が必要なため、これが新規参入者の参入障壁となり、大手メーカーは既得権益を享受していたわけです。

そんな自動車メーカーが簡単に内燃機関をご用済みにできる訳がありません。

そんな彼らにとって希望の星と言っても良いクリーン燃料が現れました。

それはe-fuel」と呼ばれる液体燃料です。

この燃料に関して、米誌ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Can E-Fuels Save the Combustion Engine?」(新燃料e-fuelは内燃機関を救えるか)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

未だ、内燃機関は死んでいないのかもしれません。

合成燃料は、従来型のエンジンを根本的に変更する事なく、ジェット機から船舶、自動車に至るまでの産業をより環境に優しいものにする方法として、ますます関心を集めています。

 

「e-fuel」と呼ばれる合成燃料は、再生可能エネルギーで生成した水素と産業プロセスから捕捉された二酸化炭素を混合して、ガソリン、ディーゼル、灯油などの実質的にカーボンニュートラルな燃料として知られています。

一部の航空会社、貨物輸送業者、石油会社は、e-fuelを生産するためのパイロットプロジェクトをすでに進行中であるか、e-fuelと従来の燃料の混合物を実験しています。

自動車メーカーもこの技術に投資しており、e-fuelは、電気自動車やハイブリッド車と並んで、よりクリーンな交通手段として、今までの乗用車が走り続ける可能性があるとの見方もあります。

 

コストのハードル

e-fuelの基盤となるテクノロジーは新しいものではありません。

ほぼ1世紀前、ドイツの科学者フランツ フィッシャーとハンス トロプシュは、一酸化炭素と水素を混合して合成石油を生成する、フィッシャートロプシュ合成として知られる方法を発明しました。

推進派によると、合成燃料には多くの利点があります。

密度と品質が類似している従来の燃料とブレンドする事も、既存のパイプライン、ガソリンスタンド、エンジンなどを変更せずに完全に置き換えることもできます。

また、簡単に輸送して長期間保管することもできます。

 

ただし、コストは依然として大きなハードルです。

再生可能エネルギーの価格が過去最低を記録するまで下落し、世界中の政府や企業がe-fuelの製造に必要な要素であるグリーン水素および炭素回収技術への投資を増やしているため、e-fuelは見直されています。

しかし、e-Fuel Allianceの業界団体によると、開発の初期段階では、e-fuelは、税引き前で従来の燃料の4〜6倍の費用がかかります。

 

多くの人が、e-fuelの将来は、政府が温室効果ガス排出に対する税金を採用するか増やすかによって決まる可能性があると言います。

これにより、従来の燃料はより高価になり、政府の資金と補助金を通じてグリーン水素の生産を促進します。

もしそうなれば、石油・ガス会社は、e-fuelを作るのに十分なCO2を 回収できるはずです。

化石燃料は2050年でも世界のエネルギーミックスの大部分を占めると予想されており、炭素回収技術を構築することにより、大手石油会社は気候変動への対応の呼びかけに応えながら化石燃料を生産し続けることができます。

米国の石油とガスの巨人であるExxonMobil Corp.も、e-fuelの将来性を評価しています。

石油大手は今年、自動車用のe-fuelをテストするためにポルシェと協力し始めました。

「E-fuelには大きな可能性があります」と、Exxon Mobil Fuelsの責任者は述べています。 「

炭素回収技術が成熟するにつれて、それらを結び付けることができます。

 

船と飛行機

短期的には、航空および海運会社は、完全に電化するのが難しいため、合成燃料の購入者になる可能性が最も高いと見られています。

推進派によると、e-fuelはエネルギー密度が高いため、貨物を長距離輸送する大型トラックにとっても優れた脱炭素ソリューションになる可能性があります。

1月、KLMオランダ航空は、アムステルダムからマドリードへの商用飛行に世界初の合成燃料を搭載しました。

航空機は、ロイヤルダッチシェルPLCによって製造された500リットルの合成燃料と混合された通常の燃料を使用しました。

エアバスSEも、2035年までに就航する可能性のある世界初のゼロエミッション商用航空機の開発を目指して合成燃料を検討しています。

一方、海運大手のAP Moller Maersk A / Sは、e-メタノールとe-アンモニアを将来の船隊に電力を供給する有望な方法と見なしており、顧客は排出量削減を目指してグリーン海運にもっとお金を払う用意があると述べています。

 

どれくらい環境に優しいのか?

一部の自動車メーカーはEV(電気自動車)やハイブリッド技術に加え、新たな環境対策としてe-fuelに熱い視線を向けるています。

ポルシェは昨年、風力発電が盛んなチリ南部で合成燃料工場を建設する計画を発表。まず自社のレーシングカーで試験した後、スポーツカー「911」シリーズなどに導入するという。

同社は政府の課税措置や助成金次第では、e-fuelと化石燃料の大幅なコスト差が今後5年間で縮まる可能性があるとみています。

炭素税が導入されれば、化石燃料のコストが上昇し、再生可能エネルギーの普及が加速するはずです

一方、e-fuel車がEVほど環境に優しくない理由の1つは、電気を用いて液体やガス状の燃料に変換する過程で大量のエネルギーが失われるためだと批判家は指摘します。

さらに、低炭素のe-fuel生産には再生可能エネルギーが不可欠なため、e-fuelの大規模生産を実現するには、再生可能エネルギーの生産量を格段に増やす必要がある。

今のところe-fuelの生産能力は極めて限定的です。

産業界の政府への圧力と大国間の競争

世界はEV(電気自動車)推進派と内燃機関を維持したいe-fuel派の二つに別れて、激しく対立している様です。

後者には日本企業を含めた多くの自動車メーカーとe-fuelの生産に関与したい石油ガス業界が強力な圧力団体として加わっています。

ガソリンや軽油を販売していたオイルメジャーは、電気自動車が主流になれば、これまで巨額の資金を投じてきた製油所やガソリンスタンドなどが無用の長物と化してしまいます。

彼らが座して死を待つ訳がありません。

今後注目すべきは炭素税の導入など政府の課税措置や助成金だと思います。

おそらく自動車メーカーやオイルメジャーは現在各国政府に猛烈なロビー活動を行って、電気自動車を阻止しようとしていると思います。

e-fuelもそういう文脈で評価する必要があると思います。

今年英国グラスゴーで行われる環境国際会議COPでは各国の主導権争いをめぐる熱い論戦が展開される事は必至です。

もちろん世界最大の自動車市場である中国がいかなる産業戦略を取るかも極めて重要です。

最後まで読んで頂き、有り難うございました。