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RNAの非医療用途への適用 -農薬の開発も

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メッセンジャーRNA(mRNA)は今回の新型コロナ騒動の中で、まさに救世主と言える存在でした。

この技術がなければ、ワクチンの開発はかなり遅れ、犠牲者は急拡大し、経済回復は相当先に延びていた事でしょう。

このmRNAの技術は、もともとドイツのBionTech社などでは、癌の特効薬の開発に利用が検討されていたものです。

従って、将来他の疾患にも応用される事が期待できます。

そんな中、mRNAは医学目的だけではなく、害虫の駆除にも利用できる可能性があるとの記事が英誌Economistに掲載されました。RNA, good for vaccines, can also be used as a pesticide(ワクチンに適したRNAは農薬としても使用可能)と題された記事かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

かつては生物学界の外ではあまり知られていなかったリボ核酸は、最近、脚光を浴びています。

その理由は、新型コロナワクチンにおける役割です。

そこで使われるRNA分子は、コロナウイルスタンパク質であるスパイクをコードしています。

したがって、体細胞のタンパク質生成機構がそのようなRNAに遭遇すると、スパイクが生成されます。

これにより、ワクチン接種者の免疫システムは、本物が現れる前に敵の重要な部分を認識できる様になります。

しかし、タンパク質の製造を手伝うことは、RNAの唯一の仕事ではありません。

それは特定のタンパク質の製造を促進するのではなく妨害する、RNA干渉(RNAI)と呼ばれる機能を持っています。

既に、 4つの遺伝病に対する使用が承認されており、他の12以上の治療について調査中です。

一部の生物学者は、RNAIは、標的を正確に捉えられる、環境に優しい農薬として、重要な非医療用途もあると考えています。

 

理論は単純です。

害虫の生存に不可欠なタンパク質を特定します。

そのタンパク質の生成を妨害する様、RNA分子を調整します。

そして害虫の体にそれを届けます。後は、害虫がが死ぬのを待つだけです。

もちろん、実際はもっと複雑です。

害虫にそれを届ける方法を開発し、規制の障壁を乗り越えなければなりません。

しかし最近まで、最大の障害はコストでした。

救命薬は高価でも受け入れられる可能性があります。しかし農薬は安くなければなりません。

しかし、医療用RNA作業は、材料の製造コストを下げることに役立ちました。

RNAIベースの農薬を開発しているカンザス州の会社であるrnaissanceAgの社長は次のように述べています。 2014年までにそれは1グラムあたり100ドルでした。今では1グラム1ドルです。」

 

潜在的な受益者のリストのトップはミツバチです。

この昆虫は、蜂蜜を生産するだけでなく、花粉交配者としても重要ですが、直径数ミクロンのダニであるバロアダニに悩まされています。

バロアダニはミツバチに付着し、ミツバチを食べて生きます。

これにより、ホストが弱体化または死亡し、ミツバチの周囲にウイルスが拡散されます。

養蜂家は、バロアダニを攻撃するためのあらゆる種類の方法を試しましたが、この問題の解決に成功したものはありません。


ボストンの会社であるGreenLight Biosciencesは、この問題を解決したいと考え。ドイツの製薬企業であるバイエルから、RNAIに基づく実験的なバロアダニ農薬の権利を購入しました。 

同社のジョージア州での野外試験では、バロアダニを破壊するRNAIをミツバチ自身に与えるべく、働き蜂が蜂蜜を作る砂糖水に混ぜています。

RNAの生産コストを下げ、より多くのRNAを使用できるようにすることでより多くのRNAをダニに届けることができると考えています。

GreenLightが標的とする害虫はバロアダニだけではありません。

じゃがいもに寄生するコロラドハムシもその対象です。

RNAはそれが出没した畑に噴霧され、コロラドハムシはそれをむさぼり食います。

同社は他にも13の害虫に関して調査中であると述べています。

また、RNAIアプローチは昆虫に対する攻撃に限定されていません。

原則として、いかなる生物も対象になりえます。

したがって、GreenLightのターゲットリストには、ボトリチス、フザリウム、うどんこ病などの作物に害を及ぼす真菌も含まれています。



しかし、RNAを作物に噴霧することは、害虫にRNAを届ける唯一の方法ではありません。

バイエルはミツバチに関する農薬の開発を放棄しましたが、コーンルートワームと呼ばれるカブトムシの幼虫を殺すRNAを生産する遺伝子組み換えトウモロコシを開発しています。

ただし、RNAの噴霧には利点があります。

農家は、遺伝子組み換え作物を採用する必要がなく、既存の作物に使用できます。

規制は、遺伝子組み換え作物よりも緩いです。

そして、多くの場所で遺伝子組換え作物が禁止されているヨーロッパでは、政府はRNAベースの農薬を受け入れているようです。

 

GreenLightと協力している、ドイツの昆虫学者であるAndreas Vilcinskasは、ドイツ政府が現在彼らの開発を支援していると述べています。

それには正当な理由があります。

2018年、EUは、人気のある農薬である3種類のネオニコチノイドの屋外での使用を禁止しました。それ以来、アブラムシが山火事のように広がった為、ドイツ、フランス、ポーランドは緊急にこの禁止を撤回しなければなりませんでした。

皮肉なことに、ネオニコチノイドはアブラムシだけでなくミツバチも殺してしまう為、禁止されました。

したがって、RNAを農薬として採用することは、一石二鳥かも知れません。

どこまで行くかRNAの将来

RNAは特定のタンパク質を合成させるだけでなく、その生成を阻止する事も可能とは知りませんでした。

ピンポイントで害虫を駆除できる農薬、実用化されれば素晴らしいと思います。

遺伝子組み換えに比べれば、安全な様に思えます。

しかし、RNA干渉にも一抹の不安があります。

RNA干渉には害虫の生存に不可欠なタンパク質の生成を阻害する役割がある様ですが、これが悪用されるのではと心配になります。

また人間に対して悪い影響が出ないかについても懸念があり、副反応については十分検査の上、慎重な判断が下される事を期待します。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。