中東から撤退する米国に必要なイランとの核合意
バイデン政権はイランとの核合意への復帰を目指しています。
最近メディアにはあまり取り上げられませんが、米国とイランの交渉は水面下で行われている様で、その主な舞台はウィーンの様です。
米国がイランとの核合意を目指す主な理由は何でしょうか。
それはイランが中東を不安定にする最大の震源地だと考えているからだと思います。
米国はアフガニスタンから撤兵し、兵力を中東から今後の主戦場であるアジアに集中させようとしています。
しかし中東がテロ組織の巣窟に再びなる可能性があり、後顧の憂いを断ち切るためにも、中東の大国イランと何らかの取引を行う必要性を感じているものと思います。
そんなイランと米国の交渉に関して、米誌Foreign Affairsが「Iran Needs the Nuclear Deal to Keep Russia and China at Bay」イランはロシアと中国を寄せ付けないために核合意を必要としている)と題した論文を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Foreign Affairs論文要約
米国は2018年5月に2015年のイラン核合意から一方的に撤退し、トランプ政権は、制裁を強化し始めました。
しかし、イランはその協定を無効にしませんでした。
むしろ、イランは、米国政府に対して直接に、そして他の署名国を通じて間接的に、取引に回帰するよう圧力を高めてきました。
なぜイラン政府は依然として核取引に応じようとしているのでしょうか?
それは、長期的には、イランは戦術的にほとんど譲歩する事なく、経済的および地政学的に多くの利益を得る立場にあるからです。
イランは、「2015年の核合意」に回帰し、「一言一句実施する」ことを要求しました。
しかし実際には、かなりの柔軟性を示しています。
イランの国会議員は、最高指導者のハメネイ氏から指示を受けて、ウィーンでの交渉が「新しく拘束力のある合意」をもたらすことを示唆しました。
両国の政権交代を乗り切るためのより強固な合意に達する外交の扉が開かれています。
テヘランの計算
イランの核合意は、イランの核の野心をなくすために設計された軍備管理協定でした。
その条件は2015年当時厳しいと感じられたかもしれませんが、条件は変化し、今日イランは協定の修正に同意することによって失うよりもはるかに多くを得る立場にあります。
そもそも、イランは核開発計画をかなり前進させてきました。
米国が協定から撤退したことで、イランはより高いレベルのウラン濃縮を追求する事ができました。
イランは2019年7月に低濃縮ウラン備蓄制限に違反し、現在、63%のウラン濃縮に達しています。
イランが必要としている核兵器に必要な90%にはまだ達していませんが、その可能性は、過去よりもはるかに高くなっています。
濃縮を続けることにより、イランは核施設に対する攻撃と科学者の暗殺さえ克服できることを世界に示しました。
国際協定は、イランの核兵器開発に対する絶対的な障害ではありません。
また、核合意はイランの通常兵器の能力に対する大きな障害でもありません。
通常兵器の禁輸は2020年10月に終了し、弾道ミサイルの禁輸は2023年10月に終了します。
イランは、核合意の下での義務を再開することは、軍事計画にほとんど影響がないと計算した可能性があります。
一方、制裁措置を撤廃することは、経済的および地政学的に大きな利益をもたらすでしょう。
米国からの直接的および間接的な財政的圧力により、イランは少数の貿易相手国に依存するようになりました。
2019年までに、中国はイランの輸出の48.3パーセントと国の輸入の27.5パーセントの地位を獲得しました。
イランに対する制裁とその貿易相手国に対する二次的制裁が実施されている限り、イランは経済的に脆弱であり、米国政府の意志に違反することを敢えて行う国々に依存しています。
イランは以前にそのような他国依存の悲惨な結果を経験しています。
19世紀から20世紀にかけて、ロシア、ソビエト連邦、英国、米国と様々な依存関係を築きました。
現在、イランの産業界は国内産業の喪失を恐れており、中国の投資が4,000億ドルにも上る、3月に発表した中国との25年間の包括的戦略的パートナーシップに反対しています。
イラン人は、核合意の回復による制裁、特に銀行規制の撤廃が、自国の経済的独立を再確認するために重要であることを認識しています。
同様に、米国からの圧力が高まっている間、イランは他の2つの大国からの外交的および防御的保護を求める以外にほとんど頼ることができませんでした。
ロシアと中国はどちらも、米国の要求からイランを保護するために、国連安全保障理事会の拒否権と説得力を行使してきました。
それでも、大国の植民地搾取の歴史は、グローバルプレーヤーへの依存に対してイランが深く疑う傾向に変わりはありません。
イラン当局には注意すべき正当な理由があります。ロシアは、2015年に、イランの支配階級内の闘争を利用して核合意を阻止するための秘密の試みを行ったとされています。
そして、最近発表されたイランと中国のパートナーシップを通じて、中国はイランの港と空港への軍事的および監視的アクセスと管理を獲得しようとしています。
核合意を復活させることは、イランにおけるこれらの2つの超大国のグリップを緩めるでしょう。
そうすれば、イランの政治システム内の派閥は、外国からの圧力を受けにくくなり、イランの地政学的自治が達成されます。
これらの理由から、ロウハニ大統領の表面上厳しい姿勢とは裏腹に、イランはウィーンで交渉を行っています。
明らかに、イランは、核合意の下で2015年から2018年の間に行ったように、再び米国と協力する準備ができています。
米国の政策立案者は、2015年への単なる復帰以上のものを求めています。
イランの指導者たちは、柔軟です。ハメネイは3月21日の年次全国演説で、イランが「イランに有利」である限り、つまりイランとその政権に利益をもたらす限り、イランは取引の修正を受け入れる可能性があると示唆しました。
その結果、外交は現実的に非常に多くのことを達成できます。
取引の再実装だけでなく、濃縮の抜け穴の監視、高度な遠心分離機の管理、弾道ミサイルの禁輸措置の延長、タイムラインの延長などのアップグレードも可能です。
これらの目標を達成するために、米国は、欧州連合やロシアなどを介して話すのをやめ、イランと直接交渉するためにウィーンの交渉に参加する必要があります。
これらの会合で、米国は、核合意の大幅な強化が将来の制裁のリスクを減らすことを強調しなければなりません。
中露と米国を手玉にとるペルシャ人の交渉力
私も過去にペルシャ商人と商談を行った経験がありますが、その多くは悪賢いとさえ形容できる現実主義者であり、相手の弱みを徹底的に突いてくる無類の交渉上手でした。
一方で世界最強の帝国であったペルシャ帝国の流れを引く民族として強い誇りを持っており、契約にサインするまでは猛烈に厳しい交渉を行いますが、一旦契約すればその約束は守るという側面もあります。
国ができてから数百年の歴史しかない米国など、数千年の歴史を持つイランにとってみれば赤子の手をひねる様なものだと内心は思っているのではないでしょうか。
しかし、イランにも弱みがあります。
それは米国の経済制裁です。
米国の経済制裁は、イランと米国の二国間の貿易が影響を受けると理解されがちですが、実はそうではないのです。
例えば日本企業がイランと取引すれば、その日本企業は米国でビジネスができなくなる仕組みになっているのです。
これは事実上、企業に米国とイランどちらを取るのか二者択一を迫るもので、答えは明らかです。
イランはこの米国制裁に相当大きなダメージを受けています。
事実上、西側先進国との取引ができなくなっているのです。
油も買ってもらえません。
彼らは現実主義者ですから、この制裁が緩和されるなら、相応の妥協を行うでしょう。
バイデン大統領には有能な知恵袋がいます。
それは安全保障担当補佐官のジェイク サリバンです。彼はユダヤ系です。
要するにイランの核合意交渉はユダヤ人とペルシャ人の間の交渉なのです。
サリバン氏はイランの弱みを徹底的に分析し、イランから最大限の譲歩をひきだそうとしているものと思われます。
この交渉結果は見ものです。
一見、イランは中国やロシアの側にあると思われますが、これも米国との交渉を有利に進めるためのイランの作戦と思われます。
彼らは損得勘定で動きますので、中露と米国の両方を天秤にかけて自分たちに有利な方を選ぶでしょう。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。