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真の技術革新を達成する為に必要な原則

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砂漠の中から金貨を発掘するDARPA

今回の新型コロナ感染を抑止する上でワクチンが果たす役割は想像以上に大きいものがあります。

今までインフルエンザの注射を打ってもあまり効かなかった方もおられると思いますが、新型コロナワクチンの中には90%以上の可能性で感染を予防するものも見られます。

このワクチンを支えている技術はメッセンジャーRNAですが、その技術開発は2013年にアメリカの国防高等研究計画局(DARPA)の支援から始まった模様です。

英誌EconomistがこのDARPAについて「A growing number of governments hope to clone America’s DARPA -They will not succeed unless they adopt the spirit which motivates it」(多くの政府がアメリカのDARPAを複製したいと考えているが、やる気を起こさせる仕組みを採用しないと成功は覚束ない)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

英誌Economist記事要約

メッセンジャー RNA を使用してワクチンを作成することは、立証されていないアイデアでした。

かし、それが成功すれば、感染症や生物兵器に対する保護を提供することによって、医学に革命をもたらすと考えられました。

そのため、2013 年にアメリカの国防高等研究計画局 (DARPA) は賭けに出ました。

このアイデアを開発するために、モデルナという小さな新しい会社に 2,500 万ドル(約27億円)を授与しました。

8 年後、1 億 7,500 万回以上投与されたモデルナのワクチンは、気象衛星、GPS、ドローン、ステルス技術、音声インターフェース、パソコン、インターネットなどDARPAが過去に支援した著名プロジェクトの仲間入りをしました。

 

それは現代世界を形作った機関であり、その成功は同様の機関を設立させました。

アメリカには、国土安全保障、諜報、エネルギーに関する ARPA と、防衛に関する ARPA があります。

バイデン大統領は議会に、医療のための同様の機関をを確立するために65億ドルを要求し、「癌を終わらせる」ことを誓いました。

彼の政権は、気候変動に取り組むための同様の計画も持っています。

ドイツは最近、そのような機関を 2 つ設立しました。

1 つは民事向け(破壊的イノベーション連邦庁、SPRIN-D) で、もう 1 つは軍事向け (サイバーセキュリティ イノベーション庁) です。

日本版は「ムーンショット目標」と呼ばれています。

英国では、高等研究計画庁 (UK ARPA )の法案が議会を通過しています。

 

先進国の政府が 研究開発により多くを費やすようになると、未来を描く (そうすることで巨大な産業を生み出す) という機関の構想は魅力的です。

DARPA の成功は、それが単なる空想ではないことを示唆しています。

多くの国で、資金調達を停滞させる官僚主義が問題視されており、DARPA モデルがその回避手段を提供できることが期待されています。

DARPA をコピーするには、名前をコピーするだけでは不十分です。

そして、DAPRAを成功させた原則、つまり政治家にとってやっかいな原則へのコミットメントも必要です。

 

紙の上では、アプローチは単純です。

ベンチャー全体を成功させるために必要な作業は、ほんの一握りの成功案件の為に、巨大で無謀な賭けをする事です。

アメリカのエネルギー機関であるエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の創設者であるアルン・マジュンダルは、「すべてのプロジェクトが成功しているのであれば、十分な努力をしていない」と述べています。

こうしたギャンブルをする人々は、産業界、学界、その他の場所から来ていますが、知識の最先端にいる必要があります。

「最先端にいる人は、最先端が何であるかを知っています。他の人は知りません。」と マジュンダル博士は言います。

これらの人々には、共通の目標を達成する為に優秀な研究者を集めるためのリソースが与えられ、失敗することへの許可、さらには励ましさえも与えられます。

 

それは、通常の研究開発機関の対極を成します。

DARPA は、官僚主義を骨の髄まで取り除きます (1965 年、インターネットの先駆けとなった国を横断するコンピュータ ネットワークの研究開発に100 万ドルを提供する事を決めた会議はわずか 15 分で終了しました)。

仕事は全て外注です。

DARPAには、少数の部長の下、100人未満のプログラムマネージャーがいて、固定の短期契約で雇用されています。

これらのマネージャーは、個人の利益ではなく、特定の結果を生み出すことを目的としていますが、ベンチャーキャピタリストと同じように行動します。

現在のプロジェクトには、敵のゲノム編集技術の使用から兵士を保護する方法を考案するために、人工知能に昆虫の神経系を模倣させるプロジェクトまで含まれています。

 

DAPRAを模倣しようとする機関が直面する最初の課題は、そのような実験を可能にする環境確保です。

ドイツのSPRIN-D は、これがどれほど難しいかを示しています。

同機関はドイツ政府によって承認されましたが、「その後、連邦会計検査院がやって来ました」と、SPRIN-Dの責任者であるバーバラ・ディールはため息をつきます。.

監査人は標準的な公共部門の調達規則を適用させ、雇うことができる人や取れるリスクを制限しました。

ディール氏は、既存の政府省庁が機関の理事会を通じて影響力を行使し、機関の自由な運営を妨害していると述べています。

 

政治的干渉からの自由がなければ、最先端の人々のリスクを冒す本能は抑制されます。

ドイツのサイバーセキュリティ イノベーション庁の管理責任者と研究責任者は、政治的干渉に苛立ち、最近辞任しました。

アメリカでは、2002 年に国土安全保障ARPAが設立されましたが、国土安全保障省との権力闘争に巻き込まれ、成果を上げるために苦労しています。

 

オバマ政権時代の官僚であり、ARPA-H(DAPRAの医療バージョン)の支持者でもあるマイケル・ステビンズ氏は、DARPAの誰かが新しい機関を率いるために採用されることを望んでいます。.

DARPA の自由奔放な文化を再現することは非常に困難な作業であり、DARPA 自体が失敗に終わったこともあります。

1960 年代後半から 1970 年代前半にかけて休止期間を経ています。

多くの人が DARPA から学んだ教訓は、単なる困難が何かを避ける理由にはならないということです。

逆にそれを行う理由にもなるかもしれません。

アメリカがアメリカたる所以

アメリカが世界の超大国として君臨しているのは、もちろんその経済力や軍事力によるところが大きいのですが、やはり研究開発力が抜きんでている事が最大の要因だと思います。

それにしても、インターネット、パソコン、GPSの研究開発まで国営のDARPAが支援していたとは知りませんでした。

今を時めくGAFAはDARPAが支援した技術によって成り立っていると言っても過言ではありません。

 

海のものとも山のものともつかない技術を発掘し、育て上げる事は極めて難易度が高いものです。

一方、誰もがその将来性を疑問視している様なものこそ、国の機関が取り上げる価値があるわけで、経済合理性や目先の成功を追求するのであれば、政府機関は不要です。

それこそ膨大な資金をドブに捨てるつもりで、賭ける勇気が必要です。

その為には、最先端の技術の目利きに采配を任せ、政治家は黙ってその責任だけを取る度量が必要でしょう。

ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶先生は「基礎研究に巨額の金を注込め、政治家は黙っていなさい」とおっしゃりますが、それが最善の策なのだと思います。

そうすれば、日本の若手研究者にも資金が行き渡り、子供たちも将来科学の道を目指そうという気になるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。