非対称性とは
最近安全保障に関する記事を読んでいると、頻繁に非対称性(asymmetric)という言葉が出てきます。
戦闘における非対称性というのは、Wikipediaによれば、相手と同じ戦術では勝利が困難な交戦集団が、相手にとって予想も対抗も困難な別の手段によって戦闘をしかけることを指す様です。
一般にはテロやゲリラ戦を指す言葉として認識されていましたが、最近は中国やロシアが米国に仕掛けるサイバー攻撃などもこれに含まれる様です。
サイバー攻撃に加えて、最近の紛争で頻繁に使われ始めたドローンも非対称性を生む兵器として注目されています。
米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が最近の国際紛争について使用されたトルコ製ドローンに関してArmed Low-cost Drones Made by Turkey Reshape Battlefield and Geopolitics(トルコ製の低価格攻撃ドローンは戦術と地政学を一変させた)と題する記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
WSJ記事要約
ロシア製の T-72 戦車のそばでくつろいでいる兵士。
一瞬後、ドローンから発射されたミサイルが戦車に激突し、オレンジ色の閃光とともに爆発し、男を吹き飛ばし、戦車を大破させました。
このシーンは、昨年アゼルバイジャンでオンラインに投稿された数十の空中ビデオの 1 つであり、新しい武器であるドローンの威力を誇示しています。
ドローンは、ロシアが支援するアルメニア軍によって20年以上保持されていたナゴルノ・カラバフ地域の領土をアゼルバイジャンが取り戻すのに役立ちました。
世界中の小規模な軍隊が、ミサイルを装備した安価なドローンを装甲車両に対して配備しています。
これは、昨年の地域紛争で成功を収めた新しい戦術であり、トルコとロシア間の戦略的バランスを変化させました。
トルコで製造されたドローンは、シリア、リビア、アゼルバイジャンで行われた戦闘で、ロシア製の戦車やその他の装甲車両、防空システムを破壊しました。
これらのドローンは、最先端の技術を備えた高価な戦闘車両と同様に、安価で効果的な兵器が戦争の形を変えていく事を示しています。
中国もまた、中東とアフリカへの主要な戦争用ドローンの輸出国になっています。イラクとイエメンのイラン支援グループは、中国製ドローンを使用してサウジアラビアを攻撃しました。
英国のウォレス国防相は昨年の演説で、トルコの無人機がシリア軍に大きな損失を与えた事に言及し、「戦争の流れを変える可能性がある。」と述べました。
ドローンは、隠蔽性が不十分な装甲車両を無力化することができます。
これは、高価な戦闘機に割り当てられることが多い仕事です。
ドローンは 24 時間静かに空中に留まり、防空システムの隙間を見つけ、戦闘機や砲兵による標的攻撃を支援したり、独自にミサイルを発射したりすることができます。
米国を含む各国の軍隊は、こうした技術の発展に追い付くため、防空システムの強化を図っており、その一環として、低コストのドローンを高コストのミサイルを使うことなく破壊する方法を模索しています。
イスラエルと米国は長い間、著名な敵を標的とするテロ対策作戦で高性能ドローンを使用してきました。
しかし、両国は拡散を恐れて、同盟国にさえも最先端モデルを売ることをためらってきました。
しかし、技術の進歩により、安価な代替品が生み出されています。
最新の武装ドローン革命の旗手は、昨年、トルコ周辺の戦場に登場したトルコ製バイラクタル TB2 です。
アメリカの最新型ドローン MQ-9 と比較して、TB2 は 4 つのレーザー誘導ミサイルを備えた軽武装です。
しかし、それは実用的で信頼性が高く、20 世紀に戦争を変えたソビエトのカラシニコフ AK-47 ライフルを彷彿とさせます。
1984 年に自動車部品の製造を開始したトルコのドローンメーカー、バイカル社は、コストパフォーマンスに優れていると自負しています。
カタールとウクライナは既に顧客です。
北大西洋条約機構 (NATO) の加盟国であるポーランドは先月、24機のTB2 ドローンを購入すると発表しました。
TB2 ドローンは、2020 年初頭にシリア上空で国際的な注目を集めました。
2月の終わり頃、ロシアに支援されたシリア軍は、トルコが支援する反政府勢力が支配していたイドリブ市に進攻しました。
空襲で 30 人以上のトルコ兵が死亡した後、トルコはドローンを使って反撃に出ました。
バイカル社によると、静かでレーダーに検知されにくいドローンは、何時間も飛行して防空システムの穴を探します。
こうした防空システムは一度突破されれば、「ドミノのタイルのように」一気に崩壊するといいます。
12機ほどの集団で運用されるドローンが一斉に標的を攻撃します。
防衛産業を監督するトルコ国家機関の責任者であるデミール氏は、これらのドローンは低価格であるため、軍はより多くのリスクを冒すことができると述べました。
「多少失ったとしても、別のドローンがターゲットをヒットすれば問題はない」と彼は述べました。
昨年の春、TB2 は、国連の支援を受けているリビア政府にとっても、内戦の流れを変える一助となり、ロシアなどの支援を受けた反乱軍の攻撃を食い止めました。
これらドローンの成功は、米同盟国の大統領で、時に扱いが厄介なトルコのエルドアン氏が、多くの部隊や高価な軍装備をリスクにさらすことなく、地域で影響力を拡大するのを手助けしました。
トルコの軍事能力の向上はNATOにとってメリットとなる可能性がある一方、このドローンを展開したり海外に売却したりできるようになったことで、さらに独自色の濃い外交、安全保障政策を目指すエルドアン氏の独断的な姿勢に拍車をかける可能性があることを他のNATO加盟国は懸念しています。
ウクライナは 2019 年 1 月にトルコから TB2 ドローンを購入する契約に署名し、これまでに少なくとも 6 機を受け取っており、ウクライナ政府は共同生産に向けて交渉中です。
この国は、ドローンが 2014 年のロシアの侵略の繰り返しを思いとどまらせることを望んでいます。
トルコのウクライナへのドローン販売はロシアを怒らせました。
トルコの新型コロナ感染者の増加を理由に、ロシアは4月に両国間の空の旅を停止し、ロシア人観光客を心待ちにするトルコにダメージを与えました。
トルコはロシアと緊密なエネルギー関係を築いており、ロシアの高度な防空システムを購入し、米国からの制裁につながりました。
トルコの当局者は、ロシアとの対立を求めているのではないと述べています。
ドローンが引き起こす問題とトルコの地政学的価値
ドローンは元々は米軍の秘密兵器でした。
イラク、アフガニスタン、パキスタン、シリア等で米軍のドローンは数多くのテロリストをドローンで殺害してきました。
最近で言えばイランの革命防衛隊のスレイマニ司令官を殺害したのも米軍のドローンでした。
米軍がドローンを重用した理由は、米軍兵士の損耗が少ないため、戦争がエスカレートしにくいというものだったのですが、ドローンはテロリストだけではなく民間人も犠牲にします。
最近の調査では、ドローン攻撃の被害者の三分の一は民間人と言われています。
この問題に加えて、米国にとって頭の痛い問題は、このドローン技術が各国に拡散し、それに対する防空システムも考慮しないといけなくなった点です。
ドローンが群れになって襲ってきた場合、これを防御する防空システムは理論的には可能かもしれませんが、そのコストは膨大になります。
もう一つの重要なポイントは、NATOにとってのトルコの重要性です。
NATOの仮想敵国はロシアです。
今回プーチン大統領を激怒させたのは、トルコによるウクライナへのドローン供与です。
それだけロシアがトルコの軍事力を高く評価している事を裏付けています。
エルドアン大統領とバイデン大統領の個人的関係はさておき、NATOがロシアに効果的に対抗したいのであれば、そしてトルコの野心を抑えたいのであれば、NATO内にトルコを引き続き置いておくべきと思います。
オスマン帝国時代からロシアの南下政策を食い止めてきたのはトルコである事は歴史上の事実です。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。